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第19話「やっぱ純粋なやつほど的を射ていることを言う!!!」

  「――朱雀門」


 黒が広がり、足元の影が揺らぐ、その瞬間にはすでに空間そのものが軋み始めた。空に巨大な紋様が浮かび上がる。


 黒、深紅、そして.......金


 三色の光が複雑に絡み合い、一枚の巨大な門を形成していく。


 荘厳だった。まるで神話の一場面かのように、空そのものに門が出現する。

 

「――開門」


 その言葉が放たれたとき........世界が燃えた。

 

 轟と、黒炎が噴き上がる。それは普通の炎じゃない。熱を持たない、にも関わらず空間を焼く。

 

 影を燃やし、魔力を燃やし、存在そのものを炙り出す炎。巨大な朱雀が、門の奥で目を開いているかの如く、生徒たちが悲鳴も出せず立ち尽くす。

 

 あまりにも神々しく、あまりにも恐ろしい。

 

 そして......魔鳥が、あの空中の覇者とも言える怪物が初めて恐怖という感情を手にする。


 巨大な翼が硬直し、赤い瞳が見開かれる。


 自分よりも上の存在がいるということを本能が理解したのだ。捕食者ではない、もっと絶対的な何かがいると。


 魔鳥は鳴きも暴れもせず、ただゆっくりと空中で頭を垂れた。まるで王へ跪く臣下のように。

 

 ゼルドが息を呑む。周囲にいた生徒たちも理解できなかった。........一種の災害が、騎士団ですら恐れる魔物が人間という生物に恐怖をしている。

 

 その対象はーーーーーそう、俺だ


 「……俺だってお前みたいなやつとやり合いたくはないんだ。大人しく帰ってはくれないか?」


 静かな声だ、だが逆らうことのできるものは決していない。だって......この刻に限っては“俺”が世の理なのだから。


 魔鳥が嘴を開き、ゆっくりとゼルドを解放した。三十メートルの高さから、まっすぐ落とされる。


 「——〈天翼・捕捉〉!!」


 下からセレフィーナの術式が発動される。光の翼がゼルドを包んで、ゆっくりと地面へ降ろしていく。


 俺は魔鳥を見た。


 黒い目が俺の紋章を——正確には、紋章から滲み出る黒い光を、じっと見ていた。


 「もうこんな場所にはくるなよ」


 そう静かに語りかけた時、意思疎通ができたかのように魔鳥は目を一度閉じ、そして、見開かれる。


 魔鳥が大きく翼を広げ、一声も鳴かずに遠ざかっていく。見る間に小さくなって、やがて空の端に消えた。


---


 屋根の上から降りると、廊下が静まり返っていた。全員が俺を見ている。


 セレフィーナが駆け寄ってきた。


 「無事ですか!?」


 「そんな心配することはないって言っただろ」


 「怪我は」


 「してるように見えるか?」


 セレフィーナは、俺の体全体をじっくりと観察するように一通り見てから、ほっと息をつく。


 そんなこんなで、面倒なことが一つ終わった、と考えた瞬間、アイラが全速力で走ってきて俺の肩を掴んだ。


 「無事!?」


 「お前らは少し俺のことを信用してみたらどうだ......」


 「よかった!! でも、私怒ってるからね!!」


 「女子は情緒が不安定だな」


 「そんな風に言わなくたっていいじゃん!! 心配したの!! たぶんって言ってたじゃん!! 実際、落ちなかったからよかったけど!!」


 「……心配させてしまったのは謝らないとな.......すまなかった」


 「その謝罪受け取った!!」


 エリクがいつも通りの死んだ魚の目で「上位魔物を一声で追い払ったのか、こいつは」と呟いていた。


 「てか、なんだあの門!? 俺にもあんなのが使えたら、女の子からモテモテになるのかな......」


 そんなエリクの驚きと嫉妬、憎悪、に溢れた悲しい独り言が学園内にささやかに広がって消えていく。


---


 地面に降ろされたゼルドは、膝をついていた。顔が青白く、剣を握った手が震えている。


 英雄と呼ばれた男が、地面に膝をついたまま——何も言えずにいた。


 俺は校舎から出て、ゼルドの前に立った。


 「大丈夫か?」


 「……なぜ、助けた」


 「クズはクズでも、一応人間が連れてかれそうになっていたからな。俺が助けなかったら、お前は今頃、あの魔鳥の胃袋の中かもな」


 「俺は——お前の大事な人を侮辱した」


 「まあそうだな」


 「それでも.......そんなやつが相手だったとしても、お前は助けるのか.......?」


 「助けなかったら復讐もできないからな。しょうがなくだ、勘違いするなよ」


 ゼルドが俺を見て、何かを言おうとした。


 だが、言えなかった。


 「……ぐぬぬぬぬ」


 「そんな悔しそうな表情をして、どうかしたか」


 「……何も、言えん」


 「その顔を見れただけで俺は満足だが、後で二人に絶対謝ってもらうからな! 何させられるかはわからんが、手だけは上げるんじゃないぞ」


 「あれを見て、お前の周りの人間に危害を及ぼすやつは相当のバカだ。流石の僕でもお前の実力には敵わない。というか.......お前、本当に——死神紋章を制御していたのか」


 「だから、さっき言っただろ」


 「あの魔鳥を一瞬で........」


 「逆にお前らができないことに俺は驚きだったぞ。あんぐらい、誰にでもできることかと......あと、あいつけっこう素直だったし!!」


 「そんな素直な魔鳥がいてたまるか!!」


 「でも実際止まったもん!」


 「……ぐぬぬ」


 アイラが後ろから「めっちゃ悔しそうな顔してる!!」と笑った。


 「お前みたいなバカにこの僕が笑われていいものか、笑うんじゃない!」


 「笑う!! さっきあんなこと言われたんだから笑ったってお互い様でしょ!!」


 「……それは——」


 「「お前でもいい」とか言った人が死神紋章持ちのレノンに助けられてぐぬぬってしてる!! 最高!!」


 ゼルドが、言葉に詰まった。詰まったまま、何も言えなかった。それが——何よりの答えだった。


 「こういう時って、純粋なやつの言葉ほど刺さるものってないよな......」


 そんな俺の独り言が、その場の状況を一括りにして表している。


 この後、ゼルドがやっていた悪事が次々と明るみに出てくることを、俺を含めこの場にいる全員が知らずにいた。

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