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異世界帰還者(本物)、認知症扱いで特別養護老人ホームにまとめて入居しました ~勇者・聖女・賢者・戦士、全員要介護4以上です~  作者: 月白ふゆ


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第26話 ケース会議は、紙の上で未来を動かす

ケース会議の日は、

フロアが少しだけ静かになる。


みんな分かっている。

今日は「話す日」ではなく、

「決める日」だ。


机の上には、

モニタリングシートと計画書。

文字が並んだだけの紙だけど、

これが現場を一番動かす。



「まず、賢者さんの転倒からいきましょう」

相談員が切り出す。


「転倒後、夜間移動時は必ずコール。

 理解良好。実施率も高いです」

「センサーマットは?」

「今のところ使用せずで問題ありません」

看護師が頷く。

「音刺激で逆に混乱するタイプですね」


「計画書は現状維持、

 声かけ頻度と巡視強化で継続」


決まるのは、たった一行。

でもその一行が、

夜勤の動きを決める。



「次、勇者さん」

誤嚥性肺炎の件。


「食事速度、かなり落ちています」

「一口量も守れてます」

「ご本人の意識が変わったのが大きいですね」


私は言う。

「“急がない”を選べたのは、大きいです」


計画書にはこう書き足す。

「食事時間に余裕を持つ環境設定を継続」



「戦士さん」

「便秘は?」

「浣腸後、排便リズム少し安定しています」

「水分量、増やせてます」


「排便コントロール、

 このまま経過観察で」


戦士の便秘が、

正式に「管理対象」になる。



「聖女さん」


「介助受け入れ良好。

 不安訴え減少しています」

「“癒やされる側”を受け入れ始めました」


誰かが、少しだけ微笑んだ。

計画書の文言は淡々としている。


「心理的安定維持」



最後に、新規入居者。


「夜間の不安、初日より軽減」

「水分摂取時、声かけで落ち着く」

「今後、生活リズムの観察を重点に」


まだ評価は、保留だ。



話し合いは一時間弱。


決まったことは、ほんの少し。


・見守り強化

・食事形態の維持

・排便コントロール

・心理面のフォロー


派手な改革はない。



若手職員が、会議後に言う。


「主任……なんか、

 思ってたより地味ですね」

「地味が一番いい」

「え?」


「大きく変える必要がないってことだから」



ケース会議は、

問題を探す場じゃない。


「今のやり方が、

 ちゃんと合っているか」を

確認する場だ。



計画書を閉じる。


また、しばらくはこの内容で進む。


世界は救われない。

でも、

現場は少しだけ整った。


紙の上で決まった未来が、

明日のケアになる。


それが、ケース会議だ。

ケース会議や計画書改定って、

外から見るととても事務的で、

正直つまらなそうに見えると思います。


でも現場にいると、

ここが一番「責任が重い場所」だったりします。


ケアのやり方を変えるのも、

変えないと決めるのも、

全部ここで決まるからです。


派手な改善案が出ることは、あまりありません。

むしろ多いのは、


「今のままでいい」

「大きく変えなくていい」

「少しだけ調整しよう」


という結論です。


それって地味だけど、

実はすごく重要なことです。


大きく変えなくていい、というのは

今のケアが「ちゃんと合っている」という意味だから。


モニタリング計画書は、

「管理の書類」じゃなくて、

現場を守るための地図みたいなものです。


・誰に

・何を

・どこまで

・どんな気持ちで


それを文字にして共有する。


紙一枚で、

夜勤の動きが変わり、

声かけの仕方が変わり、

判断の迷いが減ります。



介護の仕事って、

ドラマチックな改善よりも

「事故が起きなかった」

「不穏が出なかった」

「今日も同じように終われた」


そういう“何もなかった一日”を

積み重ねる仕事です。


ケース会議は、

その「何もなかった」を

続けるための作業です。


世界は救われていませんが、

現場は少しだけ安心して

明日を迎えられるようになりました。


それで、この会議は成功です。

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