全力
「知りたいのならかかってきたらいいじゃないですか」
尚更アユムは相手を挑発する。
「ほう、それに相当自信があるみたいだな。なら俺から仕掛けてやろう!」
片手に持っていた斧を両手持ちに切り替え助走を付けて縦に振り下ろす。それに反応してアユムも動いた一瞬の交錯。相手が振り下ろした斧はアユムの横を通り過ぎて地面を砕いている。何が起こったのか分からないと言う顔で眼を見開いている。アユムはその場から一歩も動いていない。それが更に相手の動揺を誘ったのだろう。相手はすぐに後ろに飛び退く。
「お前何をした!?」
相手は自分のHPバーが減っているのに気付いて自分が攻撃を受けたのだと初めて知った。アユムは相手に鋭い眼光を飛ばしたままあ身動ぎ一つしない。
「無視してんじゃねぇ!」
相手は斧を地面に叩きつけ礫をアユムに振りかかる。だが土塊はアユムに当たる事はなく見えない壁がそこにあるように弾かれた。だがアユムが何かをしたようには見えない。
居合術を知らない相手にとってはアユムがどうやって対処してるのか全く分からないだおろ。だがここで相手はアユムの変化に気付いた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
アユムの顎からは凄まじい量の汗が滴り落ち語気も荒くなっている。
「どうやらその技激しく体力を使うようだな」
相手の指摘は当たっている。というよりも見えない速度で刀を抜刀し、そのまま納刀し再び神速の抜刀を繰り返してるのだ。疲れないわけがない。多少システムのアシストがあろうとも体を動かすのはプレイヤーの体力だ。先程の斧の一撃の間もアユムは三度刀を抜き放ち、斧の軌道をずらし相手にダメージを与えたのだ。
「三華。これがこの技の名前です」
「ふん。名前なんてどうでもいい。ようするにお前のそれは連続して使えるものじゃないってことだろ。なら攻略の方法などいくらでもある」
再び斧で地面を抉り礫を飛ばす。アユムに三華を使わせ体力の枯渇を狙ったのだろうがアユムは動いた。
「なにか勘違いされてませんか?」
土塊を躱し、懐にいたアユムは不敵の笑みを浮かべて言い放つ。
「この技は攻めの技なんですよ!」
再び神速の居合術三華を解き放つ。三つの斬撃を全てがら空きになっている脇を狙って繰り出し、その衝撃を余さず相手にぶつける。爆音が轟いた。相手は爆発に巻き込まれた様に吹き飛び壁に激突した。だが放ったアユムもただでは済まなかった。
「ぐっ……」
カラン、刀を落とし、痛みを抑える様に左手で右手を握る。
「アユム!」
ツボミが思わず呼びかけるがアユムはすぐにでも痛みを隠しきれずに答えた。
「大丈夫です! まだ……まだ戦えます」
落とした刀を左手で拾い上げ、土煙立ち上る向こうを見据える。アユムの右手からは血が滴り落ちているアユムのHPバーの下には部位欠損アイコンが表示されており、HPが少しずつだが確実に減っている。一滴一滴血が落ちるたびに一ドットずつ死は近づく。
「無茶をするじゃないか。自分の右手が壊れるのを覚悟で俺にダメージを与えるとな」
土煙が収まったその向こうにはHPを半分喪った相手がいた。アユムが自らの右手を壊してでも攻撃した箇所は派手にへこみ衝撃の凄さを物語ってるいるがそれでも相手の有利を覆すには足りない。
「それでまだ抗うつもりなのか?」
「もちろんですよ。まだHPだってMPだって左手だって動く。僕を屈服させたいならHPを全損するしかないですよ」
不敵な笑みを浮かべて言い返すアユム。そんなアユムに相手は冷たく返す。
「そうだな。さっさと終わらさせてもらおうか。そしてその次はそこの女を殺すとしよう」
反射的にアユムは相手に斬りかかるが容易く防がれる。アユムは叫ぶ。
「もう彼女を狙う必要はないでしょう! ツボミさんはもう戦うことは出来ないのに!」
二人は武器を挟んで睨みあう。
「俺とお前らは敵同士なぜ殺さない理由がある」
「それでも戦う事が出来ない人を手に掛ける理由にはなりません!」
「ならお前が俺を止めればいい。止められるものならな!」
