鍛錬
アユムとドレンは訓練の真っ最中だった。二つの銀閃が互いの間で火花を散らしては離れ再び散らすを繰り返している。
「アユム君。スピードが落ちてきましたよ。しっかり速度を保って振るい、一撃一撃に体重を乗せて攻撃しなさい。軽い攻撃を連撃にしたところで意味が半減してしまいますよ!」
「はい‼」
アユムは意識して刀を振るう速度を上げる。だがその分振るう事に意識を割いてしまい体重を乗せる事が疎かになってしまう。その事を教える為にドレンは自ら実演して手本を見せる。アユムの刀は手から弾かれ、後方に飛ばされた。
「あっ」
ドレンは早々に武器のオブジェクト化を解いて休憩を告げた。
「ハァ」
弾かれた刀を拾ってそのまま崩れるように地べたに横になる。空を眺めながら自分の力のなさをまざまざと思い知らされた。
「焦らない事が一番です。焦ると全てが狂ってしまいますから」
ドレンがアユムの隣に腰掛ける。
「僕、フィリアンさんに認めて貰って嬉しかったんです。ランカー二位の認められるだけの力を持ってるって。でもそれは〝魔法剣″の恩恵であって僕の力ではないんですよね」
「彼女はアユムさんの力を見込んでギルドに誘った訳ではありませんよ」
「えっ!? じゃあフィリアンさんは僕を誘ったのでしょうか?」
「さぁそれは私にも分かりかねますので本人にでも聞いて下さい。ですがあなたに何かを見出したのは確かだと思いますよ」
「それって一体なんだと思います?」
「それは私からはなんとも……彼女のシックスセンスは未来予知に通じる事があるので滅多なことは言えません」
「アユム―」
手を振りながら二人に近づいてくるツボミ。
「休憩中?」
「はいそうです」
「じゃあちょっと待ってね」
アイテム爛からバスケットを取り出して、その中から水筒を取り出し、二人にお茶を注ぐ。中にはキンキンに冷やした麦茶の味がするオレンジジュースの様な色の飲み物だ。
「この世界になったばかりの頃は色々戸惑う事がありましたが慣れるとこれはこれで美味しいですよね」
しみじみと感慨に耽りながらお茶を口に含むドレン。
「確かに最初は慣れるまで時間が掛りましたからね。でも慣れてしまえば普通の麦茶ですもんね。あまり慣れたくなかったですけど」
同じ様にお茶をくちに含んで火照った体を冷やし、喉を潤す。
「どう? 修行の方は?」
ツボミが続いて薄く切った焼き肉とレタスの様な野菜で挟んだサンドイッチを一切れアユムとドレンに手渡す。
「正直に仰えば芳しくありませんね。アユム君に染みついた戦うスタイルを変えていく事ですからそう簡単には行きません。その一つ一つを指摘し正していくしかありませんからねどうしても時間はかかってしまうものです。それでもアユム君の吸収力は中々見所がありますよ」
「そうなんですか? 自分ではよく分かりません」
「そういうものです。自分の力を一番知らないものは自分です。自分の力というものはそこに驕りと誇りと自意識が関わってきますからね。どうしても大きく持っていると思いこんでしまう。あなたにはそれが無くまた素直に力を求める姿勢はとても素晴らしいものですよ」
惜しみないドレンの賞賛にアユムは照れたように頭を掻いている。
「んー私もドレンさんと手合わせさせてもらおうかな」
ツボミが武器を実体化しながら立ち上る。ドレンがサンドイッチを飲み込んで同じ様に武器をオブジェクト化して立ち上る。
「別に私は構いませんよ。私もツボミさんの様なスタイルの方とは手合わせをした事無かったので丁度いいですし」
ドレンが構える二つ名の象徴である大盾はなく、片手直剣一本だけだ。ツボミもドレンよりも細めの片手直剣を構える。
「いつでもどうぞ」
