第91話 最強チートに意外な面がありそう
ある日、レッドが風邪をひいて休んだ。
いつもはレッドだけ別のクラスなので、みんなで屋上に集まるのだが、「今日は教室でいいよね」ってことでそこで食べることになった。
バカは風邪ひかないって言うのにね、あ、レッドの事バカって言ってるわけじゃないぞ?真面目に言うと、多分稽古で無理したんじゃね?知らんけど。
で、俺とネクラ、ユリア、今日はサンも加わって、みんなで昼飯を食べている。サンは剣技クラスにいるクラウドと食べることもあったり、俺たちに混じったりとかなり自由な感じだ。
俺たちは弁当を食べ終わると、今日はユリアが寮で作ったチョコクッキーを机に並べた。ユリアは料理が得意だが、お菓子も良く作っていてかなり上手いし美味い。
俺は甘いものが好きなので、お菓子を黙々と食べ始める。
「チーってお菓子あんまり食べなさそうだけど、一番食べてるよね」
サンはクッキーを黙々と食ってる俺を見て、つぶやく。
別に、男が甘いもの食っててもいいじゃねえか。食べてるところを見られたくなくて、俺は顔をそらして廊下の方を見ながら食う。……すると、誰かと目が合った。
「……」「……」
めっちゃ俺のクッキーをガン見してきてる。しかも誰が見てきてるって……あの最強チートのブルーなんだよ。あの無言で誰とも関わろうとしない、クールなイメージのブルーが。
するとブルーはハッと目を見開いたかと思うと、そのまま無言で歩き去っていった。明らかに食べたいような目してたぞおい。
「今のってブルー君……だよね」
「めっちゃ食べたそうにしてなかった?」
ユリアとサンも不思議そうにその光景を見ていた。
ブルーも甘いものが好きだったりするのか……?まあそんなことはどうでもいいさ。あいつとは関わりたくないからな。
「チー君、ブルー君にクッキー持って行って分けてあげたら?」
「は?」
ユリアがコミュ障の俺に対して、拷問みたいなことを提案してくる。
「そうだね、コミュ障も直せると思えば一石二鳥だよね」
サンが賛同してくる。ちなみに、ネクラはずっと会話の輪に入れずにいる。
ネクラに行かせようぜ?……という冗談は置いといて。可哀そうだし。いや拷問されかけてる俺も可哀そうだけど。
とりあえず言い訳をひとつまみ。
「いや、俺、あの人外と話したことないし、その、正直、他の人と違って怖いし」
「チーさあ、そんなんだからいつまでも根暗なんだよ」
『ぐっ』
サンの言葉が俺の心にぐさりと刺さる。そして隣にいた陰キャ仲間のネクラの心にまで刺さっていた。とばっちり食らってて可哀そう。
「サンちゃんやめなよ、チー君のことも知らないくせに」
ゆ、ユリアが俺のことを庇ってくれた……だと?だが、サンも譲らない。
「ええ?だってさ、そうやって関わろうとしないで逃げてるからいつまで経ってもしゃべれないんじゃん」
ズバッと言ってくんなあ……。俺はかなりイラっと来ているが、何とかこぶしを強く握って感情を抑える。
クソ、知らねえよ、俺の前世も知らないでそんなこと言いやがって。こういう恵まれたやつらってのは、自分が恵まれていることも知らずに、努力不足だの何だの言ってくるんだ。
心の中で愚痴っていると、ユリアが笑顔でサンに詰め寄る。
「サンちゃん。怒るよ?」
「え?ユリア怖い……」
……ユリアは俺の前世の話を聞いているからか、かなり俺に同情してくれてるっぽい。優しいな、ほんと。少しだけ俺の怒りも晴れた。
ユリアは俺に優しく提案してくる。
「えっと、チー君、無理はしなくていいからね?チー君も気にならない?ブルー君のこと」
ユリアがここで無理するなと言ってくれたのはやはり天使だ。いやでも、よく思い出したらこいつ、この人外と話すという拷問を提案してきた張本人じゃねえか。
まあ、確かに、ブルーって、分からないことが多いミステリアスな奴だからな。気になるっちゃ気になる。でもそれとこれとは別。
「……まあ、確かに気になりますけど、その、あいつが話してるとこ見たことないんすけど」
「無口同士、気が合うかもしれないよ?」
「俺あいつに敵視されてる気がするんですけど」
「それはさすがに自意識過剰じゃない?」
いや、俺ブルーと模擬戦したとき、引き分けた後めっちゃ睨まれたんですけど!?
「とりあえず、チー君のためにはなるかもしれないとは思うけど、無理はしなくていいから」
「……」
ユリア、俺に行ってほしそうだなあ……。なら、行くメリットとリスクを考えよう。俺は腕を組んで、まずはメリットを考え始める。
あいつは最強の剣士……あ、ワンチャン、ブルーから精神統一の方法とか聞けないかな……。いつ、ネクラみたいな影薄い暗殺者に殺されるか分からないし、痛い思いはしたくない。
だから、ブルーの動体視力や察知能力くらいに、いつでも敵の気配を察知できるように、精神統一の事を聞き出したい。よしそうしよう。
逆にリスクは……俺のメンタルがすり減るだけだ。ヨシ。
「ちょっと気になるので、行ってみます」
「え?ほんと!?すごいよチー君!一歩前進だね!」
ユリアはいつも褒めてくれる。ほんと優しいよな。前世なんか褒められることなんてほとんどなかった。
俺も変わっちまったよな、以前なら絶対に逃げてたのに。全部ユリアのせいだ。イケメンのせいだ。
「……チーってユリアの言うことは何でも聞くよね」
サンが俺とユリアのやり取りを見て呟く。う~ん、そうなのか?まあ長い付き合いだし。
さて、ブルーに嫌がられたらすぐ逃げるということで。俺は菓子を持って教室を出ていった。




