第85話 チー牛の過去
※この話には暴力や家庭問題などの描写を含みます。
俺は"普通"の家庭には生まれなかった。
俺が物心付く前から、父は家を出て行って……いや、逃げたといったほうが良いのか。母はひとつで3人を女手1人で育ててきた。
ああ、3人というのは、俺には血の繋がっていない兄と姉がいる。兄弟2人と俺は半分血が繋がっていないということになる。
母親は2回離婚したってわけだな。
兄と姉は俺なんかよりも優秀で、コミュニケーション能力も高く、学業も優秀だったし今じゃ普通の社会人だ。顔も普通にいい。
俺は小さい頃から正直言ってキモかった。骨格からして詰みみたいなものだな。でも小さい頃はそんな事気にすることもなく、恥じらいもなく、普通に元気なガキだった。
今は絶対しないが、歌を歌ったり踊ったりするくらいには元気なクソガキだった。親にもけっこう甘えていたな、末っ子だったし。
でも、小学校の頃くらいから既に、親は他の家庭よりも明らかに厳しかった。ゲームは与えられたりはしたものの、完全なご褒美制。できるとしても1日1時間。
隠れてやった日にはもう叩かれて叩かれて、確か掃除機のボッコを取り出して叩かれたり、おもちゃなどを捨てられたり。
ひどい時は冬の寒い日にベランダに放置されたり、親のベッドの隣でずっと正座させられ、少しでも寝ているのがバレたら殴られる……そんな事もあった。
玄関に出された時は近所の人に心配されて警察まで来たこともあったなあ。
とにかく、俺の親は厳しかった。ああ、それに必ずと言っていいほど俺と他人と比べる。「〇〇君はできるのに」「なんで〇〇(兄の名前)とこんなに違うんだろ」とか。
俺はその時はそこまで気にしてはいなかったんだろうけど、多分、心のなかでは無意識に自己肯定感を徐々に失っていたんだろう。
それに、他人とは比べたがるくせに、ゲームやスマホなどは買ってほしい時は「よそはよそ、うちはうち」と言う。
何かを反論すれば、「口答えするな」と殴られる。俺は何をしても意味がなかった。
そんな教育は俺が死ぬ高校2年まで続いた。
スマホはさっきも言ったが買ってもらえず、中学で唯一仲の良かったオタク友達とは別々の高校になり、スマホもないので連絡先も途絶え、疎遠になった。
俺の唯一の光も、ここで消えていた。
俺は小学校の頃辺りから、自分の容姿や周りを比べてしまうようになった。周りの男子たちは声変わりをしているのに自分だけはまだ高い声。身長も低い。
周りの人たちの顔がみんな良く見えてしまう。もうこの頃から俺はキモかったと自覚はちょっとはしていた。
この頃から俺は歌を絶対に歌わなくなった。一人だとしてもきもい声を聞くのが嫌だ。人前に出るということが恥ずかしくなった。親の教育の成果か、自分の意見はこの頃からあまり言わない方だった。
小学校の頃はまだ、容姿いじりとかはそこまで無かったから、まだ俺の心は正常な方だったかもな。
中学からが問題だった。
このあたりからみんなだんだん容姿の特徴も出てき始めて、イケメンや可愛いと言った人も多くなってくる。
もちろん俺はチー牛で顔はキモかった。それに知らない小学校からも人が集まるのもあって、俺は緊張とか人見知りで全く喋らない人として認識されていた。
しかもブサイク。
そんなの、誰だっていじめたくなるよな。だから俺はいじめられた。まあこの時代に暴力とかそういうものはなかったのは幸いだが、「チー牛が来たぞ!」とか、俺の声をキモく真似されたりとかした。
声真似はかなり俺はメンタルに刺さった……元々自分の声は嫌いだったから、それを面白おかしく真似されたのはもう死にたくなるほどだった。
でも、暴力がないだけマシと、俺はひたすらにストレスを我慢をして耐え続けた。先生には言いたくないし、言うて小学校の頃から仲良かった人もいない。俺はとにかく孤独だった。
環境も特に変わらず、勉強は難しくなるし、周りの人はみんなスマホも持ち始めている。まあ今のガキは小学校の頃から持ち始めているようだが……。
いい成績を取ればスマホを買ってやると言われたから、俺は勉強を頑張った。なんとか80点くらい取れた。まあむずい科目は60点位だったけど、学年平均も50点位だった。理由を説明すれば問題ないだろうと、親に見せた。
でも帰ってきた言葉は、「関係ない、60点は低すぎる。ゲーム没収ね。スマホも駄目。ちゃんと勉強しなさい」だった。
次頑張っても、どうしてもいい点数が取れず、だんだんモチベーションも下がっていき、この頃からどうせやっても無理と思うようになっていったんだろうな。
結局高校受験は第一志望はボロカスに落ち、私立のランクの低い高校に通うことになった。親はもちろんブチギレていつも以上に殴られた。
まあ通わせてくれるだけありがたいと思っておくしかなった。
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「一旦ちょっと待って!?話重すぎて信じられないんだけど!?落ち着かせて!?」
「そりゃ信じられないでしょうね。ユリアは優しい親しか見てないし学園でも楽しく過ごせてますから」
ユリアはなんかもう泣きそうになってた。聞いた限りだとユリアの親は本当に愛情込めてユリアを育てていたし、ユリアも両親にすごく懐いているくらいだから、そんな親を見ていれば、俺の話なんか信じられないだろう。
恵まれた奴は、自分より下で生きている奴をのことなんか知らないし見向きもしない。それを努力不足だと言って来るまでがセット。これが現実だ。
「そ、その、すまほ?とか色々と知らない単語も出てくるけど、とにかく家でも学校でもひどい扱い受けてるのはすごく分かる。な、殴るとか、ふ、普通にあり得ないんだけど」
「この世界でも虐待は異常なんすか?」
「うう、私もほかの家族の生活とか見たわけじゃないから分からないけど、そんなこと聞いたことないもん。少なくともこの村では暴力的な教育してる人なんて見てないもん。怖いよ……」
う~ん、やっぱり異常なんだろうか。親は努力信者でかつ、昭和の価値観ずっと引きずってたんだろうな。
にしても、少し語るのが面白くなってきた。なんか、誰かに俺の地獄を聞いてもらえるのは、少し気が楽になるし、ユリアのこの天然なリアクションも本当に聞いてもらっている感じがしてなんか安心する。
「落ち着きましたか?」
「う、まだ続きあるの……?」
「続きというか、もう少し詳しく俺の地獄を聞いてもらいます。なんか楽しくなってきました」
「何で楽しくなるのさ……」
ユリアは眉をひそめてあきれたようにこちらを見る。俺は気にせず話の続きをしていった。




