本心
〝ソレイユ〟のメンバーが狩りというなの憂さ晴らしから一週間。アユムはドレンの手解きを受けていた。その間彼ら二人には政務が免除されている。先日までは紙の形をしたテキストファイルに埋もれていた政務の一室でツボミとフィリアンは会話を交わさずに虚空に映しだしたホロキーボードを叩いて案件を片づけていた。
そして丁度ツボミは最後の一つを丁度終わらせた所だった。
「こっちは終わったよ。フィリアン」
テキストファイルを完了フォルダに転送して、ホロキーボードを消し立ち上る。
「相変わらず仕事速いわね。羨ましいよツボミ。私の分の仕事もしてくれない?」
「自分の仕事は自分でしてね。私は今からアユム達の様子を見に行くんだから」
「本当に甲斐甲斐しいわね。まぁそれだけアユムに惚れてるってことかしら」
「ぶっいきなり何を言うのよ!」
ツボミは頬を染めてフィリアンの胸倉を掴んだ。
「ちょっ!? 落ち着いて落ち着いて」
フィリアンは両手を前に出して宥める。
「だって傍から見たらあんた達まるで恋人よ」
「こ……恋人ですと!?」
「だから落ち付いてってば! あと口調がちょっとおかしくなってるわよ」
「私がアユムと恋人……恋人……恋人……」
フィリアンの足元で蹲ってアユムは恋人と呟き続けている。
「違うの?」
「違うわよ‼ アユムは私の弟みたいなものよ‼」
「素直になれない女の子のテンプレみたいな言い訳の仕方ね」
「だって本当の事なんだからしょうがないじゃない。他にどんな言い方があるっていうのよ」
少し頬を膨らませて拗ねるツボミ。ツボミの問いに真剣に考えてくれているのだろうか腕組をして眉間に皺を寄せている。
「じゃあご主人さまとその従者?」
「どっちがご主人様でどっちが従者なのかしら? そして答えようによってはあなたを吹き飛ばすわ」
「それはもちろんあなたがご主人―――」
先程の宣言通り、ツボミは素早く武器をオブジェクト化し、そのまま斬撃を叩き込んだ。この間わずか零点二秒の早技だ。街中では攻撃によってのダメージはシステムが防いでくれるがその攻撃で生じる衝撃は発生するため、フィリアンの体は易々と吹き飛び、壁に叩きつけられる。ずるずると背を壁に預けたまま、崩れ落ちるフィリアンは最後の力を振り絞って一言だけ呟いた。
「そのツッコミは洒落にならん……」
そのままガクッと気絶したようだ。
「おーいフィリアン追加の仕事を持ってきたぜ~ってどうした敵襲か?」
テキストファイルを抱えたアンがその事態をのんびりとした口調で聞いてきたが、そんな事がありえないのは分かりきっている。
「ううん。何でもないよ。アン気にしないで」
気にしないでと首を横に振るツボミ。
「いや~ツボミとアユムは付き合ってるのかなと探りを入れたら全力で殴られちゃった」
いつの間に回復したのか何事もなかったかのように立っているフィリアンが懲りた様子もなくアンになにをしていたのかを伝える。そしてさすがはフィリアンの悪友即様話に乗っかりツボミに詰め寄る。
「あ~それは私も気になってたのよ。実際のとこどうなの? もうキスくらいはしちゃってるの?」
「キス!?」
キスという具体的な行為に過剰に反応するツボミ。思わず声が裏返る程狼狽している。
「えっまさかもうそこまで!?」
「そこってどこなのよ! 何もしてないわよ‼」
「何も!? えっマジで!? てっきり……」
「その先に続く言葉はなにかな?」
「いえ、なんでもありません」
両手で剣を握り締め、地獄の底から響いてくるような声をされりゃランカーだって黙るしかなかった。
「それにしても私はてっきりあなた達はもうそういう関係になってると思ってたわ」
アンが呆れた様子でしきりに頷いていた。
「私もまさか全く全然そういう関係じゃなかったとは……奥手過ぎるよ二人共」
「奥手って私はアユムの事そんな風に見てないもの」
「本当に?」
「本当に」
「絶対に」
「絶対に……」
「じゃあテストしてみましょう」
アンとツボミの問答の横からフィリアンが口を挟む。
「ツボミまずは目を閉じて」
「私は最初から目を閉じてるんだけど?」
「おっとそうでした。じゃあ心を落ち着けて。リラックスしてみて」
ツボミは頭の上に疑問符を出しながらも言うとおりに肩の力を抜いてリラックスする。
「んじゃ、そのままアユムの顔を思い浮かべてみて」
更に疑問符の数を増やすも言うとおりにアユムの顔を思い浮かべる。いつも笑顔で隣にいてくれて時にはその身に強さを現出させる頼りになる男の子その時勝手に想像のアユムが口を開いてこう言った。
『好きだよ。ツボミさん』
ドカンッ派手にツボミの顔が沸騰いや、爆発してその頭頂部から水蒸気を立ち上らせていた。
「十分意識してるじゃない」
フィリアンがウインドウを閉じて、アンが持ってきた紙状のテキストファイルでツボミを扇いで冷ましてやる。
ちなみに先程の声はフィリアンが遊びでアユムの声を〝録音貝″と呼ばれる音声録音アイテムで録音、編集して再生した声をフィリアンの耳元で鳴らしたのだった。良く聞けばニュアンスがちょっと違うと気付くはずだがそこを気付かせないのがフィリアンの編集技術だ。今だ熱暴走収まらないツボミを片目に眺めながらアンが持ってきた案件を片づけていく。その隣でアンは今だ照れているツボミを笑いを堪えながら録画アイテムで記録していた。
そしてツボミが再起動するまでたっぷり三十分その間にフィリアンは回ってきた全ての仕事を片付け、アンも録画したツボミの姿を編集、自分の秘密のフォルダに収納して何事もなかったようにフィリアンと雑談していた。
カクカクと動き始めたツボミに気付いた二人が声を掛けるがツボミは一言。
「アユムの……様子見てくる……」
と言い残して部屋を出て行った。
「ちょっといたずらが過ぎたかな?」
「いいんじゃない? これはこれで面白い方向に進んでると思うし」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら楽しそうにしているフィリアン。その横顔を眺めながら本当に大丈夫かな~と心配になるアンだった。
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