開戦
パーティを組んだメンバーは同じ拠点からスタートする。よってアユム達三人は拠点の前線の西の端に降り立った。先に扉に入って開戦を待っていたプレイヤー達はフィリアンの姿を認めるとボルテージを最高潮まで高め、盛り上がる。
「聞きなさい! 私はスペードとして敵拠点を叩きに行きます。この拠点にいるスペードとクラブは東に向かいながら拠点を落として行って下さい。ハートは激戦区になるだろうエリアに向かって仲間の回復をして下さい。ダイヤは数人ここに残り、後はハートと一緒に行動して頂戴」
「フィリアンさん御一人で向かわれるのは危険すぎます。どなたか護衛を連れて行かれた方が?」
「それは問題ないわ。心強い仲間が二人もいるもの」
フィリアンはアユムとツボミに視線を向け、微笑んだ。その笑みに頷きで返す二人。
そしてようやく戦場開始の花火と共に視界いっぱいに【START】という文字が浮かび上がった。
「各人死力を尽くしなさい!」
フィリアンの激に対して雄叫びで返し、駈け出していく。
「アユム、風の補助をお願い」
「はい」
アユムはフルートの音色を戦場の隅々まで響きそうな調べで一音一音心を込めて奏でる。
「追い風」
三人の足元から蝶の形を模した精霊が飛び回り、力を分け与える。風の範囲補助魔法だ。
フィリアンは自分の下に敏捷値のパフアイコンが付いたのを確認すると先頭を切って走り始める。二人もその後ろに付いていき行軍を開始する。三人はつい最近出会ったばかりだというのにその動きにも乱れがない。走りながらフィリアンが二人に言葉をかける。
「一番近いこの拠点を落とそう」
フィリアンは地図を共有し、敵の拠点の中で一番近い所を狙う。
「陣形は私が敵をこの槍で貫きながら進むから、二人は左右からの横撃を対処して」
「分かりました」
「分かったわ」
さくっと簡単な作戦を立て、三人は最初の拠点に向かって真っ直ぐに突き進む。だがもちろん拠点に近づくということは敵に会う確率も跳ね上がるということ。つまり三人が戦場の森の中に入った瞬間敵に遭遇してしまうのも必然だということだ。
フィリアンパーティーが森の中を進んでいる時、森に入ってきた敵パーティーと遭遇した。相手の数は五人、いずれも軽装な装備で身を固め、風のエンチャントをかけて敏捷力を底上げしている。相手の奇襲部隊と見られる。相手も驚いたようだがすぐにその速さを生かしてこちらに襲いかかって来る。各々に短剣と片手直剣を持ち、木々の隙間を縫うように近づいてくる。
「二人共急いで森から抜けるよ! ここじゃ各個撃破されるのがオチだ!」
フィリアンはそう言って威嚇するように槍を横薙ぎに振り、プレイヤーを遠ざける。だがこの森の中ではフィリアンは全力で戦えない。槍の様な長物は木々が立ち並び、障害物が多い場所では存分に振るう事が出来ないからだ。
「フィリアンさんは先に抜けて下さい。敵はこちらで引き受けます」
アユムがフィリアンの横を通り抜け、敵と相対する。アユムが一番最初に目を付けたのは森の中でも器用に障害物を躱し、素早くこちらに向かってくる短剣使いのプレイヤーだった。
短剣使いはその身のこなしを最大限に生かして、アユムを短剣の射程範囲に入れる。ナイフを一閃煌めかせて、アユムの首を狙う。
アユムは刀を持ってない手で相手の手首を握り、そのまま捻り、動きを止めたところで情け容赦なく胸の中央に深々と刀を突き刺した。HPバーは白くなりポリゴンとなって金色の光の粒となって転送された。
「ヒュ~やるぅ」
フィリアンがおちゃらけて喝采を上げる。そう言いながらもフィリアンも狙ってきた敵プレイヤーのその剛槍から繰り出す一突きでまた一人リタイアに追いやった。あっという間に数は三対三のイーブンになった。残った敵は悔しげな表情を浮かべながら距離を保ちながらゆっくりと後退を始めた。
「二人共やっぱり凄いね」
後ろで待機してたツボミが二人に賛辞を送る。
「ツボミも前に出て。こいつらあんまり強くないから。一人一殺で行くわよ」
フィリアンは中央のこのパーティのリーダーと思われる片手直剣を持った女プレイヤーに狙いを定め、襲いかかる。もちろん攻撃は突きしか出来ないわけだが、それだけでフィリアンは十分に強い。
「ハァァァァ!」
裂帛の気合を持って目にも止まらぬ連続突きを繰り出す。敵の近くにあった灌木や樹木、岩などが派手に弾け飛び、同じようにプレイヤーも弾け飛んだ。プレイヤーが飛んだ先は森の外、よってフィリアンは全力を持って自分の本気を発揮する事が出来る。フィリアンは相手が体勢を立て直す前に再接近し、傍目には同時にしか見えない上段と左右そして突きという四連撃を全て急所に叩き込み倒した。
フィリアンが周囲を見渡すと同じように止めを刺し終えた二人の姿があった。
「お疲れ様二人共この勢いで拠点も落とすよ」
