信頼
「ふぅやっとここまで来れた……」
アユムは壁に背を預けて息を整えていた。幾百者プレイヤーを薙ぎ倒し裏を掻きどうにかこうにか此処まで辿りついたからだ。息を整え終えたアユムは拠点の中に脚を踏み入れる。その瞬間今まで表示されていなかったツボミのステータス状況が表示された。
「ツボミさん!」
アユムは急いで駆け上に急ぐ。パーティを組んでいる場合パーティメンバーのHPとMPが表示される。だがこれは互いの距離が一定以上離れるとこれが表示されなくなる。そして先程アユムが拠点に入った事でその射程内に入ったためにツボミのHPが表示されたのである。アユムが見たのはHPを残りニ割しか残していないツボミのHPバーだった。
人がいない拠点の中を走るアユム。そんな静寂の中で上からハーブの調べが朗々と流れているのに気付く。そのメロディラインを聞いてツボミが何をしようとしているのかを悟ったアユムはツボミのメロディに隠れるように曲を奏で始める。それと同時に地面を強く蹴り飛ばし横の壁に跳び移るとすぐさまそこも蹴り天井にすぐに移りそれを繰り返して移動するその場所には一秒すら留まらずに跳ねまくる。跳ねるたびに速度は増し、アユムの姿が残像となって残り、跳弾する弾丸となって拠点内を進む。二階への階段も同じ様に床、壁、天井を跳ねて二階へと辿り着く。ツボミに残っているHPも一割を切り、そのまま勢いを殺さずに次の階段を目指すアユムだったが三階へ続くはずの階段の下に鎧を着込んだ槍を持ったプレイヤーが行く手を阻む。
「ここは通さん!」
「邪魔!」
アユムがいつもは言わないだろう鋭いセリフを吐いて勢いを落とさぬまま突きつけられた槍を躱し、槍使いを足場に三階に続く階段に飛び込んだ。足場の代わりにされた槍使いは勢い良く壁にぶつかりそのまま伸びてしまったのか動かなくなった。
ハープの音色はそろそろ終曲を迎えようとしていた。それに合わせるようにアユムもずっと奏でていたメロディを早める。
(ツボミさん後少しだけ頑張ってください!)
アユムの想いが通じた様にツボミの音色がより高らかに鳴り響く。そして最上階に続く階段に差し掛かった時、〝魔法剣〟発動の為の最後の一音を奏で終え〝魔法剣〟を解放する。〝魔保剣〟の能力に常時アクセルを発動する能力がある。だがこれを使うとMPの消費が激しくなり〝魔法剣〟を維持する時間が短くなる事になる。それでもアユムはツボミの元へ一秒でも早く辿り着くために躊躇なくこれを使う。
零コンマ一秒で階段を昇り終え、最上階に辿り着いたアユムが見たのはツボミがハンマーと直剣が挟もうとしていたところだった。
「ツボミさん!」
腰に吊っていた二本の刀を抜き放ち、割り込んでハンマーと直剣を防ぐ。
「ナイスタイミングだよアユム」
ツボミはそう言って曲の終止を紡ぎ、魔法が完成する。
〝生命の源〟
ツボミの体を鮮やかなライトブルーのエフェクトが覆いそれが手を伝ってアユムに流れ込んでいく。〝生命の源〟水属性魔法の高度魔法、この魔法の特徴は水魔法の特徴である回復だけでなく自分が持っているMPを他プレイヤーに譲り渡す事が出来る魔法だ。よって大切に残してきたMPを全てアユムに渡した。ライトブルーの光が消えるとアユムのゲージがHP、MP共にゲージの左端まで満タンになる。
「後は任せてください!」
「決めちゃって!」
そう言ってツボミは優しい笑みを浮かべて扉の近くまで下がる。
「あなた達の相手は僕です!」
「急に出しゃばって来てんじゃねえぞクソガキが!」
ハンマー使いがアユムに襲いかかる。うねりを上げながら振り下ろされるハンマー。アユムは何の気もなしに右手に握った刀を振るった。それだけでアユムの刀は相手の斧の耐久値を全損させ、ポリゴンの欠片と変える。それだけに終わらず、今だ何が起こったのか分かっていない男の体に×を刻む様に両の刀を右肩から左脇、左肩から右脇に走る。たったニ撃だけで男のHPを零に返した。眼の前で仲間が殺られたからか、それともアユムの力に恐れをなしたのか今まで冷めた様子だった女が剣を無茶苦茶に振り回し、訳の分からない声を喚きながらアユムに飛び掛かった。
「ハッ!」
アユムは気合一閃。刀を真一文字に走らせ、女の体を剣ごと斬り伏せた。上半身と下半身を丁度別つ位置に引かれた赤い一本の線から血の様に迸るライトエフェクトを残して消えていく。アユムは両の刀を軽く振るって今だ玉座に腰かけたままの総指揮官に向き直り話しかける。
