夕陽の赤
元は詩でしたが、詩にしては多く重くなったので短編小説にしました。
なのであんまり小説っぽくないかもしれません。
思ったことをぐだぐだと文章にしただけです。だから意味もオチもありません。
しかもかなり自虐要素満載です。
それでも読んでくださる方は、どうぞ。
―――見る者が誰もいなくなった世界でも
夕陽は赤いと言えるのだろうか―――
どこかで聞いた言葉。
くだらないって、思った。
◇
「じゃあね」
「うん、また明日ね」
目の前を通りすぎた彼女。一瞬、こちらを見たような気がしたけど、僕にそれを確かめる勇気はない。
なんでもない、普通の中学の3年。そこに僕はいる。
いわゆる、落ちこぼれ。
いわゆる、いじめられっ子。
運動神経は悪い。成績も悪い。
ルックスも、顔は普通くらいだけど、背は低いし横に太め。
いいところなんかない。
人は見た目じゃない、なんて言葉は所詮詭弁。それに、中身だって自慢できる程上等じゃない。
優しいとかいい人は、ステータスにはなり得ない。そんなモノは余程の変人狂人でなければ誰でも持っている。
「………、………」
「………?………!」
また、誰かが僕を指差して笑っている。
日常茶飯。もう、反応する気力は枯れ果てている。
光の見えない現実から逃げるように、足早に昇降口を抜けた。
外には、いつの間にか生暖かい風が吹きはじめていた。
まだ降らないだろうが、下校の途中で確実に雨になるだろう。
駆け出そうとして………止めた。
濡れることになんの問題がある?
鞄は防水仕様中身は濡れない。風邪をひくのもむしろ大歓迎だ。
学校を休む、立派な理由ができるのだから。
(………負け犬根性)
自虐的に心の中で呟いても、何が変わるわけもなかった。
雨は結局、学校を出て50歩も歩かないうちに降りだした。
◇
翌日、風邪をひくこともなく登校。自分の無駄な頑丈さが恨めしい。
授業が始まって数分。
教室は至って静かで、教師の声以外聞こえない。
話を聞くことを放棄。一番後ろの席なので、見咎められることもそうそうない。
暇潰しに、教室を見渡すことにした。
「…………、…」
「……、…………」
自分の席から見て、右斜め前の方向。
かなり離れた位置の彼女が目に入る。
黒板を見ては手を動かし、真面目にノートをとっている。
普段の柔らかい雰囲気とは違い、凛とした表情。何を見ても誉め言葉しか出てこない。
―――お前ごときが彼女を誉める?
バカにするのも大概にしろ。お前が彼女の何を知ってる。
想うだけなら自由。そんな思い上がりは即刻焼却処分だ。
お前に想われてしまう彼女のことを考えろ。
なかなか言うことを聞かない気持ちを、理性が殴り飛ばす。
そう、あり得ない。知ってるはずだ。何を考えようと、現実はそこにある。
残酷で優しい僕の現実は、そこに彼女との繋がりが何もないことを教えてくれる。
彼女が僕から遠いところにいて、僕には眺めるくらいしかない。
彼女が誰かのモノになっても、何も変わらない。
そう、何も。
◇
下校。
なんだか今日は早く帰りたかった。
だから、本当は担任に呼ばれていたのを仮病でサボった。
………どうせ、成績の話だろう。何を言っても何をやっても変わらないのに、ご苦労なことだ。
勉強やスポーツ。その他、社会で生きるための技能。それらを習得するのに個人差なんてあって当然だろう。
頭のいい人。運動が得意な人。他人と付き合うのがうまい人。
何か一つができる人がいれば、全部そつなくこなす人もいる。
その逆もまた然り。
僕は何もできない。
何も持っていない。
人に誇れるモノなんて。
……くだらない。
この言葉が口癖になったのはいつからだろうか。
何もできないから、全部自分には必要ないと捨てた。
………逃げた。
これが逃避だってことは、誰に言われるまでもなくわかってる。
わかっててもどうしようもないこと。
使い古された『前向きな言葉』なんていらない。
人には分相応って言葉があるんだから。
思考が深くなり、ほとんど無意識で裏門へ歩く。
この学校は、出入口が二つある。僕は裏門を通る方が家に近いので、いつもこちらから帰っている。
裏門の向こう、100メートルくらい離れたところに、背中が二つ見えた。
男女二人らしく、ひどくゆっくり歩いている。
僕は基本的に早足で歩くので、どんどん近づく。
まぁ前に誰がいようと僕には関係ない。
邪魔なら追い越す。ただ、それだけ。
「―――――」
追い付き、通りすぎる瞬間。
女の子の方がこちらに目をやった。
無視するつもりだったのに、目が合う。
立ち止まらなかったのは奇跡だ。
見慣れたクラスメートの男と歩いていたのは、彼女だった。
わかっていた。
こんな日がくることは。
現実が叩きつけられる日が。
でも気持ちの動揺は理性では抑えられなかった。
家にどうやって帰ったのか、わからなかった。気付けばベッドに倒れこんでいた。
いつまでも、さっきの光景が目に浮かぶ。
涙は出ない。当然だ。
僕に届くはずのないモノだったのだから。
わかっていたことなのだから。
だから、目の前が暗くなる理由なんて知らない。
これは世間で言う失恋なんかじゃない。
恋を失ったわけじゃない。終わったわけじゃない。
初めから、始まっていなかった。スタートラインに立ってすらいなかった。
遠い出来事。関係のない事象。それが一つの結果を迎えただけ。
だから。
だからこんなに心が重いのは、きっと錯覚だ。自分に酔いたいだけ。
『失恋して傷付いた自分』に憧れているだけ。
人が普通に持っているモノを自分も持っていると思いたいだけだ。
知らない知らない知らない。
こんなモノは僕にはない。僕の中には存在していない。
なにもかも壊したくなるのは、ただ何もないセカイに飽きただけだ。
◇
―――現実には二種類ある。世界の現実と、自分の現実。
世界の現実は、何があろうと厳然たる事実としていつでもそこに在る。
夕陽のように。誰が見ようと見まいと。
でも自分の現実は違う。
世界の現実を、自分が知ったとき、それが自分の現実になる。
自分が知ったことしか現実にはならない。
夕陽の赤い色のように。
知らなければそこにそれは無い。
……逆に言えば、知ってしまえば最後、それは確かな形を現実の中に作る。
◇
―――知らなければ夕陽は ただ夕陽であるだけだ―――
誰かの隣にいる君を見た。
自分が一番、くだらないって、思った。
一応、事実をベースにして書きました…………とか言うと、これを読んだ友人たちに追及されそう。
妄想の産物ということにしておきます。
駄文なのに最後まで読んでくださり、ありがとうございました。