第70話 ギルド体験に行ってみた
チー視点に戻る
ユリアと喧嘩して1週間が経った。
今日も朝が来て、カーテンの隙間から、まぶしい帯状の光が差し込む。ベッドから出たくないぜ……。しかも今日はギルド体験の当日だから尚更起きたくない。
ユリアはあれから俺の部屋に来ることはなかった。
その1週間というものは、非常に静かなものだった。今は学園の新学期が始まるまでの間の、まあ春休みみたいなものだ(今は冬だけど)。ああ、この世界は冬に新学期が始まるから、地球とはまた違うんだよな。
だから、学園に行くわけでもないので誰とも会わない日が続いた。ユリアとは毎日のように顔を合わせていたから、なんだかんだ言って学園に来てからは初めての一人の生活なんだよな。別に料理は前世で適当にチャーハンや野菜炒めやら作った経験はあるし、ユリアの料理もちょこちょこ見ていたから普通に作れる。
1人だから解放感はあるし、誰にも気を遣わなくていいと思いつつ、今までユリアが起こしに来たり、料理作ってくれたり、雑談してくれたりしていたからなのか、部屋はシーンとしていて、少し寂しいものだ。
はあ、あれって俺が悪いのか?前世で溜まっていたストレスとか、思っていたものが一気に爆発してしまって俺も言いすぎたけどさ。チー牛の気持ちは、底辺の気持ちは同じ境遇の人以外に分かるわけがないんだから。
成功した奴は少なくとも、成功できないやつよりも環境や才能、運などの要素に恵まれている。そんな奴らが底辺に努力不足と言って、自分の努力を美化し正当化する。そして結果がすべての世の中は、失敗した事例など誰も見ないし、成功者は目立ちやすいから皆そちらにしか目がいかない。えっと、生存者バイアスってやつか?
まあユリアは俺を努力不足と言ってこないだけマシだが、俺の苦労を、前世の地獄を簡単にわかるなんて言ってきたことにイラってきただけだ。いやまあ、やっぱ言い過ぎたとは思うぞ?謝ろうとは思うけど、正直恥ずかしいし素直になれないし、ユリアも怒ってるだろうし気まずい。
ユリアとのことも考えていたが、時間が経つにつれギルド体験のことで頭が埋めつくされていく。正直行きたくはないが……暇だし、あの時はああいってしまったが、あのお人好し天然ユリアが俺のためにしてくれたのは事実だろう。
朝からガクブルだ。ヤンキーに絡まれたらどうしよう。布団から出たくない。てかなんでわざわざ冬の寒いときにやるんだよ、まあ、暑いよりはマシか。
にしても怖すぎる。大丈夫。今世の俺は強い俺は強い……。
もう考えていても緊張して動悸が激しくなるだけだから、ひとまずベッドから出て重い腰を上げた。このモヤモヤとか緊張とか、何とか振り払おうと、体動かしてから行くことにした。
あ、その前にネクラにユリアの護衛を頼んでおくか。今日は一日部屋を開けるからな。今の俺とユリアを繋いでいるのは、ただ騎士と姫の関係があるから。だから、俺は騎士だけは続けてやるつもりだ。
---
昼前くらいに魔法剣と杖を持って、家を出る。体験会の場所は確か、王都のはずれにある森だった気がする。ちょうど今は、次の入学シーズンが近い時期だしな。
各地方から新1年が集まり、新2年3年は入学式前の春休み(今は一応冬だが)みたいな感じだから、一般人も含め王都は人でごった返している。
人混みも視線も無理。あいつら全員こっち見てる気がする。あいつら俺を見て笑った気がする。……今はイケメンなんだからそんなわけないのに。
こっから森までは地味に遠い。また気持ち悪くなりそうなので、俺は路地裏に避難する。そこから建物の上に飛び乗り、アニメみたいに屋根から屋根へと渡ってショートカットすることにした。
まあ、誰も空なんか見ないだろう。くっそ、どっかの戦闘民族みたいに瞬間移動とか使えねえかなあ。
---
森に着いた。ただただ周りは緑に囲まれていて、まさに大自然といった感じ。空は青く透き通っていて木々の葉の隙間から光が漏れている。それに空気が新鮮で気持ちがいい。
周りを見ると、ちょうどギルド体験の看板のようなものが立っていたので、わかりやすかった。にしても、まあまあ人が多い。う、目が合った、怖え。
誰に声をかければいいのか分からず、道のど真ん中で挙動不審でおどおどする俺。まるで不審者。でも、声かけられねえよ……。間違ったら怖いし……。
数分後、見かねたスタッフが話しかけてくる。
「えっと、ギルド体験の応募者でしょうか?」
「え、あ、はい」
「でしたら、招待状の方お願いします。」
俺は手紙に入っていた招待状を渡す。スタッフは名簿を確認する。
「チーさんですね。はい、ではこちら、Aグループにお願いします」
受付にそう言われ、指を指された方向に向かった。
そこにたどり着くと、3人ほどの体験者と、付き添いの背の高い、装備の豪華な男性スタッフ1名がすでに待機していた。スタッフがこちらに気づく。
「ええっと、君の名前は、チー・オンターマで合ってるかい?」
「あ、はい」
「緊張しているのかい?大丈夫だよ。いざというときは俺が守るから」
「あ、はい」
「……この子大丈夫か?」
俺は緊張で目を合わせることもできず、ただただはいはい言ってるだけ。怖いもん。ガタイ良いし。
ユリアやレッド、ネクラとは一緒にいる時間が長くて慣れてるけど、赤の他人と話すのは未だに緊張するし、怖い。
こんなので毎回緊張してたらメンタル持たねえだろ……。今までようやってきたわ。
一緒に行くっぽいメンバー3人が俺に話しかけてくる。
「あたしの名前はサン、火魔法が得意なの。よろしく!」
サンは活発なポニテオレンジ髪の女子だ。あれ、こいつなんかどっかで見たことあるような。
「僕はムン。一応、剣士科です。よろしくお願いします」
ムンは黒髪の真面目そうな眼鏡君だ。背中には剣を背負っている。背は少し低い。
「……クラウドだ。」
銀髪のクラウドは、不愛想な顔で俺を睨みながら答える。こわ(人の事言えない)。クラウドも剣を背負っていて、片目が少し前髪がかかっていて、目つきは鋭く、強者感オーラを醸し出している。
俺は怯えていると、サンがこちらをじっと見つめてきた。やめろ、見るな。マジで見るな。変態!
「あ、君、なんか見たことあると思ったらいつもユリアと一緒にいる男子じゃん」
サンをちらっと見て、俺も思い出した。こいつって確か最近、授業でユリアとよくペア組んでるやつだ。どおりで見たことあるわけだ。
「あ!そうそう、クラウドなんだけど、こんなんだけどほんとはツンデレだから気にしないでね」
「誰がツンデレだ」
サンとクラウドは知り合いなのか、サンがクラウドを紹介してくれた。
クラウドはツンデレ、なのか……?初対面からずっと俺をじろじろと睨んでくる。怖い、やっぱヤンキーじゃねえか。ツンデレならはやくデレ見せてくれ……。




