自己紹介
危ない危ない更新忘れるところでしたwww
「ここです」
少年が案内したのは裏路地にあるにしては小綺麗でさっぱりした佇まいの喫茶店のようだ。店名は『クロニクル』。ちなみに少女は此処までの道程、本当に目が見えてないのか不思議に思うほど、迷いなく歩いてきた。
「マスター」
少年は常連なのか入ってすぐにカウンターでグラスを拭いていた店主を呼んだ。
「いらっしゃい、おや君が人を連れてくるなんて珍しいね」
「そうですね。いつものを二つお願いします」
「かしこまりました」
「どうぞ、こっちです」
少年は少女を連れたって奥のテーブルに案内する。どうやらそこが少年の指定席のようだ。二人共席に座り少年が改まった様子で口を開く。
「ホント危ない所をありがとうございました。あなたが助けてくれなかったら僕もあの子達もゲームオーバーになっていたかもしれません」
「それはもう言いっこ無しだよ。気にしない。気にしない。私はツボミ、あなたは?」
「あっすいません。僕はアユムって言います」
少年・アユムはプレイヤーカードを差し出しながら答える。
プレイヤーカードとはプレイヤーのプロフィールが簡単に記載された名刺みたいな物だ。基本プレイヤーは挨拶を交わす時このプレイヤーカードを互いに交換する。
少女・ツボミもプレイヤーカードを取り出しアユムに渡す。
「よろしくアユム」
ツボミはメニューウィンドウを開き、プレイヤーカードをその中にドロップする。そうする事によってそのプレイヤーが交友リストに追加されるのだ。交友リストに加わったプレイヤーにはメールが送れるようになり、連絡が取りやすくなるメリットがある。交友リストから友人リストに入れなおすとそのプレイヤーとボイスチャットできるようにもなる。
要するに交友リストは知り合い、友人リストから友人と線分けされる。
「ところでアユム。あそこで何してたの?」
「えっ、何してたのってどういうことです?」
「いや、河原でなにしてたのかなって思ってね?」
「何って……う~ん……昼寝しに……ですかね?」
「昼寝って……君呑気だね~」
「良く言われます」
アユムは苦笑しながら答える。
「僕からも聞いていいですか?」
「ん? なにかな?」
「不躾な質問なんですけど、目が見えないと不便じゃないですか?」
「そうだね~……私的には世界がこんな事になってからの方が生活しやすいかな。さっき言ったみたいに風の流れや気配が読めるようになったし、それでも分からない時はシステムアシストがサポートしてくれるから」
システムサポートとは、プレイヤーをサポートしてくれるプログラムの事だ。
「正直私はゲームの世界になって感謝してる。じゃなかったら一人で出歩くなんてことは出来なかったと思うから」
「そうなんですか良かった」
「良かったってどうして?」
「いやだってゲームって皆で楽しくするための物じゃないですか。その中で楽しくプレイ出来ない人がいるのは何か申し訳ないじゃないですか……例えゲームオーバーになれば死んじゃうとしても……」
「でも中にはノイローゼになって家から出て来れなくなった人もいるみたいだけどね……その人達の事を考えるとちょっと申し訳ない気持ちになるよ……」
二人の間にどんよりと思い空気が流れ始めると第三者が声をかけた。
「まぁまぁお二人共そんな暗い顔しないで。別にあなた方のせいではありませんし、楽しんでこの世界に馴染んでる人は思いのほかたくさんいらっしゃるのですよ」
マスターが盆を片手にテーブルの傍らに立っていた。
「とりあえず、これでも飲んでリラックスしてください。うち自慢のコーヒーですよ」
二人の前にコーヒーが置かれ、二人共にゆっくりと口を付け、安堵の息を吐く。
「それとこちらとこちらとこちらとこちらもどうぞ」
テーブルにどんどんどん置かれるのはサンドイッチ、フライドポテト、唐揚げ、オムライス、果てはケーキにパフェとテーブルに所狭しと並べられる。
アユムは絶句し、ツボミも一拍遅れて驚きを表す。
「……マスターこの量なんです?」
「ん、いつものサンドイッチとサービスの料理だけど?」
「いやいやそんな事いつもはしませんよね。ていうかそれでもこの量はおかしいでしょ!?」
「君が誰かを連れてくるなんて珍しいだろ。だから私も精一杯おもてなししようと思ったのだけど何かまずかったかな?」
「ええ。二人で食べるには量が多すぎます!」
「二人共遠慮はいりません。どんどん食べて下さい!」
「マスターは僕の話を聞いて下さい‼」
