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異世界帰還者(本物)、認知症扱いで特別養護老人ホームにまとめて入居しました ~勇者・聖女・賢者・戦士、全員要介護4以上です~  作者: 月白ふゆ


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第12話 体操レクは、陣形確認から始まります

体操レクは、職員側の覚悟が試される時間だ。


「無理をさせない」

「できる範囲で」

「参加した感があれば成功」


この三つを胸に、

今日も音楽を流す。


「それでは、体操を始めます」


レク担当の職員が、少し明るめの声を出す。


その瞬間、

あの部屋の空気が、わずかに変わった。



「配置につけ」

桐原正志さんの声だ。


「……始まった」

私は内心でそう思いながら、

四人の位置を確認する。


車椅子二台。

ベッド参加一名。

端にもう一台。


完璧ではないが、問題ない。



「まずは、首を回しましょう」

レク担当が言う。


「左右、ゆっくり」

「急ぐな」

勇者が即座に補足する。

「ここで痛めると、後が響く」


正しい。


澄江さんは、首だけを少し動かし、

そのまま胸の前で手を組んだ。

「……祈る時間ね」

「体操です」

「似たようなものよ」


否定しない。



「次は、腕を上げます」

「無理はするな」

今度は、戦士が低く言った。


右半身は動かない。

左腕だけが、ゆっくり持ち上がる。

「……確認」

「何のですか」

「……まだ、動くか」

動いている。


それで十分だ。



賢者は、動きに入る前に止まった。

「待て」

「どうしました?」

「順番が、分からなくなった」

「今は、腕です」

「その前は?」

「首です」

「……なるほど」


納得してから、

ゆっくり腕を動かし始める。


他の利用者より、

ワンテンポ遅い。


誰も気にしない。



音楽が一曲、終わりかけた頃。

「深呼吸をしましょう」


レク担当が言う。

「吸ってー」


「溜めろ」

勇者が言う。


「吐くな」

「吐いてください」


「……今だ」


全員が、

それぞれのタイミングで息を吐いた。


合っていない。

でも、問題はない。



途中、

桐原さんが周囲を見回す。

「全員、ついてきているか」

「ついてきてます」

「欠けは?」

「ゼロです」

「なら、続行」


続行しなくてもいいが、

止める理由もない。



体操の最後は、

「お疲れさまでした」で締める。


「……終わったな」

「はい」

「損耗は?」

「ありません」

「よし」


澄江さんが、少しだけ笑った。

「今日は、ちゃんと身体が動いた気がするわ」

「それは良かったです」

「癒やす側じゃなくても、ね」


その言葉に、

誰も返さなかった。



片付けの途中、

若い職員が小声で言う。


「主任……あの四人、

 体操なのに、

 なんか確認事項多くないですか?」

「役割があるから」

「役割……」

「体操じゃなくて、

 “全員揃っているかの確認”なんだと思う」


若い職員は、少し考えてから頷いた。



記録には、こう書いた。

「体操レク参加。

 無理なく可動域内で実施。

 情緒安定。

 全員、最後まで参加」


それで十分だ。


世界は救われなかった。

でも、今日も全員、同じ場所にいた。


体操としては、

それが一番大事な成果だ。

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