金属龍
二日後、アユム達は日本領の西方にある。オルスール砦に来ていた。オルスール砦は左右を崖に挟まれ、守りやすく、攻めにくい作りをしている。また大型モンスターに対しても崖の上から矢や魔法で攻撃することが出来、また飛び乗れるためプレイヤー側が有利となる地形をしている。それだけのアドバンテージを貰っても“金属龍〟グヒャダルには苦戦を強いられることになることは全員理解している。フィリアン達、〝ソレイユ〟のメンバーも厳しい顔をして砦の上から今か今かと待ち望んでいる。
「まだ出現まで時間あるかしら?」
フィリアンがメニューウインドウを開いてそこに表示される時間を確認してドレンに問いかける。
「そればっかりはシステムが決めることですので分かりかねますが、でも私の予測ではそろそろと思われます」
現在の時間は午前十時。天候は晴れで遠くまで見渡せる。大型モンスターイベントでは決まった時刻の開始時間がない。システムがランダムで出現時刻を決めるからだ。ひどいものではその日付になった途端つまり零時スタートとかもあったことがある。
「ならドレンの予測を信じて全員に通達! 戦闘配備それぞれ覚悟を決めて挑め!」
「了解しました」
フィリアンは力強く、ドレンは物静かにその要望に答える。
「あなた達もそれぞれの持ち場にお願い」
「しくじるなよ!」
「あんたもね」
「どうか皆さんお気をつけて」
「……気をつけてね」
「頑張れよ」
「僕も全力を出します」
「無茶はしないでね」
各々が思い思いに声を掛け合って持ち場に急ぐ。グヒャダルが出現する谷の入り口にはカインとアンとドレンが、中盤でツボミとフィフィが、砦近くにフィリアンとアユムが率いる部隊がそれぞれ展開されている。場一体を緊張感が覆い尽くし、皆一様に自らの獲物を握る手に力が入る。そしてそのときはすぐにやってきた。重厚なドラムの音を思わせるポップ音と共にその巨体を作り出すポリゴンが形成されていく。黒曜石のような輝く黒と鋭い鱗に覆われ、十本の角を生やした姿が現れると同時にアンの鋭い声がフィールドに木霊した。
「全員構え~~~~~~~! 撃て!」
アンの号令と共に部隊から一斉に矢が放たれる。今回の作戦の第一段階熔毒矢によるダメージ蓄積と防御力低下を狙った射撃だ。それと同時に谷の底で待機していたカイン、ドレンの部隊が一番狙いやすい頭の角の攻撃と足止めを行う。
「カインと私で角を狙う! 他の者は足止めに全力を尽くせ!」
ドレンが抜剣と同時に号令をかけ、全員が「応!」と答える。
「遅れるなよ相棒」
「それは私のセリフです」
カインは愛用の大剣を二振り、同じくドレンも三日月刀を二振り構える。
「はぁぁぁぁ!!!!」
「おおおおお!!!!」
二人は自分の十倍以上でかいグヒャダルに恐れを抱かずに突っ込んだ。それが部隊の仲間の士気をさらに高める。怒号と共に突っ込み攻撃を開始する。その状況をシステムによる上空視点から見守るアユム。
「誰も死なないで下さい」
「そうならないために作戦を立てて、勇士を募ったんだ。誰も死ぬことは望んでないさ」
「フィリアンさん……」
「このクエストをクリアしないとゲームオーバーで私たち皆死ぬかもしれない。そんなの嫌でしょ。だから頑張らないとね。愛しのツボミさんのためにも」
「今ここでツボミさんは関係ないじゃないですか!?」
「何言ってるの。人は守りたい何かがあるから生きてるのよ。その何かが明確になればなるほど、人はそれだけ力を発揮することができるんじゃない。その大事なものを心の中心に据えて前を見なさい。今私たちは安全な場所にいるけどすぐ出番が来る。そして私たちで仕留められなかったら全てが水泡に帰すんだ。だから心配するのもいいけどしっかり集中しなさい」
「そうですね……分かりました。集中……集中……」
ウインドウをアイテムに切り替えてその中なら柄を取り出す。
「全てのMP、全てのHPを注ぎ込みます!」
アユムが柄を両手で握って曲を開始する。いつもとは違う。リズミカルではなく、流れるように、たゆたうように、戦場に流れる殺伐とした空気を払拭する。アユムが演奏を始めると同時にツボミとフィフィの第二部隊と交戦に入った。
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