決着
鞘に風が集まり風を纏う。その下から紺碧に輝く刀身が姿が顕現する。
「みんな離れてください!」
アユムは叫ぶやいなやグヒャダルに向かって突貫する。
「ハアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
地面を滑るように突き進むアユム。風を切って進みながら、その風をその身に宿していく。その姿は碧い風の矢となってグヒャダルと衝突する。グヒャダルのマグマの鎧と風の矢、衝突の余波は周囲に分散し、熱波となって地面を切り裂き、溶かす。
「うおおおおお! いっけええええ! アユムーーーーーーーーーー!」
状況にあてられたのかカインがその余波を浴びながら負けじと大声でアユムに叫ぶ。カインを皮切りに他のプレイヤーからも声援が飛ぶ。
「いっけーーーーーーーーー!」
「やっちまえーーーーーーーーーー!」
「決めちゃってーーーーー!」
声援に後押しされるように一歩一歩とアユムは踏み込み、刃をグヒャダルに近づけていく。
「僕は……僕は……」
歯を食いしばり、前に、前にただ憎い目の前の敵を貫くために。彼自身の想いを叶えるために。
「大切な人を守れる人間になりたい!」
『お前の願い確かに受け取った』
〈名も無き武器〝嵐帝〟があなたを主と認めました。〝嵐帝〟の封印を解除します〉
瞬間―――アユムは風となった。
より強い風が戦場に吹き荒れ、一瞬アユムの姿を見逃した時にはもう姿はそこにはなく、グヒャダルはそのままそこにいるが歩みを止めている。場はただ静寂に包まれる。誰も動かない。誰も喋らない。誰もが視線だけを動かして消えてしまったアユムの姿を探す。
「アユム……」
ツボミは心配で駆けだす。いまだグヒャダルの姿は健在。そんな中で近づくのは不用心すぎるが、アユムの安否が気になるツボミにはそんなことを思考できる余裕すらなかった。
その気持ちが痛いほど伝わってくるからフィリアンを始め〝ソレイユ〟のメンバーは制止の声をかけず、そっといつでもフォローできる位置にまで移動する。そのまま小走りに駆けるツボミに付いて行きながらグヒャダルに近づいた時、初めてその異変を目にすることができた。
「これは……」
「アユムも派手にやったものね~」
フィリアンは軽い調子で呟いた。グヒャダルの体は中を刳り貫かれていた。前から見ないと分からなかったが、第三の眼から一直線に物差しでも使って線を引いたように綺麗に刳り貫かれている。その断面はポリゴン片となりすでに崩壊が進んでいる。完全にこちらの勝利だが、あまりの凄惨さにしばらくそれを眺める。
「……それにしてもアユムお兄ちゃんはどこに消えちゃったんだろう?」
「パーティーの索敵にも引っかからないからな。どういうことだ?」
「今このフィールドから別のフィールドに移ってしまったか。もしくは……」
ドレンが口を噤んだのは確実に最悪の可能性だからだ。もちろん全員がアユムのログアウトを否定している。否定しているがそれを信じ切れるほど人は強くない。もしも、もしかしたら、とイフの可能性を頭の中で繰り返してしまう。それが自分をさらに苦しめることとなってもやめることはできない。
「アユム……どこにいっちゃったのよ?」
ツボミはもう声が震え、眼から涙を零している。いつ膝を付いてしまってもおかしくない状態だ。そんな時、ツボミの頬を暖かい風がそっと優しく撫でた。
「ツボミさん。泣かないでください。僕はここにいますから」
緩やかな風がツボミの前で旋風を起こし、風からポリゴンに変わり、アユムの姿になっていく。数秒後には先程と寸分変わらない姿でアユムが現れた。
「ただいまツボミさん」
申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうな笑みを浮かべるアユム。
「アユム!」
すごい勢いで飛びついたツボミ。さすがに耐え切れず倒れこむ。
「ごめんなさいツボミさん。心配お掛けしました」
泣きながら抱き締めてくるツボミの背中を撫でながら、周りを見渡すとフィリアンとアンとカインは面白そうに笑みを浮かべ、ドレンは苦笑いを、フィフィはいつもの無表情だけれどどことなく嬉しそうな表情をしている。
それから数分ツボミは泣き続け、アユムが慰め続ける図を黙って見守る空気が出来上がっていた。
そしてようやく泣きやんだツボミは自分がどれだけ恥ずかしい醜態を曝したのか今になってようやく理解し、顔を真っ赤にして縮こまった。
「照れなさんな。二人の熱愛っぷりはしっかり見せてもらったから」
「そうそう。美しきことはよきことかなっていうじゃない確か」
「お二人ともからかわれるのはそれくらいにしなさい。それでアユムとりあえず説明をして頂けると嬉しいのですが?」
ドレンがいつまでも弄り回しそうな二人を窘めて、アユムに追及する。
「はい。それはもちろんなんですが……ごめんなさいちょっと休ませてもらい……ますね……」
言うと同時に足元から崩れ落ちた。
「おっと」
ドレンが支えてやる。
「アユム!」
再びツボミが血相を変えて近づいてくるが、ドレンは顔の前で指を立てて静かにするようにと意思表示をした。
「眠っただけです。相当消耗したのでしょう。先にホームに戻ってください。我々も後で行きますから」
ドレンはアユムの体を担ぎあげ、ツボミにそっと背負わした。
「それはわかったけど、皆はどうするの?」
「私たちは〝ソレイユ〟として最後の仕上げをしなければなりませんから。すぐに私たちもホームに戻りますから。アユムが起きたらパーティでも開きましょう」
「おっいいね~パーティ!」
「その前にあなたは演説ですからね」
「ちっめんどくさいな」
舌打ちプラス悪態を付きつつもさっさとプレイヤーたちの方に歩き出している。何万ものプレイヤーの前で演説することになんのプレッシャーも感じていないのかその足取りは普段とまったく変わらない。
「それじゃ私たちも行きます。では後程」
「また後でね」
「まったくあいつの心臓は鋼かよ……俺だってあれだけの人の前に立てば足が竦むっつーのに」
「……めんどくさいな……」
ドレン、アン、カイン、フィフィの順でアユムを起こさないように小声で囁いた。
頼りになる仲間の背を見送ってツボミは砦の中に向かう。そこにあるポータルからホームに戻るためだ。
「頑張り過ぎなんだから」
背中から心地良さそうに繰り返される寝息を聞きながらツボミは一人呟いた。
こうしてクエストは無事に終了した。
読んでくださった方ありがとうございます。




