第72話 想定外の事態に巻き込まれた
「はあ、もういい、無能は黙って見てろ」
「クラウド、言いすぎだよ、この人クラスでもしゃべったところ見たことないし、人見知りなんだよきっと」
クラウドは俺を睨んで無能と罵り、サンがクラウドをなだめた。はいそうですよ俺は無能なので黙って見てますよバーカ、と俺はクラウドを睨みつけてやった。
「よし、行こう」
クラウドの指示通り、ムンは現れたブラックオルフに向かって走り出す。なかなかの速さだ。ブラックオルフがムンに狙いを定め襲い掛かるが、それを分かっていたかのようにムンは剣を的確に振る。
ブラックオルフのあの速さに余裕で対応している。そしてオルフの首はいつの間にか宙に舞っていた。ムンってやつ、やるな。
「危ないよ!」
ムンが一体を倒した直後、その隙を突くように、もう一匹のオルフがムンに向かって飛び込んできた。そこをサンがファイヤーボールで狙い定めて放った。
見事にもう一匹に命中し、オルフは焼けてもだえ苦しむ。サンの魔法の威力も高いが、動く標的に的確に当てる精度もさすがだ。
そして魔法師のサンを狙ってくるオルフはクラウドが適切に剣で捌いていく。クラウドは水流型の使い手のようだ。さすがにブルーの方が圧倒的に強いだろうが。
この戦いを見てて思う。俺に、やるべきことなんてあるのか?こういう時、本当にわからない。さっきも言ったが、俺の経験上、だいたいこういうグループイベントは、俺は何をすればいいか分からずに、何もせずに終わる。
俺が何かする前に、勝手に完結してしまうんだ。今まさにそうなっている。クラウドの言う通り、俺は無能となった。
いつのまにか、オルフは残り一匹となる。
「お前たち、素晴らしいな」
スタッフが俺たちに向けて言うが、たぶん、その”お前たち”の中に、俺は含まれていない。やっぱり、俺が他人と協力なんて無理なんだ。
「よし、残り一匹です!」
ムンが安堵した顔でそのまま残りの一匹に迫った時だった。
残り1匹のオルフがいきなり何かに押しつぶされて地面に叩きつけられる。ドゴーンという轟音が森中に響き、地面には次々とひびが入る。
土煙が舞い、視界が悪くなる。前線にいたムンは何事か訳が分からず、動けなくなっていた。スタッフはすぐに状況を判断し、ムンに大声で指示する。
「ムン!すぐに離れろ!一体何が起こった?手柄を横取りする族か?いや、だが一瞬見えた図体はでかかった……おい!ムン!早く動け!畜生っ!」
このスタッフの反応は、ガチの異常事態だと思う。だが、ムンはパニックで聞こえていないのか、体が動かず、退避できずにいた。
スタッフがすぐさまムンへ駆けていき、ムンを抱えて退避しようとした。
その瞬間、土煙から黒い手が伸び、スタッフの背中を叩きつける。
「ぐはあ!」
スタッフはムンを抱えたまま吹き飛び、土煙を巻きながら地面を転がっていく。彼らは木に衝突し、スタッフは一瞬で気を失ってしまった。
抱えられていたムンは青ざめた様子で、「ああ、僕のせいだ、僕のせいでこの人が……」と呟いて震えていた。ムンは恐怖でもう動けないだろう。
クラウドとサンはその光景に恐怖を感じ始める。そりゃ、Aランクが一瞬で戦闘不能になったんだ。先ほどオルフが叩きつけられた場所から土煙が散って行き、徐々にその姿があらわになっていく。
「ねえ、あれって……」
「山の主?ボスゴリか……?」
サンとクラウドがつぶやく。土煙から現れたのは、先ほどのオルフの首根っこを掴み、くちゃくちゃと顔から食いついていた。
体長2.5mはあるだろうか。見た目はまんまゴリラのようだった。そいつは山の主らしく、名前はボスゴリ、らしい。ぷっ……ボスゴリって、そのまんまじゃねえか、もっといい名前あるだろ。
とは言え、今は(心の中で)笑っている場合ではなく、そいつはAランク相当のやばい魔獣だ。
Aランク魔獣はB~Aランクで構成されたパーティでようやく倒せるレベルらしいのだが……もちろん、Aランクのスタッフが戦闘不能になった今、勝ち筋などほぼない。
まだ学生の俺達ではどうにかできる魔獣ではない。
ボスゴリはオルフをかじりつきながら、俺たちをじーっと見ている。まるで、新たな獲物を狙っているのように。
サンが声を震わせながら、クラウドにつぶやく。
「ま、まずいよ、早く逃げないと」
「だめだ、スタッフとムンを置いて行けるか」
「でもこのままじゃ殺されちゃうって!」
「焦らせるな、今考えてる」
状況的にはかなりやばくなってしまった。クラウドの奴、意外と仲間思いなところはあるようで、気絶したスタッフと動けないムンを置いてはいけないと悩んでいる。
逆にサンはとにかく逃げたがっている。というか、サンの反応が正しい。今は自分たちの身が優先に決まっている。
そしてクラウドはハッと思い出したように、すぐさま俺に振り向く。
「おい無能!はやくスタッフとムンを担いでさっさと逃げろ!おどおどしてなにもできなかったんだ!それくらいはできるだろ!」
おっと急な指示、最初からそうしてくれよ。というか、それはつまり、クラウドが残って戦う、足止めをするということか?バカかこいつ。あのゴリラとの戦力差を分かってて言っているのか……?
クラウドは確かに強いと思うが、ブルーのようなあの凍えるような強者のオーラは感じない。隠しているようにも見えない。ボスゴリと戦ってもすぐに殺されるのがオチだ。
しかし、クラウドが俺に叫んだ瞬間、ボスゴリはクラウドに向かって急に走り出した。
「クラウドあぶない!」
「クソが!」
サンが叫ぶがどうにもできない。ボスゴリはあの巨体で、見た目にそぐわず高速でクラウドに迫っていた。ズシンズシンと踏み込むたびに地面が揺れるほどの圧だ。普通の人間ならまず動けなくなる。
だが、クラウドは剣を構えた。オイオイオイあいつ死ぬわ。ボスゴリはクラウドに殴りかかる。クラウドは、ボスゴリの拳を受け流したように見えた。しかし、クラウドの剣はいとも簡単に粉々に砕け散った。
地面に破片が散らばって行き、剣は柄だけが残り使い物にならなくなった。そのまま、クラウドはボスゴリの拳を思いっきり肩から食らって吹き飛んだ。クラウドは森の奥まで飛ばされ、見えなくなった。
「クラウド!」
サンは叫ぶが、目の前にボスゴリが現れ、すぐに恐怖の表情に変わった。サンの足はすくんで、足を滑らせそのまましりもちをついた。
「い、いや、助けて……」




