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かざぐるま  作者: ELWOOD CRAFTWORKS


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第二章 初恋-2度目の風


それから何年かの時間が過ぎた。


カイドウ・ミナモは高校生になっていた。


あの公園も、鳥居も、まだ同じ場所にある。


でも、あの少女の姿は長いあいだ見ていなかった。


ミナモは時々思い出す。


夕焼けのブランコ。


風に回るかざぐるま。


そして、触れることのできない少女。


あれは夢だったのかもしれない。


そんなふうに思いかけていた。



高校二年の秋。


ミナモは初めて恋をした。


相手は同じクラスの男子。


タカキだった。


背が高くて、少し不器用で、笑うと目が細くなる。


きっかけは小さなことだった。


放課後。


教室でノートをまとめていると、タカキが声をかけた。


「カイドウ、駅まで一緒?」


ミナモは少し驚いた。


「……うん」


それが始まりだった。


最初はたまたま帰り道が同じだっただけ。


でも次の日も、


その次の日も、


気づけば一緒に帰るようになっていた。


夕方の坂道。


コンビニ。


信号待ち。


くだらない話。


それだけなのに、


帰り道が少し楽しみになる。



ある日。


タカキが言った。


「カイドウってさ」


「なに?」


「最初、めっちゃ静かなやつかと思ってた」


ミナモは笑った。


「失礼だね」


「でもさ」


タカキは少し笑う。


「話すと普通だよな」


「普通ってなに」


「普通は普通」


二人で笑った。


その瞬間、


ミナモの胸の奥で


小さな何かが灯った。


(あ、好きかも)


ミナモは静かにそう思った。



でも。


恋はいつも、思い通りにはいかない。


冬のはじめ。


放課後の校舎裏で、


ミナモはタカキを見かけた。


隣にいたのは


同じクラスの女子。


ユイだった。


二人は楽しそうに話していた。


距離が近い。


その距離を見た瞬間、


ミナモは理解してしまった。


胸の奥が静かに沈む。


怒りでもなく、


悲鳴でもなく、


ただ


世界の色が少し薄くなる感じだった。


ミナモはそのまま帰った。


誰にも会わずに。



夜の帰り道。


街灯がぽつぽつ続く。


コツ、コツ。


靴の音が静かに響く。


坂を下りる。


そして


あの公園が見える。


ミナモはなんとなく足を止めた。


風が吹く。


くるくる。


かざぐるまの音。


ミナモは顔を上げた。


ブランコの横に


少女が立っていた。


小学四年生のころと同じ姿。


同じ髪。


同じ目。


同じかざぐるま。


少女は言った。


「久しぶり」


ミナモは驚く。


「ほんとに変わらないね」


少女は首を傾げる。


「そう?」


ミナモはブランコに座った。


しばらく黙る。


風が吹く。


くるくる。


くるくる。


かざぐるまが回る。


少女が言う。


「泣いてる」


ミナモは顔をそむけた。


「泣いてない」


少女は静かにミナモを見ていた。


ミナモはぽつりと言う。


「初恋だった」


少女は黙って聞いている。


ミナモは続けた。


「好きだった」


「でも」


「私じゃなかった」


言葉が止まる。


胸が苦しい。


少女が言った。


「それは痛いね」


ミナモは少し笑った。


「軽く言うね」


少女は首を振った。


「軽くない」


風が吹く。


かざぐるまが回る。


くるくる。


くるくる。


ミナモは聞いた。


「恋したことあるの?」


少女は少し考えて、


こう言った。


「あるかもしれない」


ミナモは笑う。


「なにそれ」


少女はかざぐるまを回す。


くるくる。


「覚えてないだけ」


その答えは少しずるかった。


でも


嫌じゃなかった。


少女は続けた。


「でもね」


ミナモは顔を上げる。


少女は言う。


「またするよ」


「恋」


ミナモは首を振る。


「もういい」


少女は言った。


「人はね、


何度でも恋をする。


何度でも傷つく。


それでも、


また好きになる」


ミナモは黙った。


空を見上げる。


冬の星が見えた。


風が吹く。


くるくる。


くるくる。


少女が言う。


「それが人だから」



それから少しずつ、


学校でも変化が起きた。


ミナモはタカキと普通に話すようになった。


最初は気まずかった。


でも、


時間が少しずつその距離を整えていった。


ミドリとアヤとカフェに寄る。


笑う。


話す。


恋は終わった。


でも


世界は終わらなかった。



ある日。


帰り道。


ミナモはふと気づいた。


最近、


少女を見ていない。


公園を通る。


ブランコ。


ベンチ。


鳥居。


でも


少女はいない。


ミナモは立ち止まった。


地面に


一本のかざぐるまが刺さっていた。


くるくる回る。


ミナモはそれを見つめた。


胸の奥が少し温かい。


「……ありがとう」


風が吹く。


くるくる。


くるくる。


それは


返事みたいだった。



その日から、


ミナモはまた少女を見かけなくなった。


でも


ミナモは知っていた。


また会う。


人生のどこかで。


ミナモがまた


寂しくなったときに。


続く

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