出会い
今回はプロローグと第1話同時掲載します。プロローグだけではなにもわかりませんからねwww
では引き続き第1話をどうぞ!
一人の少年が河原で寝そべっている。中世的な顔立ちの柔和で安らがな表情で寝息を立てている。黒羽色の肩まで伸ばし後ろ髪を尻尾のように短く結っている。年はおそらく十六くらいだろうがその顔立ちの為十四歳と言われても信じられそうだ。
その傍らには少年には不釣り合いな長刀が鞘に収まった状態で置かれ柄頭に付けられた藍色の飾り布が風にたなびいている。
ゆったり流れる時間のゆりかごは一つの悲鳴によって掻き消される。
「キャーーーーーー!」
耳を劈く声、その声に反応して少年はすぐさま体を起こし、刀を取る。
――どこから?
少年は周囲を見渡し、悲鳴の出所を探す。少年から川下に架かった橋の上に中学生くらいの男女二人が頭の上にドゥウルと名前を表示した両腕が不自然なほど巨大な人型の朧な影に襲われている。
「出現!」
この世界では街にいれば必ず安全とは限らない。街中にもランダムでモンスターが出現する。時にはボスクラスのモンスターが出現し、緊急クエストとして大規模な狩りが行われる事もある程だ。プレイヤーの死亡率はダンジョンでの死亡よりもこの出現モンスターでの方が多い。それはもちろん街の方がダンジョンよりも気が緩んでしまいがちだからだ。
そして今まさに少年の目の前で二つの命が消え去ろうとしている。少年はすぐさま口を窄めて音色を奏でる。響き渡るはフルートの音色、風に乗って響く涼やかな曲は新たな風を運び、新たな流れを呼び込む。
〝楽曲システム〟〝MOMO〟の醍醐味の一つだ。〝MOMO〟には魔法が存在し、発動する条件は曲を演奏すること。プレイヤーは最初このシステムを理解できず、頭を捻ったものだが、使ってみるとかなりシンプルなシステムだった。プレイヤーはスキルから自分が気に入った属性を選ぶ。魔法には〝火〟〝風〟〝水〟〝土〟〝闇〟〝光〟〝幻〟の七種類があり、それぞれ対応している楽器がある。〝火〟ならギター、〝風〟ならフルート、〝水〟ならハープ、〝土〟ならドラム〝闇〟なら龍笛、〝光〟ならピアノ、〝幻〟ならヴァイオリンという具合にだ。ただ実際にそれぞれの楽器を演奏するわけではなく、口笛を吹くことにより演奏することができる。口笛の音色がその対応する楽器の音色になり、魔法を使うとき口笛で曲を演奏することが出来、戦闘中でも魔法を使うということだ。奏でる曲によって魔法は姿を変え、効果も変わる。システムで定められた簡単な初期魔法以外は全てプレイヤーの手に委ねられている。プレイヤーは各々自分で曲を作り類似したものはあるものの自分だけの魔法を使えるようになる。ただ全てなんでもできるようになるわけではない。それぞれの属性にはそれぞれ特性があり、攻撃力は〝土〟が強いや、効果範囲は〝風〟が広い、や〝水〟しか回復魔法を使い得ないなどの特性がある。
ドゥウルの手らしきものが二人を叩き潰そうと振り下ろす瞬間、少年がその間に割り込みいつの間にか抜刀した刀でその一撃を受け止める。少年は風の魔法で自らに敏捷力上昇をエンチャントして割り込んだのだ。そして受け止めてすぐさま少年は後ろに向かって叫ぶ。
「逃げて!」
だが男女二人は腰が抜けてるのか身を寄せ合ったまま動こうとしない。少年は二人を守りながら戦わなければならない。何度も振り下ろされる手を刀で捌くもこの状況を変えなければいずれ限界が来るのは目に見えている。
(こんなことなら用心してもっと強いエンチャントかけとけば良かった!)
