第6話 勇者の装備更新は、看護師が行います
導尿カテーテルの交換日は、本人より周囲が緊張する。
「主任、今日、桐原さんのカテ交換入ります」
看護師が淡々と告げる。
「はい、時間共有します」
この“共有”が大事だ。
本人にも、周囲にも。
居室のカーテンを引くと、
桐原正志さんはすでに気配を察していた。
「来たな」
「はい、来ました」
「装備の更新か」
「そうです」
否定しない。
話が早い。
ベッド周りを整え、
看護師が物品を広げる。
手袋、潤滑剤、新しいカテーテル。
「……刃物は使わんだろうな」
「使いません」
「ならいい」
そのやり取りを、
賢者がじっと見ている。
「術式の再構築だな」
「そういう理解で大丈夫です」
戦士は何も言わない。
ただ、左手で柵を握っている。
聖女は、少しだけ身を起こした。
「……痛くないかしら」
「すぐ終わります」
「では、いきますね」
看護師の声が、少しだけ低くなる。
その瞬間、桐原さんが息を整えた。
「耐える」
「はい、深呼吸してください」
「この程度……」
言い切る前に、少し声が詰まった。
「……ぬっ」
「はい、もう抜けました」
「早いな」
「慣れてます」
新しいカテーテルを挿入する。
一瞬の緊張。
「……今だな」
「今です」
「来い」
来ないでほしい。
無事、固定。
「終了です」
看護師がそう告げると、
桐原さんは大きく息を吐いた。
「……更新完了か」
「完了です」
「戦線復帰できるな」
「安静でお願いします」
「……制限付きか」
「はい」
その様子を見て、
修造さんが静かにまとめる。
「損耗部位の補修は、戦力維持に必須だ」
「その通りです」
澄江さんが、そっと声をかける。
「無理はしないで。あなたは、もう十分戦ったわ」
桐原さんは一瞬、何か言い返そうとして、やめた。
「……分かっている」
それは、たぶん本音だ。
処置が終わり、
カーテンを開ける。
「しばらく様子見ますね」
「了解した」
「何かあったら、呼んでください」
「合図は、これだな」
ナースコールを指さす。
「それです」
廊下に出て、
若い職員が小声で言った。
「主任……あの人、毎回すごい覚悟ですよね」
「そうだね」
「怖くないのかな」
私は少し考えてから答えた。
「怖いから、覚悟するんだと思う」
世界は今日も救われなかった。
でも、装備は最新になった。
勇者としては、
それで十分なのかもしれない。
導尿カテーテルの交換は、
介護職よりも看護師の腕と判断がものを言う場面です。
本人がどう受け止めているかは別として、
現場としては
「安全に終わったか」
それだけを確認します。
強がる人ほど、実は一番ちゃんと身構えています。
だから、終わったあとは少し静かになる。
世界は救われていませんが、
装備は更新されました。
それで今日も、
前線に立たなくていい一日が続きます。




