第97話 VSスキンヘッド
ついに、スキンヘッドとの本気の殺し合いが始まった。
スキンヘッドが俺の目の前にまっすぐ突っ込んでくる――と思わせて、そのまま地面を踏み込み、俺の背後にジャンプして回りこんできた。
俺はすぐに反応して、飛んできた方向と逆に逃げ、奴のリーチから離れる。こういう動きも取り入れてくると、少しも気が抜けない。
パワータイプは動きもそれなりに単調だったり遅いので、かわし続ければいいが、こういうタイプは非常にやりにくい。一瞬でも気を抜けば、刺される。
基本的にこういうタイプは火力不足になりにくいのは良いのだが、逆にこちらも奴のナイフに一度でも刺されればほぼおしまいだ。攻撃は食らえない。
とにかく、逃げろ。逃げ続けろ。かわし続けろ。そして相手の後隙を探り続けろ。考えれば考えるだけ、その一瞬が命取りになる。直感で、反射的に戦え。チーオンターマの遺伝子は最強だ。そう言い聞かせる。
その後もスキンヘッドはトリッキーな動きで俺を翻弄しつつ、俺はかわし続け、攻撃をいなし続ける。奴のナイフと俺の剣がぶつかり合う音が、長い間響く。
奴は速すぎて俺から攻撃したくてもなかなか難しく、防戦一方だ。だがそれでいい、痛みさえなければ。必ずいつかチャンスは来る。
しばらく、奴の攻撃をかわし続けながら観察して分かったことがある。スキンヘッドは、高いジャンプをよく多用してくる。
人間、ジャンプ中は身体を動かしたり急に軌道を変えることは難しい。空中にいる分、動きも多少遅くなる。まあ、風魔法を駆使すればできなくもないのだが。
つまり、奴がジャンプした瞬間を狙えばいい。
俺はひたすら奴の怒涛の攻撃を逃げてかわしながら、奴のジャンプを待つ。奴の速さにもだんだん慣れてきたし、癖も読めて来た。
再び、奴は俺に接近してきたところで、奴の足を見る。飛び越えてくるとき、必ず大きく踏み込んでくるはずだ。予想通り、俺の真上を飛び越えてきた。今しかない。死ね、イケメン!
俺はそこを狙い、剣を振り上げた――はずだったが、奴は空中で俺の剣を視認し、一瞬で体をひねって回避した。思わず俺は「は?」と呟く。人間の機動力じゃねえだろ。ああ、まあこの世界ならあり得るのか。
とにかく俺は千載一遇のチャンスを逃した気がして、かなりメンタルに来ていた。
奴は着地後、俺を睨んだ後、すぐに接近してくる。
「ひっ!?」
俺は豆腐メンタルの崩壊と、再び刺されるかもしれない恐怖から、反射的に半身を捻りながら剣を横に振った。それがたまたま、奴の接近していた胸元を掠り、鮮血が少し飛び散る。
スキンヘッドは歯を食いしばりながら、すぐに横に飛び退いた。今、ダメージを与えた?
「チっ……お前え、さすがだなあ。俺のすべての攻撃をいなしてくるとはあ。今のカウンター、流石に避けきれなかったわあ。久々の痛みだわあ。でも、このまま続けて、どちらが先に疲れて、死ぬかは明白かなあ?」
今のカウンターはマジでたまたまだった。でも、たまたまでもいい、偶然が続いてもいい、とにかく、攻撃は絶対に食らわなければ。
ただ、危機一髪のカウンターで再び緊張し始める俺に対し、奴は全然余裕そうだった。やはり、戦闘経験の差だろうか。ボスゴリとやり合った時も、スタミナ切れで正直危なかった。
一発でも食らえば即死という緊張状態は、思っているよりもキツイものなのだと、改めて実感する。焦ったらダメなのに、早く終わらせたいと、余計な雑念が脳を巡る。
ずっと動き続けて体も火照り、ダラダラと汗も流れ続ける。俺は自分の汗で滑りそうになり、一瞬ふらつく。その時、ふと思った。滑る……か。
「おっと?もう限界かあ?」
スキンヘッドは今度はゆっくりと、煽るように、徐々に近づいてきた。奴の自慢のスピードを無効化するには、これしかねえよな?