鍔迫り合いのままアユムの体ごと押し返し、壁に突進する。
「グッ!」
左手だけでパワータイプの相手の力に抵抗する事など出来るはずもない。
「このまま押し潰してやる」
更に力を込めて斧を押し込む。その度にアユムの体からミシミシと嫌な音が響く。
「グッ……ガッ……」
アユムはたまらず苦しげに呻く。壁と相手に挟まれアユムの足は宙を浮いている。
「調子に……乗るな!」
アユムは背中に風を集めてそこから推進力を得て相手を押し返す。
「ハァァァァァ!」
アユムは空中で何度も回転し、その遠心力を上乗せした斬撃を斧に叩きつける。相手は仰け反って硬直した。そこを狙ってアユムは更に風で速度を上げて、相手にダメ―ジを与えるため配分を度外視して攻撃を仕掛ける。相手を中心に廻りながら下から上に順を追って攻撃する。その一つ一つの攻撃が気流を起こし、それが更に大きな風を招き寄せる。
「鎌鼬」
一つ一つが刀を潜ませた風となり相手を切り刻む結界となる。
「バカめ。お前の魔法なぞ俺の鎧で消してやる」
無造作に手を結界に近づける。だが鎧は風を消す事が出来ず、その手に一筋の傷が走る。
「ッ」
唐突の痛みに反射的に手を引っ込める。
「この技はフィールドダメージによる攻撃です。例えあなたのアンチマテリアルスキルでもダメージを与える事が出来る僕の切り札」
(その代わりMPを使い過ぎるし、使い勝手所が難しいから博打になるんだけど)
フィールドダメージとはフィールドに設定された被ダメージ設定の空間を言う。砂漠や火山地帯、極寒地帯など様々だがそのほとんどはアイテムを使えば調和する事が出来る。だがフィールドの中には設置型トラップのフィールドダメージがあり、それはフィールドの中でもある一定の場所に入りこむと発動し、回避しないとダメージを喰らう。アユムはそれを人為的に発生させその中に閉じ込めたのだ。
「さぁ閉じて! 風の結界!」
アユムはそう宣言し仕上げの風を吹き込む。最後の風が結界に組み込まれた事により結界は内側に閉じていき中にいる全てを切り刻む。凄まじい風切り音と共にダメージを示す赤いライトエフェクトが結界の隙間から見え隠れする。アユムは力尽きる様に膝を付く。肩は大きく上下し右手は変わらず血を流し続けている。
(これで終わってくれなかったらさすがにもう打つ手がない。倒れてくれよ……)
アユムは祈る様に結界を見つめる。荒れ狂う風はまだ勢いを緩めずその猛威を振るい続けている。だがそれも次第に勢いを失くし、結界は消え去った。中に囚われていた相手を解放する。相手は体中に切り傷を作りそこから血を流している。だが満身創痍の状態でも膝を付く事なく立っている。アユムはすぐに相手の上に表示されているHPバーを確認する。
(後……四分の一。削りきれるとは思わなかったけど予想以上に残ってしまいましたか……さて切り札はもう切ってしまった。MPも鎌鼬を使った時にほぼ使いきったし、残る手は……喰らい付くしかないよね。うん。HPを全部使いきるまで戦うしか)
アユムは刀を杖の様に使って立ち上る。
「ふ~……よくもやってくれたな。クソガキ!」
「あなたも十分しつこいですよ。あれで倒れてくれたらどれだけ手間が省けた事か」
「あ~お前はもう何も喋るな。八つ裂きだ!」
どこにそんな力が残っていたのかバカでかい斧を片手で振るい、体術と併用して襲い来る。
アユムもその攻撃の確実に防ぎながらも隙を見つけては攻撃を仕掛ける。だが左手だけでは繰り出せる攻撃も単調になりがちになり、また単純に手数も少なくなる。
「オラオラオラ! さっさとくたばって楽になりやがれ!」
上からは横に。横からは下に、下からは上に斬撃を逸らし、その間に放たれる拳を刀の鎬で受け止める。二人の間にいくつもの銀閃と火花が飛び散り、絶える事なく続く剣戟の応酬。金属がぶつかりあう衝撃音が重なるたびに加速し、空間を圧倒する。
何十回繰り返したか分からなくなった頃、アユムに耳にツボミの声が響く。
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