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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第1章 転生編

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8/8

第8話 友達ができた、多分




 夕方になり、ユリア達を家に送るために、俺と彼女たちは一緒に外に出る。あ、もちろん俺が率先して送ろうとしてるわけではない。父さんに送ってやれと言われ、俺は何度も断ったのだが、剣を壊した罰だと言われ、無理やり外に出された。まあ、罰が暴力じゃないだけマシか。


 ユリアとは絶妙な距離を保ちながら歩く。父さんはユリアに「チーと仲良くしてやってくれ」と言って送ってくれた。俺は嫌だけどな。


 俺はユリアの少し前を歩く。なぜって、ユリアの後ろを歩いたら、「触った」とか「ストーカー」って言われるかもしれなくね。前にいれば安全だ。前世から俺は女の後ろを歩くのも立つのも避けていたしな。


 前世は、男性が女性に声かけるだけで通報される世の中だったからな。いやこれガチの話だからな?ここまで慎重になる俺は正常……だよな?


 ユリアは俺の後ろから気さくに話しかけてくる。


「優しいお父さんだったね」


「え?あ、はい」


 確かにこの世界の俺の父さんは優しい。ただの親バカなのかもしれないが。母さんも今のところは優しい。


「なんでチー君のお父さんとは普通に話してるのに、私と話す時はどもるの?やっぱりまだ距離感があるのかな……」


 少しユリアはすこしぷく~っと頬を膨らませる。ちょっと可愛いな畜生。


 そりゃチー牛だし、女子と話したこともほとんど無いし、俺のしゃべり方とか気持ち悪いし、容姿はキモ……今はイケメンだからキモくはないか。


 未だに自分の顔が昔の気持ち悪い顔だと思っている癖みたいなものがある。17年もチー牛で過ごしてきたんだぜ?そのチー牛顔が俺の脳内で根付いてしまっている。


 そもそも顔以前に、家族とは普通に話せるのは普通じゃないの?ただ、あくまで親子なのによそよそしいと怪しまれそうだから、俺なりに頑張って話しているつもりだ。それに父さんとは男同士だしな。


 あ、別に前世もまともに親と話してはいなかったか、アッハッハ。


「いや、家族なら普通に話せるし……そういうのとは違うとおもうんすけど」


「私とは友達、じゃないのかな……」


「逆にいつ友達になったんすか?」


「ひどくない!?」


 ユリアが雷に撃たれるようにショックを受けた。だが、すぐに立ち直り、俺に再び聞いてくる。


「あ、諦めないで、私……。チー君、そのね、私と友達になってほしいんだけど……。私の事、そんなに嫌?」


「え?いや、えっと……」


 そう言われると、断れない。俺だって友達は欲しい。今までオタク仲間以外の友達はいなかった。あと、さっきからメイドの視線が怖い。友達になってあげろオーラを感じる……。


 男友達なら、人生を失うほどのリスクがないから、ここまで警戒しなくて済むのだが……。


 この世界の初めての友達が女ってのは、社会的リスクが怖い……。でも俺を見つめ続けるメイドも怖い……。クソ、イケメンの俺を信じろ!


「……はい。別に、なっても、いいです……」


 それを聞いて、ユリアの目がキラキラと輝く。


「本当?良かった……。今まで私ね、友達って作ったことなかったから」


 意外だ。こんなにかわいい容姿をしているのに。


 あ、違うな。たしか、最近この村に来たんだっけ。それまでは、どこにいたんだろう。そこでは友達は作れなかったんだろうか。そういえば両親は?メイドが付いてるってことは貴族?よくわからん。


「それにしても、すごいなあ、チー君は。剣だけじゃなくて、魔法もできちゃうんだもん」


「でもまだ初級ですし」


「もう、普通は学園に行ってから魔法を習うんだからね?もっと自信持っていいんだよ?」


 自信を持て。父さんにもユリアにも言われる。


 前世が自己肯定感の欠片も持てないような人生を送ってきた分、今更、いくら転生したところで、変わることなどできない。


 俺の自己肯定感は無に等しい。無に何を掛けても何も生まれない。俺は前世でチー牛に生まれた時点でもう、転生しても変われない。


「もう、下向かないで顔上げてよ」


「……はあ。優しいんすね。前世でもこんな優しい人がいればな」


「それはもちろん、”どんな人にも優しく”、というお母様の教えなので。ところで、”前世”ってどういうこと?」


 ユリアは不思議そうに俺の顔を覗き込む。


 俺は心臓が止まるかと思うほど焦った。さすがに失言だった。転生したことはできるだけバレたくない。


 特に、父さんには。俺を混ざりものだと、紛い物だと思われて、気持ち悪がられる気がする。親として接してくれなくなるかもしれない。ユリアも気味悪がってしまうかもしれない。俺はシラを切る。


「いや、なんでもないっす」


「そうなの?何かあれば頼ってね?友達なんだから!」


 ユリア特に問い詰めることもなく、俺に手を振って家に帰っていく。こんな無邪気な子供が俺を社会的に殺す、やっぱそんなことあり得ないよな。


 にしても、ユリアの家ってこんな近かったんだな。俺の家から1分も経っていない。


 どおりで今まで俺の剣の稽古を見られていたわけだ。恥ずかし、今度から反対側の庭でやるか?


 すると、メイドは俺に近づいてきて、一言。


「チー様、あなたは”誰”なんですか」


 真顔で(メイドは基本ずっと真顔だが)急にそんなことを聞かれ、一瞬だけ緊張してしまう。だけど、俺は冷静に答える。


「……チー・オンターマです」


「……そうですね。失礼しました」


 メイドはそのまま礼をして、家に向かって行く。


 今の意味深な言葉は、やっぱり、俺は疑われている?少し不安になる。だ、大丈夫だ、きっとバレない。


 にしても、俺の今世初めての友達がまさか女子とは。


 しかも、あんなにかわいい。もしかしたら、あの子を彼女に、なんて期待してしまう。あれ、でも幼馴染って、その関係が当たり前すぎてあんまり恋に発展しないんだっけか、知らんけど。


 ただ、どちらにしても、俺の性格じゃ無理だろう。


 ユリアも、俺との関わり方に困っているところもある。いや俺の捻くれのせいだけど。とにかく、この性格が治らない限りは、無理だろうな。


 別に無理でもいい。俺はちゃんと”現実”を見て”慎重に”考える。


 前世の俺調べでは、恋愛での“顔”って、就活の”履歴書”みたいなもんなんだよな。


 最初に見て分かる容姿(履歴書)でふるいにかけて、そこで落ちたら面接で中身なんて見てもらえない。


 今世の俺は顔で履歴書審査をクリアできても、性格がチー牛のままなので、女子を楽しませるという面接突破は難しい。それくらいは分かってる。


 まあ、前世はチー牛だから、女はもちろん、男にすら気持ち悪がられて、近づかれなかったが。


 これが容姿に恵まれなかった弱者男性やチー牛が、恋愛市場の土台にすら立てない現実だろう。


 ……別に、期待するくらいは良いじゃないか。どうせ無理なんだからさ、夢みるくらいは……。


 あとは、調子に乗った行動だけはしないようにしないと。俺は現実を分かっているから。慎重に生きて、人生をぶち壊されないように。



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