エピローグ 風の行く先
空は、とても静かだった。
雲の上を風が流れている。
青い空の中で
二つのかざぐるまが回っていた。
くるくる。
くるくる。
二人の少女が並んで飛んでいる。
同じ髪。
同じ目。
同じ姿。
二人の手には
それぞれ赤と黄色のかざぐるま。
風が吹くたびに
羽が回る。
くるくる。
くるくる。
少女の一人が言った。
「すごいね」
もう一人が笑う。
「うん」
二人は空を飛んでいる。
地上が遠くに見える。
街。
川。
山。
そのすべてが
ゆっくり流れていく。
少女の一人が言った。
「長かったね」
もう一人が答える。
「うん」
風が吹く。
かざぐるまが回る。
くるくる。
くるくる。
しばらくして
少女が言った。
「ねえ」
「なに?」
「やっと」
少女は少し笑った。
そして言った。
「やっと手を繋げたね」
二人は同時に手を見る。
ずっと触れられなかった手。
でも今は
ちゃんと触れている。
温かい。
とても懐かしい温度だった。
もう一人の少女が言う。
「うん、
やっとだね」
二人は笑った。
その瞬間
風が強く吹いた。
空が光に包まれる。
白い光。
柔らかい光。
その光の中で
かざぐるまが大きく回った。
くるくる。
くるくる。
やがて光がゆっくり消えていく。
そして
そこに残っていたのは
少女が一人だけだった。
少女は静かに空に浮かんでいる。
ここは現在でも
過去でも
未来でもない。
手にはかざぐるま。
風が吹く。
くるくる。
くるくる。
少女は空を見渡した。
そして
少し遠くを見る。
雲の切れ間。
地上が見える。
街が見える。
街の建物に気球が繋がれ
その下に広告が見える。
街の隅に
小さな公園がある。
公園脇の砂利道を
三輪のトラックが走り過ぎる。
ブランコ。
ベンチ。
そして
その奥に
大きな神社の鳥居。
少女はゆっくり降りていく。
風が流れる。
くるくる。
かざぐるまが回る。
公園には
一人の女の子がいた。
吊りスカート姿の女の子。
ランドセルを背負っている。
ベンチに座っている。
俯いている。
少女は少し離れた場所に立った。
女の子は地面にあるかざぐるまに気づいた。
風が吹く。
かざぐるまが回る。
くるくる。
くるくる。
女の子が顔を上げる。
少女を見る。
少女は微笑んだ。
そして言った。
「それ、きれいだよね」
女の子は少し驚いた顔をした。
少女は手に持ったかざぐるまを回す。
風が吹く。
くるくる。
くるくる。
空の上では
また新しい風が生まれていた。
⸻
かざぐるまは
孤独な心の風を見つける。
そして
その風は
また未来を回し始める。
くるくる。
くるくる。
風は
繰り返し、
止まらない。
⸻
(完)




