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第23話「案外、本当に旦那様になる日も近かったりして.....」

 俺は、泉のそばで毎朝土をいじっていることを思い出した。


 「気になったから直していたんだが、もしかして......」


 「気になること自体が、答えだったんですね」


 「……なんか、急に色々合点がいったな」


 「私は最初からそうじゃないかと思っていましたよ!」


 「なんで言ってくれなかったんですか.......?」


 「確信を持てなかったんですけど——でも今日、写本が届いたので.....」


 「届いていろいろとわかったな」


 「本当によかったです」


 セレフィーナが少し微笑み、それからまた真剣な顔になった。


 「最後の頁があります」


 「とにかく読むとするか」


 「……心の準備を」


 「さっきもいったと思うが、俺は事実を受け止める用意はできている」


 「今度は本当に、重いので.......」


 「大丈夫だ、安心しろ。この程度でいかれるほどやわなメンタルはしてないつもりだ」


---


 最後の頁は、他より紙が厚く、保存状態がよかったのか文字がはっきりしていた。


 俺は読み始める.......


---


 付記として、後世の者へ伝える


 冥境の門印の真の力は、いまだ全容が解明されていない


 ただわかっていることは、三つだけである


 一つ......この紋章は世界の【境界】を認識する。生と死の境界、安定と崩壊の境界、現世と異界の境界


 二つ.......この紋章を完全に使役した者は、記録上、一人も存在しない。七名のいずれも、真の力の端緒に触れることなくこの世を去った


 三つ......冥境の門印の【完全使役】が何をもたらすのか、誰も知らない


 ただ——古の予言書には、こう書かれている


 「冥境の門を完全に開けた者は、世界の在り方そのものを変える力を持つ」と。


 これが祝福なのか、呪いなのか。それは、後世の者が判断することである。


---


 俺は読み終えて、羊皮紙を静かに折り畳んだ。


 俺はしばらく、何も言えずにいた。


 「……」


 「レイン」


 「……どうかしたか?」


 「大丈夫.......ですか......?」


 「大丈夫に決まってるだろ。元気ピンピンだ」


 「本当に?」


 「まあ……本当のところを言うと少し、整理が追いついていない点が所々あるが」


 セレフィーナが静かに隣に近づいた。


 「怖く......なりましたか?」


 俺は少し考えた。


 怖いか、どうかというそんな単純な疑問を。


 「不思議と……怖くは、ないな」


 「なぜですか、あんな事実が明るみになったのに.......」


 「なんとなく——そういうものかな、と思ったんだよ。それこそ“感覚”だ」


 「そういうもの、というのは......」


 「俺がずっと、気になったら直して、困ってたら助けて、それだけやってきたのが——この紋章の役割だったなら、まあ」俺は少し間を置いた。「俺がやりたくてやってきたことと、一致してるじゃないか」


 「たしかに一致、していますね」


 「気になったから動いていた。それが役割だったなら——別に、何も困ることはないな」


 セレフィーナが、少し黙った。


 「……あなたは」


 「また同じことを言うきかい?」


 「本当に、変わらないですね」


 「その言葉、ありがたく受け取らせていただきますよ。セレフィーナ王女」


 「もう! 真面目な話をしているんですから、揶揄わないでくださいよ! というか.........世界の在り方を変える力を持つかもしれないと書いてあっても困らない、と」


 「まあ——使い方を間違えなければいいだけじゃない?」


 「自分自身が絶対に間違えないと言い切れるんですか?」


 「言い切れるな」俺はキッパリと答えた。「気になったら直す、困ってたら助ける——それだけでいいなら、今まで通りで十分だからな」


 「……」


 セレフィーナが、少し目を細めた。


 「——三年前、密林で私を助けてくれた時も、同じ気持ちだったんでしょうか」


 「そうだな.......泣いてたので、なんとかしたかっただけで」


 「それが」彼女は静かに言った。「世界の声に応えることだったんですね、あなたにとって」


 「お前は相変わらず大袈裟だな」


 「大げさじゃないですー!」


 「まあ……結局はそういうことだよな」


 しばらく二人で空を見ていると、雲がまた一つ、流れていった。


 「あの」


 「どうかしましたか?」


 「一つだけ、聞期待ことがある」


 「.......何なりと」


 「“完全使役”が何をもたらすか、誰も知らないと書いてあったよな?」


 「たしかにそう書いてありましたね」


 「俺は——「完全に使いこなせる」と以前言った」


 セレフィーナが静かに頷いた。


 「それもたしかに言っていましたね」


 「あれは、まあ——感覚的にそう思っただけで、本当に完全かどうかはわからないんだが」俺は少し考えた。「でも……もし本当に完全に使えるとしたら」


 「はい......」


 「世界の在り方を変える、というのが、どういうことなのか——少し、気になりはするよな」


 セレフィーナが、今日初めて、大きく息を吐いた。


 「……やっと、気になると言ってくれましたね」


 「正直今まで大して気にしてもいなかったんだが、ふと気になってしまってな」


 「知っています。だから——やっとか、という気持ちです!」


 「そうなのか」


 「そうなんです!」彼女は少し笑った。「一緒に調べましょう。私も、知りたいですから」


 「そうするとしようか」


 「はい、なんて言ったって.......あなたは私の婚約者兼、運命の番でもあるんですよ! 旦那様!」

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