誘拐
そして領土戦に出る事を決めたあとの鍛錬場。いつものように定位置に着いた二人は互いの獲物を構える。だが最初の頃の様な決闘モードを起動する事はしない。そして唐突にアユムの方から動いた。左の斬り上げ、右の斬り降ろしアユムの初動で好んで使う攻撃だ。だが明らかに浅く、ツボミはそれを半歩後ろに下がるだけで回避する。だがアユムはそのまま胸の前でクロスし手首を返して一歩跳ねるようにツボミの懐に飛び込み返しの刃を放つ。ツボミは剣を地面に突き指しそれを足場に上へと逃げる。だがツボミを追尾するようにアユムの刀が跳ね上がりその体を襲う。ツボミは咄嗟に腕を前に突きだし防御の構えを取る。刀がツボミの腕に触れるか触れないかの所で金色の光に弾かれる。街中にいる場合はプレイヤーは攻撃を喰らってもシステムに守られダメージを受けることはない。だが例外もあり街の中で出現したモンスターに対してはシステムの防御が働かないのである。そのまま脚から着地して満足げな顔を浮かべる。
「大分良くなったんじゃない。私の動きにも付いて来れるようになったし」
「ありがとうございます。それにしてもツボミさんの動きは予測するのが難しいです。トリッキー過ぎますよ」
「私もアユムとの鍛錬で自分の動きを洗練してるんだよ」
「それは……なんというか……嬉しいです」
「嬉しいってなんで?」
「いえ、僕ツボミさんに迷惑かけてると思ってたんです。でも僕もツボミさんの役に立ってると嬉しくなって」
えへへと頬を緩めて笑うアユムにツボミはそれを感じとったのか頬を赤く染めポンと頭に手を乗せ照れながらも、
「バカだね君は。私は君に助けられてばかりだよ」
だって……だし……それに……なんだもん。もごもごと何か呟くがアユムには聞こえておらず首を傾げるだけだった。
「それじゃさっさと議事堂に行って参加する事伝えに行きましょう」
「そうですね」
二人は階段を出てそのままマスターに軽く挨拶を交わして喫茶店を出て街の中央に聳える国会議事堂に向かう。国会議事堂は元の世界の東京都千代田区にある国会議事堂がそのまま国を治めるプレイヤーが政治をするための施設となっているのだ。議事堂の回りは公園になっており二人は遊歩道をのんびりと歩いている。そして話題は自然と領土戦に関する話題になる。
「僕、領土戦は久しぶりなんです。集団戦があまり好きじゃないので」
「私は先々月の領土戦にはハートとして参加してたんだけどね。その時私二位のフィリアンとパーティ組んだのよ。私が回復士の中で一番レベルが高かったらしくてね。ランカーの戦いを真近で見たんだけどしみじみランカーの存在って別格だねって実感したよ」
「ランカーとパーティを組んだんですか!? 凄いです! それで強かったですか?」
目をキラキラさせながら問いかけるアユム。
「ランカーの名に恥じない戦いぶりだったよ。彼女程の為に一騎当千の言葉があると思ったくらいだもん」
「そんな凄い人なんですね。流石ランカー二位凄すぎます」
「うん、戦闘は凄かったんだけど……」
そこでツボミの声は途切れ一陣の風が通り過ぎて行った。
「えっ?」
「アユム~~~……」
ツボミの姿と声はどんどん小さくなりやがて視界からフェードアウトしてしまった。放心状態のアユムはしばらくツボミが連れ去られた方向を眺めていたがすぐに正気を取り戻し、
「ツボミさーん!」
と呼びながら後を追うのだった。
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