第90話 何で修羅場っぽくなってんの?
そんなこんなで、無詠唱の方法はわかったので、ひとまず収穫はあったな。俺はシオリーと別れ、そのまま寮に帰ろうと思って、自習室のドアをガラッと開けた。その時。
「あ」「え?」
ちょうどユリアが歩いていて、目が合ってしまった。俺とユリアはしばらく固まって、ユリアが口を開いた。
「チー君、図書館にいるって言ってなかった?」
「え、いや」
「私に、隠し事してるの?言ったよね、隠し事は一切しないと、それもチー君から言ったことだけど」
「これには深い訳が」
俺が弁明しようとしたのだが……なぜかユリアの視線は俺じゃなく、後ろにいたシオリーに向いていた。それも目のハイライトが消えて。明らかに怒りが見える。
なにこれ、浮気してるわけでもなんでもないのに修羅場みたいになってない!?
シオリーもユリアにガン見されて、青ざめながらプルプルと震えていた。
「チー君その子誰?二人きりだったの?なんで隠すの?どういうこと?」
「ひうっ!?」
シオリーがユリアの圧に完全にビビって俺の後ろに隠れた。
それもそのはず、ユリアの後ろにどす黒い炎のようなものが見えた。しかも口角は上げているが、目は笑っていなかった。なんか勘違いされてないか?
シオリーに事情を話してほしいけど、ビビってて全然当てにならんから、俺が説明するしかなかった。
「えー、隠してて悪かったっすけど、ただ、えっと、この子に魔法を教えてもらってただけっすよ」
「二人きりで?」
「他に誰かいるように見えますか?」
「……いないね」
とりあえず、全てを正直に話して立ち回る。ユリアは続ける。
「なんでわざわざ隠してたの?」
「えっと、この子も俺と同じで目立ちたくない性格で……だから、その……誰にも言わない方がいいって、俺が勝手に判断しただけっす……。その、すごい魔法を教えてもらう予定だったから、勝手に誰にも言わないほうがいいと思ってて……」
ユリアはしばらく俺を見つめる。俺はいつものように目を合わせられない。すると、ユリアはいつもの柔らかい表情に戻る。
「嘘はついてなさそうだね、その、ちょっと興奮しちゃってごめんね」
どうやって嘘か本当か判別してるん?そう言えば魔素の乱れとか見えるんだっけか?まあいいけど。
「いや、それはいいんですけど、なんでそんなに怒ってるんすか?たしかに隠してたのは悪いんすけど、特に、この子を見つめてから目のハイライトが消えてましたけど」
「え?そ、そんなに怒ってるように見えた?あ、あはは、べ、別にチー君が他の女の子と一緒にいたから嫉……じゃない!なんでも無いから、とにかく忘れて!」
「あ、はい……」
なんか最近のユリアはおかしいな……。そしてユリアは絶対怒らせてはいけないってことも分かった。
ちなみにシオリーは俺の後ろに隠れてずっと怯えていた。可愛い。
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びくびくしていたシオリーが復活した。
とりあえず事情を話していいか聞いたら、特に問題ないらしいので、無詠唱魔法について学んでいたことをユリアに説明した。
「む、無詠唱魔法、聞いたことはあったけど、実在するんだ……」
「っぽいです」
「それをこの子から教わっていたと……。す、すごいんだね……」
ユリアはシオリーを見つめながら感心していた。無詠唱魔法は相当珍しいものなんだろう。
「ところで、チー君は成功したの?いや絶対成功したんだよね」
「なんで言い直すんすか、まあ初級だけなら」
「やっぱり……。ほんとすごいよチー君」
「どうせユリアもできる」
「いや、チー君みたいにそんな――」
「あの~」
俺とユリアが話している中、シオリーが恐る恐る話しかけてくる。珍しいな。無視するわけにもいかないので、俺はとりあえず返事をする。
「あ、はい」
「先輩方って……付き合ってるん……でしょうか……?」
「ないです」
もちろん俺は即答。ほんと、いろんな人に聞かれるけど、俺とユリアは付き合ってなんかないんだよなあ、ユリアと少し距離置いたほうがいいのかな……。
ユリアはというと、頬を膨らませて目を逸らしていた。ていうか、最近、ユリアはこういうことを聞かれても、否定してくれなくなった。もう慣れたからスルーするようになった?俺よりも大人だな。
すると、シオリーは安心したかのように胸をなでおろす。
「そ、そうなんですね……先輩ってモテそうですから……彼女でもいるのかと」
「俺の性格がこれですからね」
「そ、そんなことないと、思いますっ……!その、私は先輩は良い人だとおもいま……す……」
「え、そ、そすか」
シオリー、君は俺の本音を知らないから、前世を知らないからそう言えるんだ。俺は最悪な捻くれチー牛なんだぞ。さすがに良い人はあり得ねえだろ。俺の心の闇を覗いてみるか?
そんなやり取りをつまらなそうに見ていたユリアが割って入って、シオリーに問いかける。
「ところで、あなたの名前は?」
「ひゃう!?え、えと……シオリー……ですっ……」
「シオリー、珍しい名前だね。私はユリア。よろしくね?」
ユリアはそう言ってシオリーに手を差しだしたところ、「ひう!」と明らかにビビって、また俺の後ろに隠れた。
魔法に関しては天才なのに、ビビりすぎてなんかおもろいな。天才ってどこか抜けてるってイメージあるけどまあ、合ってるのかもな。
で、ユリアは悲しむでも驚くでもなく、懐かしむような目でシオリーを見る。
「なんか、村にいた時の小さい頃のチー君見てるみたい……」
「……」
その通り過ぎて何も言えなかった。
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その後はユリアとは誤解も解けたので、いつも通り接してくれる。マジで焦ったよ、ユリアからあんな禍々しいオーラが出せるなんて……。
残りの夏休みは特に何も起きることなく、ただ残酷に時だけが進んだ。ああ、残酷だ、人の顔を見たくない。
ちなみに、残りの夏休みの期間は、無詠唱の練習をしていたくらいだな。初級の魔法はすべて無詠唱化することはできた。中級はそれなりに複雑になるので練習は必要だが、今のところは何とかなりそうだ。
シオリーには感謝しかないな。これで自分の身を守るための手段が増えた。せっかくの異世界だ。イケメンに生まれることもできたし、最期まで生き残りたいからな。
それに、ユリアの気分で再びデート?に誘われることもあったな。ゴロゴロしてるなら出かけようよ!って。暇だから了承するも、正直乗り気ではなかった。
いや、こんなにかわいい子とデートっぽいことができるんだから、絶対に嫌ってわけでもないんや。でも、人目とか、人混みとか、やっぱ嫌なんだわ。
あと女子と関わること自体が未だにリスクだし、やっぱり怖い。ユリアであっても、それは変わらない。
そして夏休みも終わり、レッドも俺の実家から帰ってきた。目つきも体つきも、特段変わったわけではないが、きっと剣の腕は上達しているのだろう。
そんなこんなで始業式が終わり、またいつもの授業が始まった。長いようで、短い夏休みだった。