「これであなたを守ってくれる人はいなくなりましたよ」
「そうだな……虚を突いたとはいえあの二人を一太刀で倒すとは中々やるみたいだな」
「お褒め頂いてありがとうございます。ですけど今僕結構頭に来てるんですよ……手加減抜きで捻じ伏せさせていただきます!」
アユムは一足飛びに相手の懐に飛び込み同じ軌跡を描くように両の刀から斬撃を放つ。
だがその餌食になったのは総指揮官が腰掛けていた玉座だった。
「ハッハ~中々いい攻撃じゃないか!」
上から斧の刃を下にして振ってきた。アユムは急いでその場から飛び退き距離を取る。先程までアユムがいた場所が爆弾で爆発した様な爆音と衝撃を撒き散らした。
「さぁ死合おうとしようじゃないか!」
アユムはそれに答えず切っ先を相手に向けて顔の横まで持ってきて姿勢を低くし一陣の風となる。神速から繰り出される風を纏いし斬撃、相手は全く反応出来ていない。アユムは取ったっと確信したするが刀はそ堅い鎧の前に弾かれてしまった。
「ッ!?」
アユムは眉を潜めながらももう一度構えを取る。今度は攻撃に重視を置いた構えではなく攻守のバランスが取れた構え。風の加護によって相手の耐久値を全損させる程の切れ味を付加されたはずの刀が弾かれたからだ。相手の前進を覆う西洋鎧だって簡単に斬り割いていたはずなのに……。
(魔法で相殺された? でもメロディも奏でてなかったし。なら武器で弾いた? いやちゃ
んと鎧に刀は届いてた。仮に武器で防御されてたとしてもあの斧の方にダメージがあるはず……見た限り傷が付いた様子もないし。確かめてみますか)
再びアユムは風と一つになる。そしてわざと相手の後ろで姿を見せる。総指揮官は即反応して攻撃を仕掛けた。だがその姿は偽物、風で作った分身だ。相手が分身を攻撃したと同時に姿を隠していたアユムが後ろから頭と首を同時に狙う。
ガキッ! やはりアユムの刀は弾かれる。
(次!)
宙で反転して足から着地し、取り囲むように分身を作りだし一斉に斬りかかる。だが相手もダメージを喰らった様子もなくすぐさま反応し、斧を振り回し全てのアユムに攻撃を加える。だが斧は空を空しく切るだけでアユムには攻撃がヒットしない。なぜならその中にアユムの姿はなく全てが分身だったからだ。
「なるほど。何故僕の攻撃が効かないか理由が分かりましたよ。あなたの装備全てにアンチマテリアルスキルを付加してますね」
「ほうもう見破ったか」
奴も隠すつもりもないのか簡単に肯定した。
アンチマテリアルスキル。ア―ティファクトと呼ばれるレアなアイテムの鎧や盾などの防具系に極稀に付いているスキル。全ての魔法をキャンセルする事が出来る能力があるが補助魔法も消してしまう為装備者は補助魔法の恩恵を受ける事が出来ないデメリットもある。
「武器にまで付加してるとは思いませんでしたけど」
「フンッ お前のその技も魔法を軸とするみたいだな。だがお前の強さの根源が魔法に起因するならお前は俺には勝てないな」
「それはどうでしょう? やってみないと分かりませんよ」
「ならやってみせろ!」
「ええ後悔なさらないでください」
アユムは刀をクロスして意識を高める。次第に風が眼に見えて濃度を増して行く。刀を薄く覆っていただけの風はアユムを中心に渦を巻き、アユムの姿がぶれ始め、二人、四人、八人と増えていく。
「〝十六夜〝」
八人に増えたアユムが別角度、タイミングをずらして攻撃を仕掛ける。躱す事は確実に不可能。躱そうとすればその瞬間に確実にアユムは相手のHPを全損出来るだろうだから相手は片手で斧を振り回し、その一薙ぎでアユムの半分が葬り去られた。斧の一振りを免れた分身も攻撃を放つ前に斬撃と拳と蹴りによる殴打によって防がれてしまう。
「おいおいどうしたこれで終わりか?」
(十六夜が効かないとはどんな化物ですか……絶影なら一撃を与えられるだろうけどあれは風の切れ味がないと必殺にはなりえないしあれはMPの消費も著しいから使えない。ならこっちを試してみましょう)
アユムはストレージを開いて一本直し、一本を腰に吊るした鞘に納めて柄に右手を鞘に左手を添えて構えを取る。
「なんだその構えは?」
アメリカには居合術がないのか相手は首を傾げている。だがアユムにとっては相手が居合術を知らないのは好都合だ。
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