俺は奴に悟られないよう、詠唱を開始した。俺は杖の先を地面に向け、制服の上着でバレないように腰につけて隠す。そのまま魔法を発動。
杖からはバレない程度の水がちょろちょろと出続けている。地面が水で少しずつ濡れていく。これで事前準備は整った。俺は念のため、中指を立てて挑発する。これやってみたかったんだよな。この世界でも通じるかは分らんけど。
「っ!?お前え、舐めてんな?いいぜえ、生まれてきたこと後悔させてやんよお!」
スキンヘッドは俺に高速で接近してきた。完全に頭に血が上っているな。あとは俺はただひたすら逃げる。かわす。いなす。ただこれをやり続ける。
ただし、できるだけこの施設のフィールド全体を逃げ回るようにする。腰の杖から出ているこの水が床全体に行きわたるように。奴が気づかない程度に、湿らせるくらいに。
体感で3分くらいだろうか。それくらいただひたすらに逃げ回った。もう十分だろう。
「くそがあ!逃げ回ってんじゃねえよお!」
スキンヘッドが再び地面を踏み込もうと動き出す瞬間、俺は隠していた杖を取り出して、魔力を放った。
その瞬間、この施設の地面一面が一気に凍り付いた。ただ凍らせるだけの魔法。でも、対象はこの施設の床の水分すべて。かなりの魔素を消費するが、これしか勝ち筋は無いと確信していた。
厄介なスピードタイプの敵は、相手が動きにくいフィールドにしてしまえばいい。俺の目論見通り、奴は踏み込んだ瞬間、急に氷へと変貌した床で足を盛大に滑らせた。
「なんだと!」
しかし、滑るのは俺も同じ。だから奴が俺の方へと転倒してくるのを、ただ立ち止まって待つのみ。
奴の足元は安定せず、そのまま俺に体を思いきり滑らせてこちらに向かってきた。何もかもが計算通りだ。
そして滑り込んで来た奴の顔を、手加減無しにとにかく思いきり地面に叩きつけた。ドゴーンッと施設内に大きく響く。地面には軽いクレーターができた。
正直、自分でもこんなバカ力があるとは思わなくてビビったわ。そのまま俺は馬乗りになって奴の顔をぶん殴り続けた。鈍い音が響き渡る。
こうなればほぼ俺の勝ち確だ。さっきのナイフの地獄みたいな痛みもある。その怒りも込めて、殴り、いたぶり続ける。奴は叫ぶこともできず、ただ必死に俺の拳を受け続ける。
大逆転勝利だな。そのまま俺はとどめの一撃を加えようとした瞬間だった。
「チー君油断しちゃダメッ!」
俺はユリアの声でハッとする。奴の手を見れば、ナイフをまだがっちりと握っていた。馬乗りになった俺の足を刺そうとひそかに狙っていた。
俺は反射的にすぐに横に転がり込んで飛び退いた。ユリアの声が無かったら……またあの地獄の痛みを味わっていたかもしれないと身震いする。
奴の顔はボコボコに膨れ上がっていたが、よろめきながらも立ち上がる。すでに息が上がっている。かなりのダメージは与えられたか。
「やってくれたなあ……お前え……」
しかし、奴は腕で顔の血をぬぐいながら、不気味な笑いを見せる。きっしょいなあ。
氷のフィールドで奴はもう接近戦はできない。とは言え警戒はしつつも、俺はすぐ動ける体勢を取っておく。
だが、奴の目線は少しおかしかった。何か思いついたように、ナイフを取り出す……まずい。奴の狙いは俺じゃない。スキンヘッドはクルっと俺とは別の方向を向いて、そのままナイフをユリアに向かって投げつけようとしていた。




