指揮官
アユムが本拠点に辿り着く少し前、本拠点の中にツボミの姿があった。
「ふ~思いのほか時間掛っちゃったな」
閉めた門に寄りかかって安心するツボミ。ツボミは敵と一度も戦闘をせずに本拠点に辿り着いていた。彼女は感知能力を使って敵の注意がどこに向いてるかを瞬時に察知し、意識の死角を突いて誰にも気づかれずに本拠点に辿り着き、内側から門を閉めたのだ。外にいるプレイヤー達は何故門が閉まったのか全く分からなかっただろう。
「出来る限り二人の負担を減らさないとね」
ツボミは本拠点内部に飛び込む。気配から自分が一番乗りしている事を知ったツボミは出来るだけ総指揮官のHPを削る事を目的とする。飛び込んだツボミは左右に分かれた道の左を進む。そしてすぐに角を曲がると大仰な鎧を装備した斧と大剣を持ったプレイヤー二人がのんびりこちらに歩いて来ているところだった。
アユムの姿を確認した二人のプレイヤーは素早く武器を手に取り、ツボミを向かい撃つ。斧と大剣が同時に上から襲い来る。ツボミは一足横に跳ね、大剣の横っ面を渾身の一撃を叩きつけ起動を無理矢理に曲げ、斧の軌道上に割り込ませる。ガキッと鈍い音と火花を散らして攻撃が止めたツボミは流れる動作で鎧の継ぎ目を狙って穿つ。剣は鎧の防御力を差し引かれた分のダメージを斧使いに与える。多少HPは削れるがそれも微々たるもの。だがツボミは一撃で済ましはしない。突いた剣を素早く胸の前まで戻し、裂帛の気合と共に五連突きを放つ。斧使いのHPがガクッガクッと連続で減っていく。そこで一度ツボミは深追いはせず後ろに引いて距離を取る。敵二人はすぐに体勢を立て直し向き直る。
「チッ舐め腐りやがって」
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
大剣を持った男が激昂して大振りに中々の速度に乗せて剣を振ってきた。だがツボミにとってはその程度の速度を乗せた攻撃を躱すことなど簡単で下を潜るように大剣を避け、体全体を捻り、相手の一撃を相手に返す様にタイミングを合わせてカウンターを相手の肘の内側に放つ。腕が折れ曲がりツボミを抱くような形になる。そして相手が握っている大剣の峰を先程体を捻って手に入れた回転エネルギーを主軸に体ごと回転し、遠心力を上乗せした裏拳を直剣を持ってない左手で打ち込んだ。ライトイエローのエフェクトを迸り衝撃を伝える。不安定な体勢だった大剣使いは前につんのめり、また握りが緩くなっていた大剣はツボミが加えた衝撃によってすっぽ抜けられた大剣は後ろにいた斧使いを襲う。斧使いは反射的に斧で払う。
空を舞う持ち主の制御を離れた大剣。それが丁度二人の上の天井に突き刺さる。ツボミは大剣使いの体を足場に、跳ぶ。微妙なバランスでどうにか堪えていた大剣使いもその場で尻餅を付いてしまう。跳躍したツボミは上に突き刺さった大剣を引き抜き自分の重さと剣の重さを重力の引く力に任せて下にいる大剣の元の持ち主に叩きつけた。大剣は持ち主を裏切りそのあまりあるパワーで鎧と体を真っ二つに斬り開きガラスの割れるサウンドエフェクトを残して消える。それと同時にツボミが握っていた大剣もポリゴンとなって持ち主に帰った。二人を相手にわずか数手で一人を倒し、自分自身の被弾はゼロだ。
「どうする? 一人で私に勝てると思う?」
あえてツボミは挑発する。退いてくれたならツボミはHPを失う危険を冒さずに済むからだ。また激昂して向かってくるのなら怒りに任せてる分だけ攻撃が直線的になるはず。そして案の定敵は激昂し、斧を振り回して襲いかかってくる。ツボミは一つ嘆息して刃を交える。相手の攻撃を正面から受けるわけではなく力を逃がす様に受け、衝撃を受け流す。
何合か交えた後、痺れを切らしたのか斧を後ろに回し、存分に力を溜めて横薙ぎに振るう。相対するツボミも交叉する形で剣を振るう。
交錯は一瞬、斧は砕け散ると同時にプレイヤーは膝を着く。ツボミは斧使いには目もくれずに先を急ぐ。先程の一瞬はただただ単純に斧と剣がぶつかりあい斧が負けて砕けただけだ。だがそれは決して偶然ではなくツボミは狙って行ったのだ。斧と剣を合わせた時の音、手応えから斧の弱点を導き、先程の一撃にツボミが繰り出せる全力の攻撃をカウンターで叩き込んだのだ。これはツボミが持つ視覚に頼らない感知能力があってこそ可能となる技だった。
どうやら一階にいる敵はさっきの二人だけだったようでツボミはすぐに二階に繋がる階段を駆け上がる。二階には誰もいないと分かってる為脚を緩めることなく次の階段に脚をかける。だが階段の上に一人のプレイヤーが陣取っていた。
「この上に行きたければ俺を倒して行け!」
フラグをバリバリに立てたこのアホ。明らかに容量オーバーの西洋鎧を身につけ人の丈の二倍もある槍をツボミに向け相対する。容量を超えて装備するとプレイヤーの敏捷値にマイナス補正がかかる。ツボミが階段の丁度半ば、槍の射程距離に入った瞬間アホは愚鈍な動きで槍を突き出した。
