単騎突撃
アユムは西の窪地に身を潜めたまま南の方角で爆音が響いた。
「始まりましたか」
アユムは耳を澄まして様子を探る。最初の爆音から立て続けに続く爆音。きっと今フィリアンは魔法の弾幕を掻い潜って斬り込もうとしている事だろう。爆音が響くたびに西門前を守っていたプレイヤー達が動揺し、少しずつ南に増援を送っているようだ。
アユムはウインドウを開いて柄を取り出し、左手に握る。そして静かにメロディーを紡ぐ。アユムはゆっくり丁寧に一音一音に心を込めるように奏でていく。そしてたっぷり時間を使って〝魔法剣〟を発動させた。風が刀身を形成し、右手に握った刀に風を纏わせる。今アユムが所持してる中で一番耐久値が高い武器だ。左右を軽く振って調子を確かめ、満足気に頷く。そして丁度三分後アユムも突入する。
動揺していたプレイヤー達は新たな敵の出現に更に動揺が襲う。その隙を突くようにアユムは最高速で敵の懐に飛び込む。そして一番近くにいた同じ刀を持った紫色の髪をした男性プレイヤーの胴を右手で薙ぎ、上と下に強制的に断ち切らせる。
続いてその隣で呆気に取られていたプレイヤーを右の刀で真っ二つに斬り割く。更に一歩踏み出し、自分の体を人の森の中に隠す様に入り込み、左右に開いていた腕を素早く胸の前に戻し、そのまま正面にいたプレイヤーを十字に斬る。また一人葬ったアユム。次々に消えていく仲間にプレイヤー達は大騒ぎだ。
「敵は何処に行った!」
「そっちだそっち!」
「いやこっちにいるぞ!」
情報が錯綜する敵軍。そんな中を持ち前の敏捷力と〝魔法剣〟の恩恵をフルに使って駆け抜けるアユム。だが如何せん敵の数は多く隙間を走ろうにも狭過ぎて通れない場所もあり、そのたびに迂回して通れるルートを探さないといけないからアユムは思う通りに本拠点に近づく事が出来ない。しかも敵の中にもアユムの存在に気付いて攻撃してくるプレイヤーがいる為そちらの対処も同時にしないといけない。
「てめえか!」
突き出された槍を掻い潜り懐に入り込んだアユムはそのまま勢いを殺さぬまま風を纏った突きを繰り出す。刀は敵が身に纏っていたローブに風穴を開けそのまま敵の体を貫通した。ポリゴンとなって消えていくプレイヤー。その周囲にいた連中が更に騒ぎ立て敵軍のパニックは最高潮に達する。
「FUCK!」
「敵はどこにいるんだ!」
「知るか! 自分で探しやがれ!」
「おい! お前の近くにいるそいつ違うのか!」
罵声が飛び交う敵軍。領土戦はそれぞれで活動しているプレイヤーを掻き集めてくるためお互いがお互いを知らないなど頻繁に起こる。そのため同士討ちを防ぐため通常時はシステムアシストが働いて視界フォーカスで敵味方を区別してくれるがこのようにパニックに陥るとシステムアシストが働かなくなり判別が付かなくなる。ゆえに相手はアユムを認識したとしても敵と判別できないのだ。それでもアユムの近くにいるプレイヤーはすぐに分かる為攻撃の手が緩まる事はない。次々に繰り出される剣、刀、槍、薙刀。振り下ろされる斧にハンマー、多種多様の武器がアユムのHPを削ろうと襲いかかるがその事如くを回避しお返しとばかりにプレイヤーをポリゴンと返していた。切れ味が増した〝魔法剣〟で急所を的確に貫かれたらHPが全損するのは仕方ないと言わざる負えない。だが幾重にも繰り出される攻撃を全て完全に躱せるわけがなく少しずつではあるがアユムのHPも削られていく。HPが減ると共に〝魔法剣〟を発動してる間はMPを常に消費するためMPのゲージも減っていく。
(まだ門は遠い……まだ敵は混乱してくれているけどそう長くは続かないだろうし……消費が激しいからあんまり使いたくないけど……仕方ないよね)
アユムは風の太刀に意識を集中する刀の形に留めていた結合を緩め、風の粒子が回転し範囲を広げて叩きつけるイメージ。
「ハァ!」
風の結合が解かれ竜巻を形成し、莫大な力が叩き付けられ地面は盛り上がり吹き荒ぶ鎌鼬がプレイヤーを斬り割いていく。更に舞い上がる粉塵がアユムの姿を隠し、敵は更にパニックに陥る。視界は茶色に練り潰され、目を凝らせば辛うじて隣の相手が見えるといった具合だ。
そして更にアユムは普段の彼では考えられない派手な行動に移った。
「フッ!」
短く息を吐き出してプレイヤーの頭を足場にして一直線に門を目指す。プレイヤーを足場にして空を飛ぶように移動する。彼の飛距離は八艘飛びの源義経も真っ青の飛距離だ。アユムは残りの距離をわずか十秒で踏破し、門を潜ってその裏で息を潜めた。
アユムは一度安堵の息を吐き、もう一度気を引き締める。
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