第84話 会話が少し楽しいって感じてしまう
「そうだ、チー君さ、何でもいいから私に話しかけてみてよ!ほら、会話の練習だよ」
ユリアはそう言って俺に前のめりにまっすぐな視線を向けてくる。いや、そんな期待のまなざしで見られても……。本当に話のネタとか何もねえんだよなあ。
「……本当に、何言っても、きっしょとか、それがどうしたんだチー牛とか思わないですか?」
「ねえチー君の中で私は一体何だと思ってるのかなあ。もう、思わないに決まってるでしょ?そのチーギュウって何度も言ってるけどなんなの?……じゃなくて、ほら、なんでもいいんだよ?」
てことで俺は話のネタを何とか絞り出そうと、窓の外や部屋の中を眺めたりしているが、なかなか思い浮かばない。
う~ん、そもそも女子はどういう話が好きなんだ?恋バナ?知らん知らん、そんなもん俺とは一生縁がないし。ユリアは何を話してほしいとかわからんから聞いてみるか。
「あの、逆に俺に何話してほしいとかあるんですか」
「え?う~ん、本当に私は何でもいいんだけどなあ」
ユリアは顎に手を当てて考えている……と思ったら急にハッとして俺をにらむ。
「っとストップ!私に聞くんじゃなくて、チー君から話題振るの!それじゃいつもと同じじゃん!」
はあ、話せるようになってなんかいいことでもあるんか?俺は聞く専じゃダメなんですか?読む専と書く専があるんだから、聞く専でもいいじゃないすかあ。
う~ん、まあたまに会話のない気まずい空気とかも今後あるかもだししゃべれるようになればそれでいいんだが……。う~ん、クッソだめだ。この世界ゲームもないし趣味も魔法くらいしかないし、ネタがない。だったら……
「今日はいい天気ですね」
「そうだねえ、ちょっと暑いけど、どうせなら外に散歩でもしない?この村の空気っておいしいし、気分もよくなるかもよ?」
す、すげえ、さすがユリア。なぜそこまで話を広げられるんだ?俺は尊敬のまなざしでユリアを見ていた。多分俺は一生ユリアや陽キャみたいに話せるようにはなれねえ。
「チー君?その、見つめられると恥ずかしい……」
ユリアは顔を少し染めて目を逸らしている……はっ!?この瞬間、俺の脳の中で警報が鳴り響いていた。社会的に終わる!
「マジでやめてくださいマジで訴えないでそういうつもりじゃなくて尊敬のまなざしを向けてただけでセクハラとかそういう意図は全くないからマジで訴えないで本当に何でもしますから俺は犯罪で人生ぶち壊したくないん――」
「ストップスト~~~ップ!訴えないって!久しぶりに見たかもこのモードのチー君……だったら、散歩行こ?」
ユリアは持っていた本をテーブルに置いて椅子から立ち上がる。今日は白いワンピースで生地が揺れ、何とも夏らしい可愛い姿をしている。直視できん。何もかもが二次元美少女みたいだ。
「ほら早く!」
「あ、いや……」
俺はユリアに手を引かれて立ち上がる。いつもならすぐ引きはがしてたんだけどなあ。慣れだろうか。でも、いいなこれ。なんか青春って感じ。前世では絶対に経験できないような。でも、何度も言うが、決して勘違いはしない。ただの姫と騎士、ただの幼馴染でしかないんだから。
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俺とユリアは……手をつなぐこともなく、隣を歩くわけでもなく、絶妙な距離感を保ちつつ村を適当に歩いていた。
会話も無いわけではなく、ユリアがいつものように話しかけてくれたりしてくれる。まあ会話の特訓自体は続いてて、「ほら、チー君からもなんか話してよ!」って振ってくることもある。
そのたびに俺は数分黙って、絞り出した言葉が「学園だるいっすよね」とか「トンボ可愛いですよね」だ。マジで会話のセンスなくね?
だけどユリアはそれでも会話を広げてくれる。「私は楽しいよ?」とか「チー君トンボ好きなの意外だなあ」とか雑談を色々した。
なんか、本当にユリアになら何しゃべっても楽しそうに話してくれるんじゃないかって、俺もちょっとだけ楽しくなりそうになってしまう。前世はオタクやネッ友とゲームの話しかできなかったのに。ああ、これも俺の憧れていた”普通”の一部なのかな。
ユリアは俺の過去を知りたがっていた。なんか、ユリアになら、話しても……いや、怖い。どうせ俺を努力不足と言って来るに違いない。それに楽しい会話じゃなくて暗い会話になってしまいそうだし。明るいユリアにとってはあれだろうな。
「チー君どうしたの?暗い顔して」
「え?あ、いや、過去のことを少し……ユリアになら……いや、なんでもないです」
ユリアは一瞬目を丸くして驚いていたように見えた。でもすぐに優しく答える。
「話したかったら話していいんだよ?私はチー君のこと色々知りたいし。辛い過去は話した方が楽になるものだよ。あ、もちろん嫌ならいいんだけどね!?」
「……」
俺は悩みながら、うつむきながら歩みを進める。ちょうど、公園のような広い場所に着いて、少し離れたところにベンチを見つける。ユリアは俺の肩をツンツンとつついてベンチを指さす。
「少し歩き疲れたし、あそこに座ろ?」
「あ……はい」
俺とユリアはベンチに座る。周りは特に人はいないので、風や草木の揺れる音が耳に軽く響く。一応周りを見渡して、誰もいないことを再度確認。
「ユリアは確か、なんで俺がこんな性格になったかを知りたいんですよね」
「うん。知ったほうがお互いのためにもなるし」
「……わかりました。話します」
俺はユリアを一瞬見ると、まだ話してもいないのになぜか口をおさえて目をウルウルさせていた。……は?
「ユリア?えっと、なんでその……」
「あ、いやごめんね!?チー君がやっと私に心開いてくれたのかと思って感動してたの……」
「いや、あの、別に完全には開いてませんよ、1センチくらい」
「1センチも!?前は2ミリとか言ってたのに……」
驚かれたの草。まあ、信頼は確かに以前よりはしているが、さすがにまだ警戒もしている。でも、この人なら、話してもいい、ただそう思っただけ。俺は吐きそうになるほどの過去を思い出しながら、どもりながら語り始めた。