そのあまりにも遅い槍をツボミは乗って躱し、そのまま槍を足場に天井ぎりぎりを跳びながら空中で逆さまになり、肩に手を付いて軽業師の様な身軽さで飛び越えた。そして着地と同時にガラ空きになっている背中に蹴りを入れ、階段から突き落とした。
「うわああああぁぁぁぁぁ…………」
槍使いは容量以上の装備を身に着けていた為、身動きが取れずジタバタと手足を動かして必死に起き上がろうと努力してるが全く起き上がれていない。ツボミはそいつに止めを刺さずに放置して上の階つまり総指揮官がいるはずの最上階に急ぐ。
ツボミは最上階に続く階段を二段跳びで駆け、扉を開ける。
「中々速い到着だったな」
部屋の奥玉座に座る熊の様な巨体を持つ男が座していた。そしてその横に控えるように立っている男女のプレイヤーがツボミを鋭い目つきで睨み上げる。
「一人で俺達三人を殺れると思っているのか?」
座して構える総指揮官がツボミを
「どうだろう? でも刺し違えてでも一人は道連れにするよ」
ツボミは脚を一歩引いて半身になり剣を中段に構える。
「ふん。威勢はいいみたいだな。お前ら相手してやれ」
脇に控えた男女二人に顎で指示を出す。
「OKボス」
「分かっているわ」
二人は各々の武器を構えて、ツボミとの距離を詰める。二人の獲物は女は小盾とツボミのよりは少し短い片手直剣を携え、男の方は先端が尖ったハンマーを肩に担いでいる。
「お前後ろからサポート頼む。こいつは俺がこのハンマーで穴あきドーナツにしてやるからよ」
「はいはいじゃあ任せたわよ」
そう言って女はそこで脚を止め、口笛を奏でる。音色はギター、炎を象徴するように熱いサウンドを掻き鳴らす。気分を高揚させ戦闘意欲を高める曲。そしてハンマーを持った男の体が紅いライトエフェクトに包まれバーの下に攻撃力上昇のバフアイコンが表示された。紅い光は男の体を包み込み、揺らめき纏っている。
「さぁ大人しくこの鎚の餌食になりな!」
肩に担いでいたハンマーを両手に持ち変え、ツボミに襲いかかる。横殴りに繰り出されるハンマー、それをツボミは後ろに下がる事で回避する。顔の目の前を過ぎ去るハンマー。抉られた風はツボミの髪を揺らす。男はそこで一度回転し遠心力上乗せしてもう一度横薙ぎの一撃を繰り出す。今度の一撃をツボミは地面に貼り付くように避ける。そして一階で戦った時と同じように跳ね上がる斬撃を放つ。ハンマー使いは急いで獲物を引き戻し、受け止めた。ツボミはそこから連撃に移る。相手に反撃の隙を与えないように息も付かせぬ連続技を繰り出す。斬撃と突きを連続で繰り出され、袈裟斬りが防がれればすぐさま腕を引き絞り突きで相手の防御を掻い潜ってダメージを与える。突きを放ったまま体を前に推し進め、相手の懐に飛び込み、体を前に突き込む事により、伸びきっていた腕を最短で引き戻し、もう一度突きを放った。だがツボミは突きを放とうとした腕を止め、横に振る。ガキィというサウンドエフェクトと共に火花のライトエフェクトが散った。いつの間に回り込んだのかツボミの後ろに小盾を装備した女が回り込んでいた。
「良く気づいたんじゃない。うまく回り込んだと思ったのに」
女は軽い調子でそう言うが、ツボミはそれを無視して二人との距離を取る。
「まったくお前もこんな女に送れを取ってるんじゃないよ」
「そういうなよ。こいつ結構やるぞ」
「ふんならお前は後ろで魔法を奏でてろよ。私が引き付けとくからさ」
「分かったよ」
斧使いの男が一歩引き、演奏を開始する。ドラムの腹に響く重低音その曲をバックに女がツボミに剣を突き出す。ツボミはそれに会わせるように下からすくい上げるように剣を合わせ、強引に弾く。女が体勢を崩した所に男と同じように連撃を当てようとするがその初撃を女は盾で防ぎ、ツボミの剣を弾いた。ツボミの攻撃を防がれた瞬間タイミングを計ったように響いていたドラムの旋律が終局を迎え、女の体を隠れ蓑に石の礫が飛来してきた。ツボミは急いで剣を引き戻し、礫のいくつかを叩き落とすことに成功するが全てを叩き落とす事はできず、体に礫が突き刺さる。
「ッ!」
ツボミの体に痺れる様な痛みが走る。その痛みにツボミは顔を顰め、当たった個所を抑えながら後づ去る。だがすぐにツボミは呼吸を整えてハープの音色を奏でる。ワンフレーズだけ奏でるだけで魔法を完成させたツボミは自分自身に回復魔法をかけた。礫によって受けたダメージを完全に回復させる。
「回復役が単身乗り込むとは驚いたぜ」
「私は一人じゃないよ」
そうツボミが小さく呟いた。その瞬間風が吹く。優しい中にも鋭さを持ち合わせた緑の旋風。その存在を感じとったツボミはすぐに方針を決める。
(うん、後は任せるよ。アユム)
そう決めてツボミはアユムに送る曲を演奏し始める。
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