解禁
アユムとツボミは砦の前で静かに立ち、回復を待っている。ツボミの体力が少し回復すればすぐにそれを使ってアユムに回復魔法をかける。
「皆さん頑張ってください……」
アユムは何もできない自分が歯痒くて手を白くなるまで柄を握り締め、唇を強く噛み締める。今も直接攻撃が効かないからと各々思いつく限りの方法で攻撃を加えている。地面を砕いて礫を飛ばす者。谷の上から岩を落とす者。進路方向に穴を掘って足止めしようとする者。みんなまだ諦めていない。諦めるわけにはいかないのだ。
「焦っちゃダメ。焦ったら普段できることも出来なくなるんだから。アユムが決めないとここでみんな死んじゃう可能性だってある」
「分かってます。みんなの命が僕にかかっているんだって……でもこれで倒せなかったらと考えると怖いんです」
抑えきれないのか体全体が小刻みに震えている。そんなアユムを見てられず、ツボミは背中から抱き締める。
「そんなの当たり前だよ。誰だってこんなことになれば震えるもの。人の命を背負うってことはそういうことなんだから。人の命を奪うよりも自分の失敗のせいで人の命が奪われる方がずっと苦しいと思うよ」
「ツボミさん」
「だけどアユム。みんなは君だから出来ると信じた。君だから託せると信じた。人の期待はプレッシャーになる。でも人はプレッシャーに打ち勝つだけの強さがあるのだから。それを人は可能性って呼ぶの。希望でもいいわよ。私は目が見えないからみんながどんだけ頑張ってるか直接は見えない。でもね見えないからこそ見えるものもあるのよ」
「見えないから見えるもの……ですか?」
「そう。みんな希望を信じてる。誰一人絶望や負の感情を抱いてないの。こんな状況なんだからそうなってもおかしくないのに。一人が二人を信じて。その二人が他の二人を信じて。互いが互いを信じられる、あそこにあるのは人の可能性なんだよ。アユムはその一つの可能性。だから例えアユムが失敗したとしても他の可能性に賭けることだって出来る。だから気負わないで」
「そうですね……可能性……うん、みんながいますもんね」
スーハーとアユムが大きく深呼吸をする。するたびに震えが小さくなり、最後には止まった。
「僕は僕に出来ることを……僕が示せる可能性を……希望の一つに僕は……」
『祈りを捧げよ』
「えっ?」
いきなり聞こえた声にアユムは辺りをキョロキョロと見渡す。
「どうしたの?」
「いえ、声が聞こえた気がしたんです」
「どんな声だったの?」
「気品のある声でした。女性のような声にも聞こえたし、男性のような声にも聞こえる不思議な声でした」
『願いを捧げよ』
「また聞こえました」
「なんて言ってたの?」
「最初は『祈りを捧げよ』とさっきは『願いを捧げよ』と言ってました」
「祈りと願いね。それだけならなんだか神様がアユムに話しかけてるみたいね」
「神様ですか……今なら本気で願ってしまいそうです」
『詩を捧げよ』
その声がアユムの頭に響いた瞬間、アユムの目の前に赤いウインドウが勝手に開き、いくつものアルファベットと数字が流れる。数分間流れ続けると最後に大きく一文が映し出された。
〈条件を全てクリアしました。〝葬送システム〟を解禁します〉
「〝葬送システム〟?」
「なんなの〝葬送システム〟って?」
同じウインドウを見てたツボミが呟くがアユムに答えられるわけもなく近くに答えられる人もいない。
「どういうことなんでしょう?」
アユムはなにはともあれウインドウを消そうとその赤いウインドウに触れる。
触れるか、触れないかのところでアユムの手が弾かれた。
「アユム!?」
ツボミが心配な声を上げるがアユムは弾かれた手も中空のままその瞳は焦点が合っていない。その異変をすぐに察したツボミは前に回りこみ、アユムの顔を覗き込む。だがすぐにアユムは意識を取り戻した。
「ツボミさん? どうかしました?」
「大丈夫? 意識が飛んでたみたいだけど」
「あっはい大丈夫です。いきなり頭の中に情報が流れてきたんです」
「情報って?」
「〝葬送システム〟の使い方です」
「なんなのか分かったの?」
「はい。きっとグヒャダルを倒すこともできると思います」
「そうなんだ……うん、私はアユムの事を信頼してる。いっちゃって」
「はい」
柄を両手で握り締めて意識を統一。MPは完全に使い切り、HPも雀の涙しかないはずなのに風は渦巻き、唸り、アユムの意思に従っている。
【僕は風と共に歩きます
歩みは遅く でも確実に
一歩一歩を踏みしめて
空に導かれ 雲に見守られながら
ただ願いと想いを胸に抱いて
さぁ聞き届けて
僕の想いを
僕の願いを】
読んでくださった方ありがとうございます。