ツボミがドレンの左側に回りこむそちらにはいつもの大盾はなく攻めやすいと踏んだからだがドレンの反応は素早く、軽々と合わせてくる。
「私が盾を持つようになったのはカインと組むようになってからでして、それまではツボミさんのように剣一本で戦ってたんですよ」
ツボミの剣を捌きながら会話するドレンその姿はまだまだ余裕を保っている。
「ドレンさん実は盾持ってない方が強いとかないですか?」
同じ様にツボミも交えながら言葉を投げかける。
「んー……どうなんでしょうね。このスタイルで戦うのは随分と久しぶりですし。それに伊達にランカーの名を頂戴している訳ではありませんからね。盾を持っている私もそれなりに強いということは確かでしょう」
ドレンは淡々と自分が思っている事を口にする。実力があるからこそ言えるセリフだった。
「反則ですよそれは!」
一音奏でて水弾の魔法を起動させるツボミ。真っ直ぐ飛来する水弾をドレンは一薙ぎ剣を振るだけで無力化する。
「ありですかそれ……」
ツボミは先程と同じ様な言葉で絶句し、同意するようにアユムも頷く。
「ありと聞かれても出来るんだから……私にはどうしようもないですよ」
困ったように眉をハの字にして笑うドレン。アユムとツボミは一度見合わせてランカーだからと納得して考えるのを辞めた。
「それじゃ次は私から行きますよ」
ドンッとツボミと同じ様に一音力強く鳴らし魔法が発動する。ドレンの足元が振動し、土塊がツボミを襲う。一番LVの低い魔法のはずなのに速度も数も申し分なく数段階上のLVの魔法と同等の威力になっている。だがツボミも負けてはいない。曲を奏でながら剣を振り、先程ドレンが水弾を切ったようにツボミも土塊を叩き落とす。そして時間を稼いだ所で魔法を発動する。水が噴き出し、ツボミの前に強固な盾となる。
「ほほう。じゃあこれはどうです?」
先程と同じように一音だけ奏でるだけで魔法が発動する。だが今度のはツボミの周囲に岩柱が並び立ちそこから岩の棘が生え、射出する。全方位からの時間差攻撃だ。
「それなら!」
ピンと二本の指を立て水の盾がその指先に集い、細い糸になる。指先だけで糸を振るい棘を払い、岩柱も高圧水流で根元から断ち無力化する。その姿はまさに舞姫。華麗な姿で舞を踊り魅了する麗しの乙女だ。
「綺麗……」
アユムはその姿に忌憚ない賛辞を送った。
「これは……素晴らしい」
ドレンもアユムと同じ様に賛辞を送った。
「ハッ!」
ツボミはそのまま糸を伸ばしドレンが呆けている所を狙った一撃を放つが、
「良い一撃ですけど防ぐと同時に攻撃した方が良かったですね」
糸に剣を巻き付け強引に引き千切る。水の結合が解け雫となって地面に吸い込まれる。
「ふむ。大体ツボミさんの癖も分かりましたしこれくらいにしましょうか」
「えっこれだけで分かってしまうんですか?」
「全てというわけではありませんが一つ二つならご指摘できると思います。まず一つあなたの攻撃と防御のメリハリをはっきり付けているのは良いですがその切り替えの一瞬に間が空いておりどちらでもない時間があるのです」
「そんな隙があるとは僕は気付きませんでしたけど」
アユムが首を傾げているがドレンは一つ頷いて答える。
「零,一秒の隙のでしたから気付ける人はそうはいません。ですが隙はないに越したことはないと思うので指摘させていただきました」
「確かにそうですね。それでもう一つというのはなんなんでしょう?」
ツボミは気になってドレンの指摘を急かす。だが対してドレンの反応は鈍く先程と違った困り顔をする。
「非常に言いにくいのですがツボミさんのパワーとスピードは中途半端でして……決定打に欠けているのです」
「中途……半端……」
