イースターの羊とスプラッタな市場
ちょびっとグロい描写があります。苦手な人はごめんなさい。
1991年4月5日金曜日
ギリシア正教のイースターを二日後に控えたアテネの街にはたくさんの買い物客が行き交っていた。
市場を歩いていると日本ではお目にかかれないようなものが色々見られる。
網袋いっぱいに入れられて吊るされていたり、箱いっぱいにうごめいている食用カタツムリ。箱から脱走して道路を這っているやつもいた。ここら辺で食べられているのはフランスのエスカルゴ料理に使うような養殖したでっかいのじゃなくて、野生のちっちゃいやつ。
オリーブ専門店には黒っぽいのや黄緑の、深緑の、粒が大きいの小さいの、と多分数十種類のオリーブの実が並んでいる。
そして大きなビニール袋に入った羊を肩に担いで歩く人。
ギリシアではイースターに羊を食べる習慣があるそうで、集まった親戚や友人達と食べるために丸ごとの羊を買うらしい。クリスマスには丸鶏を、の感覚なのね。屋根に4、5頭積んでいる車も見た。もちろん、みんな皮を剥がれて血抜きされている。
大抵透明のビニール袋に入っていたので、あっちのおじさんの背中からも、こっちのお兄さんの背中からも皮を剥かれた羊に瞼のない目で見つめられてしまった。
それだけでもそれなりに気持ち悪かったのだけれど、食肉市場へ足を踏み入れたとたん、血抜きされたビニール入りの羊なんて全然ましだと思い知った。
狭い通路の両側に肉屋さんがずらりと並んだその市場では、血まみれのエプロンをつけた体格のいいおじさんやお兄さんがでっかい包丁をふるって皮はぎや解体に勤しんでいた。
時折、ビシュッと血が飛び散り、服にかかるんじゃないかと思わず後退る。
店先に並んでいるのは羊が多い。イースター前だからなのか、普段からそうなのかはわからない。
毛をむしられたヒヨコや皮のないウサギなども見かけた。
たまたま目があった肉屋のお兄さんが声をかけてきた。ギリシア語は挨拶くらいしかわからない。
「どうだい、うまそうだろう? 買っていかないか?」とでも言われたんだろうか?
日本人の私には魚の活け作りを見て「おいしそう」と思う事はできても、まだ鮮血がにじんでいる皮なしのウサギを見てそう思うのはちょっと無理。
だって眼が怖いんだもん。羊もウサギも、まぶたのない眼でギョロッとこっちを睨んでいる。魚の目が怖いという人の気持ちがちょっとわかった。
そこらじゅうに血の臭いが充満していて「ううっ! スプラッタだ」と早々に市場から退散した。




