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MUSIQUE OF MAGIE ONLINE  作者: 皇 欠
第一章~風の少年と水の少女~
34/37

最終防衛



「見えてきた。全員気を引き締めろ。仲間たちが命を賭して削った獲物だ。ここで確実にとどめを刺すぞ!」


 フィリアンの咆哮は砦にいる全てのプレイヤーに轟いた。


「アユム返事はしなくていい。あんたはそれで最後の止めを奴の眼を狙って突き刺しなさい」


 アユムの手にはすでに剣の常識を超えた風の太刀が握られている。圧縮された風はすでに眼で目視出来るほどになっている。だが代償として払ったものはアユムの命そのものだ。すでにMPは底をついており、それでも演奏をやめないアユムはHPを削って更に〝魔法剣〟を強くしている。現在進行形でアユムのHPは半分を超え、その命を糧に風の太刀はより力を得る。


「総員突撃!!」


 フィリアンが勇ましく突撃の号令をかける。地響きを立てながら突貫していくプレイヤーたちその背を見送りながら一心不乱に力を注ぐアユム。先頭を駆けるフィリアンはいの一番にグヒャダルを射程範囲に収め、突撃の勢いをそのままに槍をグヒャダルの顔の下に潜り込ませ勝ち上げる。


「オラ! さっさとくたばりなさい!」


 金属で出来てるはずの槍がしなり、踏み込んだ足は地盤を砕き、グヒャダルの巨体を一瞬ではあるが浮かせた。


「そらそらもう一丁!」


 クルンとその場で回転したフィリアンは遠心力を乗せた一撃をお見舞いする。浮かび上がりはしなかったが怯むには十分の威力があった。


「ガンガン行くわよ!」


 集中して顔を攻撃するフィリアン。彼女とその部隊の役割は今まで温存してきた全てを持って残ったグヒャダルのHPを削りきるのが仕事だ。背中で角を破壊していたドレンが的確に指示を出す。


「傷ついているものは一旦引いてHPを回復させろ! フィリアン隊は抜けたところを埋めよ!」


 その指示通りに足元で攻撃していたプレイヤーが一目散にグヒャダルから距離を取り、代わりにフィリアン隊が張り付いた。


「ドレン! そっちの角まだ折れない!?」

「今最後の一本です!」

「オーケー!」


 言いながら槍を叩きつける。掬いあげる、薙ぎ払い、斬り付け、貫く。ありとあらゆる攻撃をフィリアンは繰り出す。弾かれようが阻まれようが躱されようがお構いなしに槍を振り回し続ける。だが、


「飽きたな……」

「真面目にやってください!」


 フィリアンの呟きをバッチリ聞いていたドレンは即ツッコミを入れた。


「じれったいわね」


 フィリアンは左手で素早くウインドウを操作してもう一本槍を取り出す。


「今すぐそこから離れなさい!」

「フィリアンお前何する気だ!?」


 カインの叫びに端的にそしてどこか面白そうにフィリアンは返した。


「投擲」


 言うやいなや体全体を弓のようにしならせて放たれた槍は空気の壁をぶち破る速度で飛翔し最後の一本に突き刺さる。


「離れて!」


 その角に攻撃していたドレンがツボミとフィフィを抱えあげて背から飛び降りた。

 瞬閃―――

 グヒャダルの背中が爆発した。ドレンに抱えあげられながらツボミはフィリアンに叫ぶ。


「フィリアンあんた後で説教だから~~~~!」

「でも折れたから結果往来でしょ?」

「私たちを殺す気か!」

「ドレンが助けるって信じてたから」

「私も協力しますよツボミさん」

「ドレンが裏切った!」


 フィリアンが悲愴にふけるが自業自得である。だが、結果的に最後の角は折れ、グヒャダルの防御力は最低まで下がった。この瞬間を待っていたアユムがグヒャダルに向かって走り出す。


