手合わせ
「ツボミさん、お手合わせ願いませんか?」
「藪から棒にどうしたの?」
「いえ、ツボミさんは僕の二刀流も〝魔法剣〟も知っていますので……それに人と手合わせした方が上達するかなっと思いまして」
もごもごと答えるアユム。そういう自信の無さがより女の子っぽく見せる要因の一つなのだが本人が気付くわけがないというより気付いていたら自分で変えられるだろう。そしてツボミも気軽に返す。
「別に構わないよ。強くなりたいってアユムの気持ちも分かるし。だけどどこでやるの? 君の二刀流と〝魔法剣〟は秘密なんだから誰にも見られないとこが良いんじゃない?」
「そっそう言えば考えてませんでした……」
恥ずかしそうに頭を掻くアユム。だが救いの手は案外近くから差し伸べられた。
「それなら地下室貸そうか?」
話を聞いていたのだろう。手にコップと布巾を持ったまま二人の近くに立った。
「地下室ってこの下にそんなの合ったんですか?」
少し驚きを含んだ声で問いかけるアユムにマスターはあっけらかんと答える。
「ん? 言ってなかったかな。私が自分の鍛錬用にこの店立てる時に一緒に作ったのだよ。手合わせするのにも打って付けだし誰かに見られる心配のないぞ」
マスターはアユムの二刀流も〝魔法剣〟の事も知っているため話にすんなり入って来れたのだ。そんな降ってわいた幸運に即アユムは飛び付いた。
「貸して下さい!」
快くアユムの手の上に地下室の鍵を置き、マスターは再び定位置であるカウンターの中に戻った。地下室の扉はカウンターに続いている休憩室らしき部屋の隅に取りつけられていた。
地下室は周囲を石造りの壁で囲まれ床はフローリング、蛍光灯の明かりで十全に明るく確かに稽古をするのには申し分ない広さを持っている。
地下室に降り立った二人は向かいあい武器を構える。アユムは二刀をツボミは片手直剣を手にしている。
「決闘モードでしますか? そちらの方が分かりやすいですし」
「いいよ。じゃあルールは制限時間五分間のハーフアンドハーフでいいかな?」
ツボミがウインドウを開いて操作し決闘のルールを書き加えていく。ハーフアンドハーフは互いのHPが半分を切った所で勝負が付くルールだ。
「ほい」
ツボミは最後にYESのボタンを押してウインドウを閉じた。そしてアユムの視界でシステムメッセージが開き【ツボミから決闘の申し込みがありました。受けますか?】という文字が出てきた。アユムはすぐに受け、対戦格闘ゲームの様に視界の上に互いのHPバーと時間が表示されるのを確認する。そしてその中央で数字が浮かび上がりカウントダウンを開始する。
ツボミはすでに張り詰めた雰囲気を纏っている。五、四、三、二、一になった所でアユムは短く告げる。
「では……行きます」
零。一足跳びで懐に入り込んだアユムは左からの斬り上げ、右からの斬り下げ、上下から同じタイミングで狙う。ツボミは左の刀の下に剣を差し入れ更に押し上げる事で強引に軌道を捻じ曲げ、そのまま右の刀を受け止め、そのまま空いている片方の手で顎をかち上げる。アユムは体を逸らして直撃は免れバク宙で距離を取る。
「そこで距離を取るのは私に攻撃のチャンスを生むから肉薄して対処するのがいいと思うよ」
今度はツボミの方から斬りかかる。アユムはすぐに右で防ぎ、左で縦に斬る。
「僕の場合、肉薄してからの選択肢あまりないんですよ。両手が塞がってますからツボミさんのように拳底も繰り出せませんし」
半身になって躱すツボミ。
「それなら相手を不用意に近づけさせないようにしないとこういう事になるわよ」
姿勢を低くしたツボミはそのままアユムの足を払い体勢を崩させ、浮ついた片腕を取って放り投げた。
「うわっ!?」
うわずった声を上げたアユム。だがすぐに空中で身を捻って足から着地する。
「二刀流の強みはその手数の多さなんだから流れるように攻撃しないとダメだよ。防御は二の次。防御するならその後の攻撃も考えなくちゃ。攻撃した後相手がどう動いてどう防御するかそれを頭の中で描いて攻撃を繰り出す。一撃目は陽動、ニ撃目が本命とか。両方フェイクで三撃目を本命に置いたりね。常にどちらかの刀は攻撃に置いておくべきだよ。だけどアユムの場合は」
途中で会話を切ってツボミは突きを放つ。眼前に迫る剣をアユムは左の刀で弾き、右で薙ぐ。だが既にそこにはツボミの体はなく再び低空から足払いをかける。流石に二度目だったためその場で軽く跳び躱すが着地する瞬間、その場で一回転して遠心力を上乗せしたローキックが襲った。アユムはすでに空中にいる為避ける手段もなく喰らいライトイエローのダメージエフェクトが煌めきそのまま倒れ込む。
「防御した後の攻撃が疎かだよ。反射的に繰り出してる感じ。だから私の動きを認識するまでにラグがあるから有効な攻撃が繰り出せないのよ。それにアユム正直すぎるんだもん。それが君の良い所なんだけどモンスターの戦闘ではまだしもこの前のウォンみたいなプレイヤーと争う時には通用しないと思うわよ」
「それじゃ僕はどうしたらいいんでしょうか?」
地面に正座して聞いていたアユムはカクンと首を横に倒して訪ねる。
「そうだね……私との鍛錬の時は攻撃に最低二回はフェイントを入れるのはどうだろ? そうすればアユムの二刀流はより驚異になると思うんだけど? とりあえず試しにやってみようよ。で、ダメだったらまた色々試行錯誤して行こう」
すっかり手合わせではなく修行になってしまった二人の決闘、その事に二人が気付いたのは五分経って【ツボミ WIN】という表示が出てからだった。
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