狩り
今年も後3日ですね。皆さんもよいお年をお過ごし下さい。
第三章~立ち塞がる驚異 定めるは覚悟~
二人がギルドに迎えられて早一週間。ツボミの驚異的事務処理能力が開花し評価され、今まで山の様に埋もれてた案件が今では全て処理された〝ソレイユ〟の面々はそれまで忙殺されていた日々を取り返す様にダラけていた。
「ふ~マスターもう一杯頂戴」
「あっ私も私も」
フィリアンとアンはこれで何杯かも分からないコーヒーを頼んでいた。
「かしこまりました」
マスターは新しいカップを取りだしサーバーからコーヒーを注ぐ。
「アユム君。君はいるかい?」
「いえ、僕はもう十分です。それにしてもすいませんマスター。こんなに騒がしくしてしまって」
「ハハハ。全然構わないよ。君とは付き合いは長いがまさか君がギルドに入ってしかもその入ったギルドが〝ソレイユ〟そしてそのメンバーまでここに連れて来てくれるとは思わなかったよ。ツボミ君との出会いは相当君を変えたみたいじゃないか」
「そうですね……確かにそうかもしれません」
静かにカップを傾ける。今この店にはアユムとフィリアン、アンとカイン、ドレンのメンバーが集っている。今いないメンバーはそれぞれ単独行動をしている。まぁクロウトなどは基本単独で行動しているらしいが。アンとフィリアン、カインとドレンはそれぞれ二人掛けの席に付き話に花を咲かせている。
アユムはカウンターに腰かけゆっくりとコーヒーを味わっている。
「でそのツボミ君はどこに行ったんだい? 仕事は全部とは言わぬも彼女がほとんど片づけてしまったのだろう。一緒に来れば良かったのに」
「何か手を打っておくと言ってまだ部屋に残られていました。済んだらこちらに来るとも言ってましたのですぐに来られると思いますよ」
ちなみに〝ソレイユ〟のメンバーの中で仕事は出来るのがフィリアン、ドレン、フィフィ、そしてツボミというメンバーになっている。アユムも多少は出来るが戦力になるかは微妙というところだ。名前が入っていないメンバーは戦力にすらならない。
「僕達もメンバーになったことですし、仕事はきちんとこなしたい所なんですが……僕はお役に立てそうにありそうにありません」
「人には適材適所があるんだよ。だからアユム君はアユム君しか出来ない事を探す事だ」
年長者らしい重みのある言葉を送るマスター。その言葉に確かにと頷き返すアユム。
「アユム難しい事は考えずに向かってくる敵を薙ぎ払っていけばいずれ良い方向に向かうさ」
「君はもうちょっと考えてくれないかなカイン」
ドレンがカインに向かって何か言ったみたいだがカインはそれを無視してアユムに詰め寄る。
「なぁアユム提案なんだけどさ俺と模擬戦しない?」
「模擬戦ですか?」
「そうそうリーダーからお前は強いって聞いてたからな。戦いたくてウズウズしてたんだ」
実際にカインは体を揺り動かして待ちきれないと体全体で表現していた。
「カインやめなさい。アユム君が困っているでしょう」
ドレンが見かねてカインを止めに入るがその当人は気にせずグイグイとアユムに迫っていた。アユムは助けを請う為に後ろにいるメンバーに視線を向けるがドレンを除く全員が我関せずといった様子だ。しばらくそのままアユムは返事もせず膠着した状態が続いたがフィリアンがしょうがないなって感じで提案してきた。
「それならなんか狩りクエにでも行く? それだったらあんたも憂さ晴らしできるでしょ?」
「なるほど。それならアユムの戦いっぷりも分かるし一石二鳥だな。流石リーダーだ!」
「ふっふ~崇め奉りなさい。それじゃどのクエスト行こうか。この人数だったら大討伐も余裕でこなせるだろうけど歯応えがある奴がいいでしょ」
「そりゃせっかく狩りに行くならおいしい奴と戦いたいじゃない」
「そうねー今どんなクエストがあるのかしら?」
「ならこちらなどどうでしょうか?」
マスターが一つクエストスクロールをテーブルの上に広げる。
「なになに」
フィリアンはスクロールをクリックして内容を確認する。そこにはこう書いてあった。
