3 まさかそんな意味だったとは
最期はアイラの視点です。
「ウェイオー嬢、お話があるのですがよろしいかしら」
私は今、公爵令嬢に呼び出されていた。
恐怖で背筋が凍るのに冷や汗は流れる。
なぜならこの学園の女子カーストトップの令嬢に呼び出される心当たりが山ほどあったのだ。
私はしがない平民の娘。孤児になり子爵家に引き取られて通り一遍の教育を受けただけで学園に放りこまれた。
今じゃ特権階級しか通えないこの魔法学園の生徒だ。
私は入学してから周りに気後れして友達もできなかった。1人でいた私に声をかけてくれたのは雲の上の男の子たちだけ。
これでは共学なのをいいことに、イケメンたちへ媚びを売っているとみなされてもしょうがない。
「あなた、令息たちとの距離が親密すぎますわ」
何人もの令嬢を率いたヘプバン公爵令嬢は、私に向かって苦言をていしている。
そうなのだ。否定はできない。
だって貴族の令息ってみんな素敵なんだもん。
キラキラの王子様が恋人になれたらって妄想したこともある。
モテ期来たーって調子にのってもいた。
しかし最近の彼らは婚約者を放って私と一緒にいることが多い。
ちょっとヤバい自覚はあったのだ。
友人の中にはこの国の王太子、カーク様がいる。
そりゃ王太子の婚約者であるヘプバン嬢が怒るのは自明の理。
「ご忠告差し上げますわ。ただちに殿方と距離を置きなさい」
「も、申しわけありません」
私は必死に頭を下げた。
いくら高位貴族の男性に優しくしてくれても、婚約者持ちの方と仲良くなりすぎるのはマズイ。
イケメン素敵って調子にのりすぎたことを反省する。
「ポピー・ヘプバン嬢、何をやっている」
そこにさっそうと王太子が現れた。
側近のイケメンたちも一緒に。
「ポピー、アイラ嬢はただの友達なんだ。変な勘ぐりはよしてくれ」
「分かっていますわ。しかし、異性へのみだりな接触は目に余りますことよ」
やっぱり怒られるのはそこだよね。
「アイラ様があなたたちとハイタッチするくらいは目こぼしておりました。それが‥ 最近はお出かけして腕をからめたりしましたわよね」
あ~ 王都でこっそり買い食いにちょうどいいお店を教えたお礼に、ジュースをおごってもらったやつだ。
殿下たちも済まなそうに目を泳がせている。
「挙句の果てに‥ アイラ嬢をみなで取り囲み体をもみくちゃに!」
いやぁ! あの恥ずかしい現場見られてたの! テストで高得点取って勢いが余った時のじゃん。
もう断罪にうなだれるしかない。
あの時はさすがに友情だとしてもやりすぎだった。みんなからのハグなんて、恋愛弱者の私には刺激が強すぎるよ。
「だがそれは友人としての行動で‥ 浮気とかではないんだよ、信じてくれ」
「そもそも、その友人扱いが問題なのです!」
そうだよね。今は子爵家に引き取られているけれど、元の私は平民だ。
高位令息と友人関係を結んでいることがすでにおこがましい。
「分かっています? アイラさんは女性なんですよ」
ん? 公爵令嬢が意味不明のことを言い出した。
その後の怒涛の展開で私は目からウロコが落ちた。
以前私が焼き串にかぶりつくのをうらやましそうに見ていたから「1口食べる?」と差し出した時がある。
1切れずつ食べるやつだから間接キスにもならないはずだけど、殿下は随分ちゅうちょしていた。さし出した私がドキドキしちゃうくらい。
あれはお行儀が悪いから渋っただけで、間接キスなんか気にもしていなかったんだね。
ハグも‥ あああ見たことある。男同士が感動するとみんなでもみくちゃになる、アレかぁ!
私、モテモテじゃなかった。
(私のドキドキを返せ)
情けなくて涙が出ちゃう。
「アイラ、さん、一緒に食事に行きませんか」
「私には恐れ多くて無理」
それから私は殿下たちに誘われても断るようにした。
ちゃんと同じ階級の子たちともっと親睦を深める。
男子にはそこそこ知り合いができたのだけど、
女子がいない。
女子のグループって入学してしばらくたつともう出来上がっていて、後から入るのが至難なのだよ。
最初に気後れして友達が作れなかったのは大きい。
同じ貴族派閥になんとかねじこもうとしている最中。
女子だけのグループ学習とか、いまだにボッチだよ‥
まあそれは前からだけど、嫉妬されいてるからしょうがないかって思えた時の方が耐えられた。
今はただ純粋に女友達がいないのが苦しい。
そして殿下たちはまだ私をあきらめきっていなかった。
「もうさわらないからさ、一緒に下町探検に行こうぜ」
「アイラ先輩がいないとさびしいですよ」
「ウェイオー嬢、見合いはセッティングします。だからまた私たちと遊んで下さい」
「アイラ! 僕と君とは、真実の友情で結ばれた仲じゃないか!」
悪魔のささやきが聞こえる‥




