総力戦
「……見えてきたね」
短剣を抜きながらフィフィがそう呟いた。まだツボミは察知できていない。どうやらフィフィは目は相当良いみたいだ。
「どのくらいダメージ与えてる?」
「……んと、さすがお兄ちゃんもう頭の角を折って、肩の角をカインと二人で折り始めてる」
「なら、私たちは背中の角を攻撃しよう」
ふーと一度空気と共に肩に入った余計な力を抜いて、スッと鋭く息を吸う。
「これより魔法による主力攻撃を開始します! 全員準備!」
ツボミは慣れないけれども精一杯の号令をかける。魔法部隊の面々が自分が使える最強の魔法の演奏を開始する。様々な楽器が入り乱れ、競い、高め合い、相乗する。曲が終わるなり先を急ぐように放たれて、魔法の束がグヒャダルに直撃し、いくつも爆発を起こす。だけどその爆煙の下からは傷一つない。だがそんなことは予想できたことすぐに次の魔法を準備する。
「……次の魔法を放ったら私は突入します」
「分かった。私もすぐに行くね」
ツボミはすぐに曲を変更して、広範囲回復魔法を演奏する。味方の全てを癒す恵みの雨をこの曲と共に。
「慈愛と豊穣の雨」
雲一つない空からエメラルドグリーンに輝く雨が降る。雨降る範囲にいる味方と認識するプレイヤーを完全回復できる今ツボミが使える最強の回復魔法だ。MPを全て消費するがどうせこの後魔法は使わないのだから使い切っても問題ない。ウインドウが二つ開いてカインとドレンの声が聞こえてきた。
「ツボミ助かったぜ」
「支援感謝します」
声の向こう側からは固い金属同士がぶつかり合う音が断続的に聞こえてくる。武器を振り回しながら通信してるのだろう。
「……行ってくる」
フィフィが黒い風となって谷から飛び降り、グヒャダルの背中に向かった。
「今、フィフィちゃんが背中に飛び移りました。私も今から行きます」
「了解。俺たちもここが終わったらそっちに行く!」
「グヒャダルもですが、味方の誤射にも十分にお気をつけて」
「はい!」
ツボミは飛び移る前に自分とフィフィの部隊のメンバーに声をかける。
「各々MPが尽きるまで魔法を撃ちまくって! 自身があるものは背中に! ないものは支給された弓で援護射撃をお願いします!」
「了解!」
答えを聞いたツボミはフィフィと同じ要領で谷から飛び出し、グヒャダルの背に飛び乗る。断続的に揺れる背の上ではバランスを取るのも難しい。思わずしゃがんでバランスを立て直す。そんな不安定な足場でもフィフィは軽業師のような動きで自由自在に動き回りそれぞれの角にダメージを与える。背の角の配置関係はサイコロの六のようになっており、それぞれをはね回って移動している。フィフィの身のこなしがなければできない芸当だ。
「フィフィちゃん! 加勢します!」
「……了解」
呟く程度だったがそれで十分。剣を抜き放ち、フィフィと同じように足場の関係ない空中連撃を開始する。今使ってる剣はいつもの剣ではなく、ギルドから支給された貫通力を増した剣である。これならば防御力が異常なグヒャダルにもダメージを通すことができる。
「ハァ!」
ィィィン。弾かれても気にしては駄目だ。すぐに空中で体勢を立て直し、その角を足場に次の角を攻撃する。それを何回も何回も繰り返し、剣が折れたらすぐさま予備を取り出し、また続ける。時たま味方の流れ弾が飛んできたが躱すなり払うなりで対処した。時間の感覚はどんどん間延びして行き、何回剣を振り、どの程度の時間が経ったか分からなくなった時、通信が入る。
「待たせた! 肩終わらしたぜ!」
「そちらに加勢します!」
さすがに消耗しているのだろう。カインとドレンは息を弾ませている。
「……ここは私とツボミお姉ちゃんだけで大丈夫。二人はこいつの足をどうにか止めて」
「オーケー分かったぜ!」
「私はそちらに向かいます」
カインとドレンはすぐさま行動を起こす。
「それじゃ一発ぶちかましますか!」
肩から跳んだカインはその自慢の大剣二振りを下に向けて眼下の標的、グヒャダルの唯一の急所であり、一度しか攻撃できない目へと降下した。カインの自重プラス大剣二振りの重さプラス重力加速度によって普段の攻撃の何倍にも達した突きがグヒャダルの眼球を貫いた。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
グヒャダルが声にならない叫びを上げた。眼を貫かれたのだ。これが人間なら確実にショック死で死ねる。グヒャダルの急所である貫いたことにより、グヒャダルは一度その歩みを止め、膝から崩れ落ちた。グヒャダルの急所を狙えるのは二回左右の眼に一回ずつだ。
そしてこの眼を潰すことによってプレイヤーは大幅な時間稼ぎをすることができる。今のようにグヒャダルが動きを止めるからだ。だが潰された後の眼は頑丈な瞼に覆われ、二度と攻撃を通すことは出来なくなる。だから実質この方法で足止め出来るのは一回、もう片方の眼は全ての角を折り、防御力を最低まで落とした後、その時可能な最大の攻撃を与えるのがセオリーとなっている。ちなみに両方の眼を潰したとしてもグヒャダルはシステムに従って進行するため、視界を奪うことには意味がない。
「総員! この好機を逃すな! 突撃!」
絶妙なタイミングでカインの檄が飛ぶ。鼓舞されたプレイヤーたちは武器を振り回し、グヒャダルにダメージを与えていく。
「ハァァァ!」
背の応援に来てくれたドレンが加速しながら角の間を通り、すれ違いざまにいくつもの斬撃を入れていく。
「全ての角に罅が入っています! 後少しです! 気を引き締めていきましょう!」
五分後再びグヒャダルは動き出した。砦まであと少し、このクエストもそろそろ幕引きだ。
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