今更後悔しても遅い後悔をしながら少年はドゥウルの攻撃を捌き続ける。そんな少年に後ろから力強い声がかけられる。
「しゃがんで!」
少年はすぐさま言われた通り半ば倒れる勢いでしゃがんだ。するとほんの数瞬後に頭の上を銀閃が走る。
駆ける銀閃はドゥウルの体を上下二つに分断し、名前の下に表示してあるライフバーを一撃で零にする。ガラスが砕ける音と共にドゥウルはポリゴンとなって消えて行く。
少年はほっと安堵の息を吐き出し後ろを振り向く。そこには同じ人とは思えないほど神々しく使い古された言い方だが神が作り上げたと思われる少女が白い片手直剣を鞘に納めているところだった。
「大丈夫?」
少女は少年にそう問いかけてきた。
「うん、ありがとう。おかげで助かりました」
少年は立ち上りながらお礼を述べる。
「そっちの二人は大丈夫?」
いまだ座り込んだままの二人に少女は話しかけるが、眼前まで迫っていた命の危険に体の震えが止まらないのであろう。口をパクパクと動かしているが声が出ない。
「ほら落ち付いて。深呼吸して。吸って、吐いて、吸って、吐いて。どう落ち付いたでしょ」
「ええ、助けてくれてありがとうございます」
「当然の事をしただけだよ。それに助けようとしたのはそっちのお兄さんだよ。私はただ力を貸しただけだから」
「お兄さんもありがとうございました。おかげで僕と彼女は死なずに済みました」
「そっちのお姉さんも行ってるけど当然の事をしただけです。町中でも今みたいに襲われる可能性もあるから用心してください」
「はい、今までは他人事だと思ってましたけど気を付けます」
そう言って二人は町の方に繰り返し頭を下げ、手を振りながら去っていった。
「ありがとうございます。正直危なかったですから」
「どういたしまして。君も無茶するね。あの二人を助けるためとはいえ、間に割って入るなんて私が助けるの間に合わなかったら君がゲームオーバーだったのかもしれないよ」
「そうですね。無茶でした。でも助けられました。僕はそれだけで危険を冒した価値はあると思います」
「君は優しいんだね」
「優しさとは違うと思います。僕はこの世界で生きていくのに必死なだけですから」
「必死ね……それはとてもいい事だけどあまり思い詰めるのはダメだよ」
そう言って少女は少年の頭を愛おしげに撫でる。その突然の行動に少年は顔を赤くしながら照れ、少女の手を振り払った。
「やめてくださいよ。僕子供じゃありませんよ」
「無理しないの。十四歳は子供だよ。お姉さんに甘えてくれてもいいんだよ」
「僕はもう十六歳ですよ!」
二人の間にわずかな沈黙が降りる。
「あれ? 私が気配を読み間違えるなんて事は……」
そう呟いて少女が少年の顔に急接近する。近すぎる距離に少年は顔を更に赤くし、背を逸らせ頑張って距離を取ろうとする。
「近いです近いです!」
そこで少年はある事に気づく。
「そういえばずっと目を閉じてますがどうしてですか?」
「ああ。私目が見えないのよ。だけど問題ないから気にしないで」
「目が見えないってそれでどうやって戦ってるんですか!?」
「心配しないで。私はモンスターの気配や風の流れを感じとることが出来るから。恐らく目で見るよりも見えていると思うわよ」
「そうなんですか……凄いですね」
少年は感嘆の吐息を吐くが、それだけで片づけられる程簡単に出来ることではない。確かに眼が見えない人は他の感覚器官が鋭敏に働くようになるがそれだけで気配や風の流れといった形がない存在や希薄な物を察知する事は難しい事なのだというよりもほぼ不可能なことだ。
「そうだ。食事でも御一緒にどうですか? お礼も兼ねて僕の奢りでどうでしょう?」
「う~ん、そうだね。せっかくだし御相伴に預からせてもらおうかな」
少女は頷き、少年も嬉しそうな笑みを浮かべる。
「それじゃ街に戻りましょう。行きつけの店があるんです」
二人は河原から離れ、ビルが並び立つ方へ歩いていく。
どうだったでしょうか? 少しでも皆さんに楽しんでいただけましたでしょうか?
これからも読んでやるかって方は1週間後までお楽しみに。気に入った早く先に読みたいぞって方はこちらからどうぞ!
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