「アユム決めて!」


 ドレンから降ろされたツボミがアユムの背にエールを送る。


「これで終わりだーーーーーーーーーー!」


 刀身三メートルにもなった風の太刀が吸い込まれるようにグヒャダルの眼に深々と突き刺さる。


「■■■■■■■■■■■■■■――――――」


 もう人の耳では聞き取れない音が谷に木霊する。


「やったかな?」


 アユムはステップを踏んで後ろに下がる。グヒャダルは横向きに倒れ、動かなくなる。


「倒したのかな?」


 アユムの傍に来たツボミがアユムに聞いてみるが彼も首を横に振って分かりませんと答える。


「おかしい……倒したらクエストクリアのSEと一緒にグヒャダルはポリゴンになって消えるはずなのに……」


 フィリアンが顎の下に手を置いてそう呟いた。


「全員まだ気を抜かないでなんかいやな予感がする」


 フィリアンが伝達するもすでにプレイヤーの間には安どの空気が流れ、一度緩んだ緊張の糸をもう一度張るのは難しい。そしてフィリアンの予期した通り事態は悪い方に転がる。


「なにか聞こえないか?」


 カインがドレンに尋ねた。


「音ってどのような音です?」

「いやなにかを焼くような音がする気がする」

「?」


 ドレンは疑問に思いながらも耳の横に手を当てて音を集める。


「シュ~~~~~」

「確かにしますね……ですがこの音は何なのでしょう?」

「みんな伏せて!」


 ツボミが隣のアユムに覆い被さりながら叫ぶ。咄嗟の反応はプレイヤーに必要なスキルだ遅れた愚か者はおらず全員地面に伏せる。

 ゴバァ! 何かが抉る音と爆発する音が同時に聞こえ、体の表面を熱風が舐め上げる。体を起こしたプレイヤーたちの間に動揺が走る。


「こんなこと聞いてないわよ」


 フィリアンも体を起こし真正面を見据えて、眉間に皺を寄せている。


「グルルル……」


 そんな唸り声を上げながら、グヒャダルがその巨体を起こし始めている。それだけならまた攻撃を再開するのだが、グヒャダルの体を覆っていた鱗はすっかり剥がれ落ち、その下から赤熱に染まったマグマが覆っていた。それだけでなくグヒャダルの額に三つ目の赤眼が表れている。生物的な眼ではなく一つ目の悪魔が持っているギョロっとした気味の悪い目だ。


「ああもう……おとなしく消えなさい!」


 沸点の低いフィリアンがグヒャダルに突進する。後ろからドレンが制止の声をかけるが、それで止まるフィリアンはフィリアンではなく、突進の勢いを槍に乗せ、疾風の突きを放つ。だが事は簡単にはいかなかった。槍はグヒャダルに届く前にドロっと溶け原型を留めなくなった。


「なに!?」


 フィリアンは急いで槍を引っ込めて距離を取った。


「私の槍が……この野郎よくもやったな!」


 怒り心頭のフィリアンはアイテムボックスからしっちゃかめっちゃかに槍を呼び出しては投げ、呼び出しては投げる。だがそのどれ一つすらグヒャダルに届くことはなく全てドロドロの液体になって消滅した。


「あ~もう腹立つな~!」

「とりあえず落ち着いてください。これ以上槍を無駄遣いするとクロウトが怒りますよ?」

「それはめんどくさいわね」


 あっさりと引き下がるフィリアン。やっぱりドレンさんがこのギルドで一番強いのではと疑問を持ったアユムだった。


「ちっ私の攻撃が効かないってか武器があいつの熱に耐えられないのか……クロウトに言って耐熱武器作ってもらえるかな?」

「無理です。時間が全く足りません。今はまだ動いていませんがいつ動き出すか……あの状態のグヒャダルを倒さないことにはクエストはクリアしたことにはなりませんから」

「魔法はどうだろう?」

「全員MPを使いきっています。無理です」

「ならさ、アユムの〝魔法剣〟なら届くんじゃねえか? あれ実体はないだろ」

「その手があった!」


 期待してフィリアンはアユムの方を振り向くがアユムは青い顔して顔を横に振る。


「ごめんなさい。さっきの〝魔法剣〟にMPもHPも全部注いじゃって今、HP一なんです」


 アユムがステータスウインドウを呼び出して可視状態にしてみんなに示す。


「いい案だと思ったんだがな」

「……ならアユムお兄ちゃんの自然回復を待てばいい」


 フィフィが至極当然と言った感じで発言する。


「だが回復を待ってる時間がねえんだよ」

「……みんなで稼ぐ。仲間なんだから」

「そうだな~それしか手はないよな」

「よしそれで行きましょう。命運は託したわ、アユム。ツボミあんたはアユムに付いててあげなさい」

「いいの?」

「大丈夫よ。それにツボミが隣にいた方がアユムの回復も速くなるかもしれないしね」


 楽しそうに笑うフィリアン。完全にからかう気だ。だがツボミも負けていない。


「ドレンさん私たちはどこにいたらいいでしょうか?」

「そうですね。砦の門の前でお願いします。あそこにグヒャダルが辿り着いたらゲームオーバーですからね。ギリギリのラインでしょう」

「わかりました。行こうアユム」


 見事なスル―スキルを発動してさっさと去るツボミ。そんなフィリアンにアンが苦笑しながら肩を叩く。


「今回はお前の負けだ。憂さはあれで晴らせ」


 親指で指し示すは動き出そうとするグヒャダルだった。


「総員に告ぐ……何がなんでも! どんな方法でもあいつの足を止めやがれ! 全員突撃‼」




読んでくださった方ありがとうございます。

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