強者
「これは……圧倒的だな」
「ええ。まさかあの可愛い顔のアユム君がここまでの隠し玉を持っていたとは」
「……可愛い顔は関係ないと思う」
「なるほど。彼が私に技を教えてくれというはずです。ヒットアンドウェイを得意とするタイプではなくインファイト、私と同じだったとは」
彼らの前でアユムは圧倒的な戦いを繰り広げていた。防御を無視する風の太刀の前ではドラゴンの鱗なんてものは紙に等しい。
「それにしてもあの力なんなんだ? ドレン知ってっか?」
「いえ私にも分かりませんね。推測するに彼のエクストラスキルなのでしょうけど」
「エクストラスキル〝魔法剣〟だそうよ」
「フィリアン様いつの間にこちらに」
いつの間にか現れたフィリアン。だが彼らにとってそんなのはいつもの事飄々とアユムの戦いに集中している。
「なるほど大体どんな技か分かったぜ。だからMPがガンガン減ってるんだな」
納得がいったようにウンウンと頷いているカイン。その隣のアンがフィリアンに問いかける。
「具体的な能力はどんなのなの?」
「アユムも全部を把握してるわけじゃないみたいだけど。自らの敏捷力を限界を超えて高められるって事と武器の切れ味を高められるってことの二つは分かってるみたいよ」
「エキストラスキルって案外大した事ないんじゃないか?」
「何言ってるのよあれだけのスピードで龍の鱗を易々と断ち切る武器。一対一で殺りあったら手も足も出せずに負けるでしょうに」
「いや~あれだったら俺は近づかせずに仕留められるだろうな。ドレンお前だったらどうする?」
「カインならそれで対処できるだけでしょうが、私では盾と鎧を斬られて終わるでしょうね。でもちょっと勿体無いですね」
「そうだね。ちょっと甘いわね」
「だな。踏み込みが約半歩足りないってところか」
「半歩踏み込める勇気があれば二割……いや後三割はダメージ与えられるでしょうね」
この世界でのダメージ計算はプレイヤーの攻撃力、武器の攻撃力、武器の攻撃箇所を合計し、そこから攻撃した対象の防御力を引いた値がダメージとなって出力される。武器の攻撃箇所とは事細かに設定されており最もダメージが高い個所は一か所しかなくその点でどれだけ攻撃できるかでベテランかそうでないかを決める一つのファクターとなっている。
「まぁけれどこの中でまともに斬り合えるとしたらフィフィぐらいでしょうね」
「……私?」
名指しされたフィフィは自分の顔を指差しながら小首を傾げる。
「だろうね。フィフィの素早さと身のこなしがあれば彼の攻撃は掻い潜れるはずよ」
「……でも決め手がないよ?」
フィフィは幼いながらもきちんと自分の力を把握し、客観的に物事を見る事が出来る。ゆえに彼女はアユムに一撃与えるだけの決定打がないのを分かっている。
「いや見ての通り彼の〝魔法剣〟はMPを喰らうからね。長期戦は苦手なのよ。だからフィフィは攻撃を全て避け、MPが尽きた所を美味しく料理してあげれば勝てるわよ」
「……確かにそうかもしれない……でも私疲れちゃうと思う」
「フィフィが疲れた姿を見た事ないんだけど?」
「……アンが相手じゃ私本気出してないもん」
「なんですと!? わたしゃそんなに舐められていたのか!?」
「……だってアンの武器弓じゃない。躱すの簡単」
「ハッハッハッ。フィフィも言う様になったじゃないか」
「……カインにだって勝てる」
「んだとコラッ! よっし白黒付けようじゃないか‼」
「ハァ……カイン安い挑発に乗らないで。フィフィもカインはバカなんですから煽らないでください」
「ん……分かったよ」
「おい今俺はどさくさに紛れてバカにされたんだよな。そうなんだよな!?」
「そんな事も分からないからバカにされるんじゃない」
「よし今のは俺でも分かるぞ。アンお前痛い目みたいだろ! オラかかって来やがれ!」
「その喧嘩受けて立つ。三秒後あんたの体は穴空きチーズ確定よ!」
「ほらそこの二人静かにしなさい。そろそろ決めに入るみたいよ」
そうフィリアンが促すと確かに戦いも大詰めの様だ。アユムが纏う風が一層強くなり風鳴りと共にさながら小さい竜巻の様に唸りを上げている。
裂帛の気合と共に自分が持てる全てを仲間に示す為に繰り出す。
「〝乱れ花〝」
一瞬だけアユムの姿が掻き消え、次に現れた時は四人に分かれドラゴンを囲むように四方に立っている。それぞれ同じ動作同じタイミングで刀を構えたと思った瞬間、その両腕は霞み、凄まじい音と共に斬撃を放つ。
「はあああぁぁぁぁぁ!」
自然と漏れ出る裂帛の気合。残っていたドラゴンのゲージが一振り振られるだけで目に見えて減らされていく。
「ふはー凄まじいな。ドレンお前の倍以上の手数じゃないか?」
「いや……あれはダメです」
ドレンが厳しい顔をしてそう指摘した。
「モンスター相手ならあのくらいの連撃で良いでしょうが熟練したプレイヤー、例えばランカー相手となればあっさりと破られてしまうでしょう」
「ならそれこそお前が教えてやればいいじゃないか」
「そうですね。正直私みたいな未熟者が人に物を教えるというのは荷が重すぎる気がするのですがアユム君には即急に教えが必要みたいですね」
「ドレン……あんたが未熟者ってどんだけ自分を下に見てるのよ」
アンが苦々しい表情で呟いた。
「アンとドレンじゃ武器の相性が悪いからね。比べるのは不可能よ」
「その相性を易々と覆すあんたにフォローされても嬉しくないわよ」
フィリアンのフォローをそのままぶった切ったアン。その顔はフルマラソンを終えた時のように心底憔悴しきっていた。きっとフィリアンと戦った事を思い出したのだろう。
「ん、終わったな」
パァンとHPが全損し、ポリゴンが破裂した時の効果音が響いた。四人に分かれてたアユムが一人に戻り後ろで戦いを見守っていたツボミと共に戻って来る。
「どうでしたか! ドレンさん僕の戦いは‼」
「そうですね。確かに君には私の教えが必要なようですね」
「それじゃ教えて貰えるんですか!?」
「ええ私程度の若輩者の教えで良ければ」
パァとアユムの顔に笑みが広がり、嬉しさ余ったアユムはツボミの手をブンブン振り回している。
「よーし! 皆アユムの修行時間を作るためにさっさとこのクエスト終わらしてあげましょう」
「おー!」
仲間の返事を受け取ったフィリアンはすぐさま後ろを振り返り、モンスター群を見据えて槍を前に突き出し両手で構える。そのまま前に駆けだし〝ラルゴル・ドラゴン〟の体を貫いていく。その数を一体二体と一撃でほふっていく。
「フィリアンさんの強さは僕達とは次元が違いすぎますね。ツボミさん」
「あれだけ強くないとランカー二位とは言えないってことでしょう。さぁ私達も行こうアユム。もっともっと強くなろう」
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