救援
《アユムそのまま聞いて》
(ツボミさん!?)
《そのまま押される振りをして後ろに下がって壁に近づいて。そこで合図をするからそしたらすぐにしゃがんで》
アユムは相手に気付かれないように僅かに顎を引いてツボミに了解の意思を示す。
そこからアユムは相手にけどられない様に少しずつ後ろに下がって行く。相手には押している様に思わせるように一進一退の攻防を続けながら下がる。
一歩、一歩。慎重の上に慎重を重ねて、防ぐ所は防いで、躱せるものは躱し、受ける時もダメージが最小限になる様に戦っている。
《アユム今!》
アユムは渾身の一撃で斧を弾き、仰け反らせすぐに地面に這い蹲る。
瞬間、アユムの後ろで轟音と共に壁が崩れ、その向こうから槍を腰だめに構え突貫して来るフィリアンの姿。ツボミは小さく呟いた。
「おいしい所全部あげるからしっかり決めなさいよ」
「了解‼」
ツボミの耳に自信に満ち満ちた声が返ってきた。
「なんだと!?」
壁の向こうからフィリアンは槍を前に突き出して瓦礫と一緒になって飛び込み相手の胸を貫き砕く。
「バカな!?」
「ごめんなさいね~。アメリカのリーダーさん。この槍にはね貫通スキルが備わってるんだ。皆が減らしてくれた今のHPなら簡単に零に出来るのよ」
人を喰った笑みを浮かべたフィリアンは更に槍を深く沈めていく。
フィリアンが貫いたのは左胸。人間の最大の弱点である心臓がある場所だ。もちろん普通ならば死ぬがこの世界でも大ダメージは免れない。しかもその一撃を放ったのがフィリアン更にアユムとの戦闘で削れたHPで耐えられる程ダメージ量は甘くはない。残っていたHPもあっという間に零にした。
「クソったれが!」
その言葉を最後にポリゴンとなって消えたその瞬間日本陣営全プレイヤーにウィンドウが開かれ【WIN】の三文字が誇らしげに浮かび上がり空には花火が打ち上がり勝利を大々的に祝う。
「きっちり決めたわよツボミ」
どや顔で笑うフィリアン。そんなツボミは詰め寄った。
「ホントぎりぎりじゃない。もうちょっと早く来れなかったの!?」
「無茶言わないでよ。あなた達が残した敵兵も相手してたんだからね。これが私の全速力よ」
「それにしてはタイミングばっちりだったじゃない?」
「ほら私って根っからの主人公キャラじゃん。きっと運命も私の演出に一役買ってくれたのよ!」
「実は狙ってたんじゃないの?」
「ツボミだったら気配で分かるじゃないの」
「うっ……それはそうなんだけど……」
「あの~……」
二人の言い合いにアユムが割って入った。
「全然話に付いていけないんですけど……」
「えっと私はアユムに〝生命の源〟で渡した後隅の方に引いた後すぐにフィリアンにコールをかけて逐一状況を知らせながら体力の回復していたの」
「それでツボミから状況を知らせて貰いながら私も敵を蹴散らしてたんだけど君が劣勢になってるって聞いたからどうにかして向かおうとしたんだけど如何せんちょっときつくってね。ヤバいなって思ってる時にあいつらが来てくれたのよ」
フィリアンは槍で先程壊した壁を指した。アユムは穴から外を見てみる。外では戦闘が終わり思い思いに体を休めるプレイヤーの姿があった。全員同じ仲間のプレイヤーだ。
「私達は当たらなかったけど他のスペードの連中は防衛に引っ掛かったみたいでね。足止め食ってたらしいんだけどギリギリ間に合ったのよ。で、皆の登場によって出来た隙を付いて私はこっちに来れたってわけ」
フィリアンはアユムと同じ様に穴から体を出し手を振る。気付いたプレイヤーも手を振り返し、歓声を上げる。
「何はともあれ久しぶりに勝ったんだから……宴よ!」
フィリアンは指を打ち鳴らす。すると全員をライトブルーの光が包み込み一瞬の内に自国の本拠点までワープした。戦域のいたる所に散っていた他のプレイヤーも次々とワープしてきた。
アユムとツボミはいきなりの展開に付いていけず、周りを見渡す。そこで同時にフィリアンがいない事に気が付いた。
「フィリアンさんどこに行かれたんでしょうか?」
「たぶん統治者としてのスピーチがあると思うんだけど……ああいたよ。本拠点の中にいる。他のプレイヤーと話してるみたいね。たぶん部下の人達みたいだよ」
「やっぱり国の代表って大変なんですね~」
「それはそうでしょうね~」
のんびり談笑している二人に唐突にフィリアンからコールが来た。
『もしもし二人とも聞こえてるかい?』
「ええ、聞こえてるわよ。どうしたの? これからスピーチじゃなかったの?」
『うん。それもあるんだけど二人に頼みたい事って言うか誘いって言うか……』
「僕達にですか?」
『そうまぁ詳しい話は本拠点でするからこっちに転送してもいいかな?』
「このままじゃダメなの?」
『結構大事な話だから直接言いたいんだ』
「僕は構いませんよ」
「私も良いよ」
『ありがとう。それじゃ転送するわね』
すぐに二人はライトブルーの光に包まれて転移する。転移した先は本拠点の最上階の大広場だった。
「二人共さっきぶり」
手を上げながら二人に近づくフィリアン。
「それでどうしたの? 話って」
「うん。あのさ二人共私のギルドに入らない?」
「フィリアンさんのギルド?」
「そ。私がマスターを務めるギルド〝ソレイユ〟に二人にも参加してもらいたいの」
「〝ソレイユ〟ってあのランカー上位者が何人も所属しているトップギルドじゃないですか!?」
「あれ? アユム知らなかったの? フィリアンってこう見えても統治者と〝ソレイユ〟のギルドマスター。二足の草鞋を履いてるのよ」
「ツボミさんも知ってらしたんですね……ハァ~でもフィリアンさんってホントに凄い人だったんですね」
「何よアユム。そのホントってのに含みを感じるわね」
「いえいえ決してそんな事はありませんよ! ただ改めて感心しただけです」
顔を近づけてくるフィリアンから距離を取ろうと後ろに首を逸らし若干顔を引き攣らせながら反論する。
「ふ~ん。まぁいいわ。それでどう? 二人なら実力も申し分ないし、可愛いし何より私の友達なんだから気兼ねする事はないわよ」
「可愛いかどうかは横に置いておくとして……僕は今までギルドに一度も参加した事がないのでどんな事をするのかとか、うまくやっていけるのとか色々心配ですがそのお誘いお受けしたいです」
「ありがとうアユム! ツボミはどうするの?」
「私もギルドに参加した事がないから色々不安はあるけど……私こんなだよ?」
ツボミは自分の眼を指差して言った。
「んなもん全然関係ないじゃん。何か言う奴がいたらこれで黙らしてやりなさい!」
音高く槍を持ち上げたフィリアン。そんなフィリアンの気遣いに嬉しく胸を熱くさせながらそっとアユムの手を取って力強く頷いた。
「私も〝ソレイユ〟に加入するわ」
「よし決まり! みんな来て‼」
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