熱くなるアユム、飄々と流すマスター、その二人を眺めながら茫然としながらも笑みを浮かべるツボミの三人だが次第にツボミは肩を震わせ、決壊したように大声で笑い始めた。
アユムとマスターは動きを止め、ツボミの方を見る。
「ああごめん。二人が面白かったからつい」
「いえ、ツボミさんって笑うと可愛いですね」
アユムはきっと天然なのだろうがさらっとそんな事を言う。
「ありがとう、アユムはお世辞が上手だね」
ツボミは謙遜したのか、はたまた本当にお世辞だと思ったのか、軽く流した。アユムも別に気にした様子はなく、マスターに話を振る。
「マスター、何か新しい情報入ってませんか?」
マスターは勝手に椅子に座り、サンドイッチ片手に白い髭が生えた顎を擦りながら首を傾げ唸る。
「……ああそうだ。目ぼしい情報と言えば塔の踏破率がようやく半分を越したらしいぞ」
「こんな世界になって三年、それでやっと半分ですか……」
塔とはこの世界の中心にそびえ立つ建造物の事だ。この塔の一番上には宝石が鎮座しており、これを破壊したプレイヤーにはどんな願い事も叶えて貰える権利が与えられそのプレイヤーが所属する国には世界を統治する権利が与えられるというものである。そしてこの世界を解放する唯一の方法である。このゲームの世界になってから頭の中に響いた声によるルール説明で一番最初に説明されたことだ。
「私は塔に行った事ないけど。それだけ難しいって事なんだろうね」
「僕も一回ソロで潜った事あるんですけど。そこら辺のダンジョンなんて目じゃないくらい〝出現〟の頻度と数が凄くてですね。一分毎に十体同時に〝出現〟して囲まれちゃってあの時は本当ダメだと思いましたけどなんとか逃げ切ったんです」
「一分毎に十体……高レベルプレイヤーで結成したパーティーでも数で押されたらどうしようもないね」
「しかも上に行くほど〝出現〟するモンスターのレベルは上がって、厄介なのが出てくるそうです。今どのくらいのモンスターが出てきてるか分かりませんが踏破したプレイヤー達はランカーだと思われます」
ランカーとはプレイヤーのレベルの順位で上位ランカーには畏怖と共に二つ名が与えられ、国ごとにランキングが存在する。
「マスター他の情報はありますか?」
「そうだね。そういえば新しいダンジョンの奥にレアアイテムが見つかったそうだよ」
「レアアイテムですか……どのような物なんでしょう?」
「さぁ私もそこまでは掴んでません。ですが情報の信憑性は確かな物らしくここ数日で幾人ものプレイヤーがそのダンジョンに向かって失敗したみたいです」
「それならアユム、私達でそのアイテム取りに行かない?」
「えっ、ツボミさんとパーティー組んでですか?」
「他に誰がいるの? 私も普段はソロなんだけど、アユムもソロなら問題ないでしょう?」
「別にいいですけど、どうして誘ってくれるんです?」
「まぁなんとなくだけど、それに気にならない。レアアイテム」
「そうですね。確かに気になります。……ではお願いします」
アユムはウインドウを操作して、パーティー申請をツボミに送る。ツボミはパーティー申請を受理し、アユム達の視界の隅にツボミの名前とHP、MPバーが表示される。同様のものがツボミの暗闇の視界にも表示される。
「こっちこそよろしく。アユム」
「ええ、お願いします。ツボミさん。それでマスター、そのダンジョンはどこにあるんです?」
「ここです」
マスターもウインドウを開き、操作する。すると、アユムのウインドウが開き、地図が表示され、それを可視状態に切り替え、ツボミにも見えるように移動する。
「あ、目が見えないならどうやって見せましょう?」
「大丈夫そのままで。サウンドアシストが働いてくれるから」
「そのワープホールを通ると洞窟タイプのダンジョンの中に転送される。中は真っ暗だから周りを照らす為の照明道具を持っていく事を忘れないように」
「分かりました。じゃあ用意して行ってみましょうか」
「うん、けどその前にマスターの御好意を頂いてからにしようか」
話に夢中になっていたけどテーブルに鎮座しっぱなしの料理の数々。多少減ってはいるがそのほとんどは手付かずのままだ。
「そうそう。腹が減っては戦はできないっと定番のセリフですがそれもまた正論ですからね。しっかり食べて行ってください」
マスターはサンドイッチをほおばりながら進めてきた。ちなみに減ったのはマスターが自分で食べたからだ。アユムも手近にあったオムライスに手を付け、ツボミもサンドイッチに手を伸ばす。
如何でしたか?
ではまた来週~ヾ(≧∇≦)