足を止めずに再び進軍を再開する三人。かなり近くまで来ていたのか。ものの数分で森に囲まれた形で隠れた拠点を見つけた。三人は見つからないように迂回し森の茂みに隠れながら中の様子を窺う。
「人の姿が見えませんね。拠点に詰めているプレイヤーはどこに行ったのでしょう?」
アユムの言葉に応じたのは気配を探っていたツボミだった。
「ううん。拠点の中央、シンボルがある所に三人いるみたい」
シンボルとは拠点の中央に設置してある目印でその国の国旗のカラーで色分けされている。日本なら白と赤、アメリカなら青と黄色だ。このシンボルに拠点内にいる敵全てを倒して攻撃を与える事で奪った事となる。
「拠点を守る人数が少なすぎるわね……どういう事かしら?」
うーむと呻きながら顎の下に手を置いて考えるフィリアン。
「とりあえずツボミは周りにも気を付けて。罠の可能性も捨てきれないけど守りが薄い今がチャンスなのは確かだからね」
槍を握り直し、二人に指示を出す。
「守り手は私とアユムが相手するから、ツボミは周囲の警戒を継続しながら付いて来て。じゃあ行くわよ」
しゃがんだ姿勢のままダッシュする。土嚢を飛び越え一直線にシンボルがある拠点中央に向かう。シンボルの周辺には身を隠せる様な障害物もないゆえにシンボルを警護していた三人にもすぐに気付かれた。薙刀、刀、細剣、各々武器を構えて、フィリアンとアユムを迎え撃つ。
最初にぶつかったのは長物どうしの槍と薙刀、袈裟切りに振り払われた薙刀をフィリアンも槍を払って火花を散らし、そのサイドから刀と細剣がフィリアンに斬りかかる。その刃を止めたのはアユムの刀とツボミの放った水弾だった。アユムは上から振り下ろされる刀を受け止め、ツボミは細剣が放たれる前に水弾を撃ち込み、動きを止めた。そのままツボミは遠く離れた位置から細剣使いが動き出そうとする瞬間を見逃さず、ハープを一音奏でて水弾を放ち、相手の動きを阻害する。
アユムは珍しく積極的に攻め、刀使いを押しやり、一対一の状況に持ち込むとフェイントを混じえた十連撃、相手もアユムの剣速に付いていけないのかじりじりとHPを減らし、半分を切った所で更に速度を上げ本命を当てに行く。上段、下段、中段三方向からの剣戟を相手の刀に当て、相手が動きを止めてる間にその内側に入り込み、止めの上段からの振り下ろしを喰らわせ、ポリゴンへと還す。
アユムが振り返るとまだ戦闘を続ける二人、細剣使いは今だ、ツボミからの攻撃を受けて動けないでいる。薙刀使いはかなりの手練なのかフィリアンの攻撃を辛うじて捌いている。もちろんフィリアンはそんな様子を楽しんでるのか余裕の笑みを浮かべている訳だが。
アユムは薙刀使いをフィリアンに任せ、ツボミが足止めしてくれている細剣使いを次の標的に決め、地面を滑るように移動する。ツボミもそれを察したのだろう。攻撃の手を一旦止め、少し長い魔法の演奏に入った。その隙を埋めるように絶妙なタイミングでアユムが足払いをかけ、体勢を崩させる。
「うわっ!?」
細剣使いは驚いた声を上げ、無様に尻餅を付く。アユムはその隙を逃さず横から刀を薙ぐが咄嗟の所で反応した細剣使いに躱されてしまう。
「アユム!」
後ろからツボミの鋭い声、それだけで意図を察したのかアユムはバックステップでその場から離れ、距離を取る。その瞬間ギリギリの際どい所を水流が流れていき、水弾で削れていたHPを残らずその流れで食い潰した。
「次!」
「はないわよ」
アユムが息撒いて言ったのを挫くようにフィリアンが告げた。
フィリアンが相手をしていた薙刀使いはいつの間にか消えていた。
「まずは一つ目ゲット」
シンボルに槍を突き立て、拠点を奪う。三人が一段落と息を吐いたその隙を狙った様にフィリアンにコールが掛かる。
「どうした?」
「フィリアン様。ドレンです。アメリカが全ての勢力を中央に集中して、真っ直ぐに我らの拠点に向かってきています!」
淡々と答えるドレン。ドレンは今回の戦争の総指揮官の任を任されているフィリアンの右腕だ。〝堅牢の大盾〟の二つ名を持つランカー八位の実力者でもあり、その鉄壁の防御の前にはどんな攻撃も無意味と言われている。そしてそれに応じるフィリアンの声も淡々と答える。
「すぐにダイヤとハートを集めて防衛に当たらせなさい。とにかく本拠点に近づけさせないで。後スペードのメンバーに通達。拠点の奪取はしなくていいから、本拠点にいる総指揮官を潰す様に伝令を飛ばしなさい」
「了解しました」
気合に満ちたドレンの姿が目に浮かぶほどの覇気と勢いで通話を終了した。
「私達もすぐに本拠点に向かうわよ。こちらが先に落とすかこっちが先に落とすかの競争よ!」
「分かりました!」
「分かった!」
三人は頷き合い、本拠点に真っ直ぐ向かう。
読んでくださった方ありがとうございます。