『〝ラルゴル・ドラゴン〟大量発生‼ 至急百匹討伐されたし‼』
「へ~〝ラルゴル・ドラゴン〟か。中々強い奴が蔓延ってたのね」
「ホントツボミが仕事片づけてくれなかったらまたしばらく缶詰だったはずだものね」
「それじゃツボミが来たら皆で狩りに行きましょう」
「いや丁度来たみたいだよ」
表を歩いて来るツボミの姿に気付いたドレンが出迎える為に席を立ちながらそう言った。
アユムもすぐに立ち上りドレンに続いて入口に向かう。
「遅くなりました」
そう一言かけて入ってきたツボミ。それをドレンとアユムが迎えた。
「お疲れ様でした。ツボミさん。どうでしたか無事に終わりました?」
「うん。滞りなく進んだよ。皆快く快諾してくれたよ」
「みんな?」
「かいだく?」
アユムとドレンは互いに疑問符を浮かべている。察しの良いドレンまで疑問符を浮かべるとは珍しい光景だ。
「うん。〝リュヌ〟のメンバーに協力を取り付けてたの。凄く嬉しそうにしてたわよ」
「へ? 〝リュヌ〟って私達のファンクラブとして設立した。ただのバカの集まりじゃなかったかしら?」
ツボミの話を席で聞いていたフィリアンがそう口を挟んだ。
「そうやってフィリアンが頭ごなしに否定するから彼らも自分達がしたい事をフィリアンに伝えられなかったんだよ」
「ええ~私が悪いの? あいつらハエの如く纏わりついてうるさかったんだよ」
「あんたがそうだから〝リュヌ〟の皆も戸惑ってたんだからね」
「それであいつらに何したの?」
「うん。前に彼らから話を聞かせて貰ったんだけど彼らの本当の目的は私達を手助けしたいってプレイヤーが集まってできたのが〝リュヌ〟の結成目的なんだって。要するに〝リュヌ〟は〝ソレイユ〟の補助ギルドとして作られたってことらしいよ」
「……私そんな話し初めて聞いたのだけれど?」
「だからそれはフィリアンが話し聞く前に追い払うからでしょ。まぁ彼らもフィリアンからの許可を貰うまでは大きく動くわけにはいかなかっただろうから目立った活動はしてなかったけど自主的に街の治安維持とかしてたらしいよ。もちろん私達の方に報告がいかないように注意して」
「……マジでか~」
フィリアンは近くにあった椅子にドカっとその身を預ける。
「なら私は貴重な労働力を邪険に扱ってたって事になるのね。すると私は自らめんどくさい雑務を自ら背負ってたってことになるのね……ヤバ自己嫌悪が過去最高にウナギ登りなんだけど」
「ちゃんと謝りなさいよ。〝リュヌ〟の皆に」
「うん。ちょっと今から謝ってくるわ。ドレン他の皆を連れて先にフィールドに出てて。私もすぐに行くから。なんなら先に始めててくれてもいいわ」
「分かりました。お気を付けていってらして下さい」
ドレンは姫に仕える騎士の様にフィリアンに向けてお辞儀した。
「それじゃ行ってくる。ツボミありがと仲介してくれて」
「どういたしまして。デザート一回でいいわよ」
「了解」
それだけ言い残してフィリアンはウインドウを操作して転移していった。
「さてじゃあ俺達は先に〝ラルゴル・ドラゴン〟を狩りにいくとしようか」
カインが全員にパーティ申請を送る。全員が視界に表示された申請を即受諾した。視界の隅に全員分のHPとMPが表示される。
「どうせならフィフィも呼ぶか? 旦那は誘っても来ないのは分かりきってるが」
「そうね~ちょっと待って」
アンがフィフィにメールを打つ。華麗な十指を滑らかに動かしてフィフィに誘いのメール
を作って送信した。待つ事三十秒フィフィからの返信が来た。
「行くだってさ。待ちあわせはポータル前でいいよね?」
「それでいいんじゃねえの?」
「んじゃそれで」
再びアンがホロキーボードを叩く。メールを出すとウインドウを閉じ、アンが先頭を歩いていく。
「それじゃマスター御馳走様でした。また時間が出来た時にでも寄らせてもらいます」
「マスターバタバタしてごめんなさい。私もまた寄らせてもらいますね」
アユムとツボミがそれぞれマスターに挨拶して皆の後ろを追った。
読んでくださった方ありがとうございます。