ツボミはショックを受けて茫然自失になっている。
「大丈夫ですよ。あなたには戦闘力を補って余りあるヒーラーとしての力があるのですから」
「でも……それは……私には皆が一生懸命戦っているのを後ろから見てるしかないってことよね……」
自虐とも言えるツボミの指摘。ドレンは一瞬口から出そうになったフォローの言葉を飲み込んで、更に傷つけると知って正直に話す。
「そうですね。私がいうのもなんですが〝ソレイユ″はフィリアン様を中心にとても纏まったギルドであり、また仲間思いのギルドだと思います」
その言葉に二人は一つ頷いてドレンの言葉に耳を傾ける。
「きっと仲間が倒れれば皆見捨てる事は出来ないでしょう。自分の命を投げ打ってでも助けようとするはずです。そうなれば仲間の危険は更に増すでしょう。それきっかけをあなたが作ってしまうと考えるとどうでしょう。それは嫌でしょう。自分の力のなさが仲間を更なる危険に晒すことなど」
「当たり前よ! それでも私は後ろで見てるなんて嫌!」
声を荒げツボミは拒む。きつく両手を握りしめ俯くツボミ。そんな彼女に救いの手を伸ばしたのはアユムだった。
「大丈夫ですよツボミさん」
きつく握られていた手をそっと解き、その手を両手でそっと握る。
「アユム……」
「僕達はまだ未熟です。それは揺るぎようのない事実です。でもだからこそ僕達はまだ未熟だからこそ強くなる事が出来ます。僕と一緒に強くなりましょう。ね?」
ツボミの顔を真っ直ぐ見て真摯に問いかけるアユム。
「アユム……」
ツボミは頬を赤らめ、そっとアユムの頬に手を添える。
「ツボミさん……」
良いムードの中二人の顔が次第に近付いていきその唇が……。
「良い雰囲気を壊す様ですいませんがそれ以上やってしまうとあの二人に良いからかいの材料を与えてしまう事になりますよ?」
バッと二人は磁石が反発するように離れ、明後日の方向を互いに見る。
「時と場所を考慮するなら私は何も言いませんからこの場では堪えてくださいね」
しれっとしているドレン。この男生真面目過ぎて空気を読むのが苦手なのである。
「それにほらあそこに気配を消していますが興味津々にこちらを窺っている鼠と猫がいますよ」
ドレンが藪の一点を指差す。
「「えっ!?」
そちらの方を見てみると、爛々と目を輝かせてこちらを見ているフィリアンとアンの姿がある。
「あっバレた」
「バレちゃったね~」
だが当の二人は慌てるどころか堂々と出て三人に近づいてくる。
「……いつからそこにいたのかな?」
ツボミの体から怒気が噴き出している。その怒気が姿を象って鬼となっている。
「ドレンなんであそこで止めちゃったのよ~。とっても良い空気だったじゃないの。あそこで止めるのは野暮でしょうよ」
「本音はなんでしょう?」
「ツボミを弄るネタが欲しかった!」
胸を張って言い切ったフィリアン。いっそ清々しいまでに凛々しい発言だった。
「素直に仰るのは良いですがダメですね。今回に関しては諦めてください」
「え~私痛いのは嫌なんだけどな~」
「私……あの時逃げとけば良かったな~って後悔中なんだけど……今から逃げても間に合うかな?」
「あなたも諦めてください」
「記憶飛ぶまで殴る!」
涙目のままツボミは両手で二人を殴り飛ばし藪に入った瞬間タコ殴りに入る。
「忘れて! 忘れて‼ 忘れて―――――――――――――!」
ドゴッ バキッと鈍い音が聞こえる。
「ツボミさん! 落ち着いて下さい‼」
呆けてたアユムが正気に戻り急いでツボミを止めに走った。ただ一人ドレンだけは空を見上げてただ一言。
「今日も平和ですね~」
と呟いていたのだった。
読んでくださった方ありがとうございます。




