秋雨
雫が、こぼれた。
『秋雨』
ポツリ
地面にできる、斑点。
時がすぎる度、それは増えていく。
肌に、触れた。
(冷たい…)
ざわついた駅が、冷気に包まれていく。ガタン、ガタンと、電車がせまって、止まる。
降り始めた雨に、せわしなく走ってゆく人々。人が乗って、降りて、空席の多い電車は、どこか悲しげ。
「どのくらいかかるっけ?」
「早くて一年、長くて三年。」
「そっか…」
終わった会話。続く沈黙。ふたりの体は、びしょぬれだった。
あまりに気まずくて、思わず出した言葉は、残酷な本音。
「夏休みとか、正月は…」
「状況によるかな。できるだけ帰ってきたいけど。」
「……そう。」
投げ掛けた質問が残酷なら、答えはもっと酷いものだ。
再び、ふたりして黙りっぱなし。目も合わせない。
「〜♪」
重い沈黙を破るかの様な、アナウンスが流れる。
ふたりの時間は、残り僅か。
「そろそろだね。」
「うん……。」
気のない相槌。
(私はどうなるの?)
(もう会えないの?)
(これで終わり?)
……言えるわけない。
うつむいた私に、君は何も言わない。雨は霧雨となり、目の前が霞む。
発車のベルが鳴り響く。
「もう、乗らなきゃ──」
君の腕を力の限り引っ張り、言いかけた言葉を遮らせた。
自分の唇を、君のと重ねた。
「愛してるから。」
私が、今一番伝えたい言葉
君はフッと、微笑んで、私の腕を優しくほどいた。冷たい雨は、やむ事を知らない。
君は大きな一歩を踏み出し、電車へと乗る。
そして、最後、ドア越しに聞こえた君の『サヨナラ』の声。
ガタン、ガタンと、去ってゆく電車を、追い掛けもせず、いつまでも見つめていた。
雨は嘆いて、空は泣く
去りゆく背
見つめて濡れる
私の頬
伝っているのは
本当に雨?