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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第1章 転生編

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第7話 これは努力じゃない、才能と環境と運の結果だ




 さあなんて言われるだろうか。


 魔法を使ったことに怒る可能性は低いだろう。むしろ、今まで俺が魔法を使えることを隠していた分、魔法も使えるのかと褒めてきそう。


 なら、剣に杖を埋め込むなんて頭のおかしいことをしたこと……まああり得るか。


 そもそも火魔法を放ったことか?そんなくだらないことのために爆発させたことか?


 ただ、そんな考えは杞憂に終わる。


「お、お前は天才か!?」


「は?」「え?」


 俺とユリアは驚きの声を上げる。父さんは今なんて言った?天才?顔はちょっと嬉しそうだし。


「そんな発想、今まで誰もしたことないぞ?直接杖に触れていなくても魔法が発動したことになる。

 杖を剣に埋め込むことで、ミスリル剣のように魔法を発動できて、両手をふさがない戦い方ができる。

 素手ではなく杖を介しているから、威力も高いまま放てる。こんなこと、お前は世紀の大発明だぞ?」


「いや、失敗に終わったんすけど……」


 なぜ、そこまで褒めるのだ?前世でただの凡人だった俺が適当に考えて適当に作った魔法剣。雑に杖を入れ込んだ剣だ。マジで誰でも思いつきそうだろ。世界は広いんだぞ?


 まあ、魔剣士が珍しい世界らしいし、思いつく人も少ないのかな?知らんけど。今度は母さんが答えて来た。


「多分、内部で魔素が溢れたんじゃない?剣先に杖の先端が出るように上手く埋め込んで、魔素を放出する微細な穴さえ付ければ恐らく成功すると思うよ」


 それだ。剣の内部で爆発したのなら、放出する部分、穴を付け加えればいい。さすが大魔法師。


 ただ、剣の刃の部分に穴をあけたりすると耐久性に欠けるだろうか。


 でも、包丁にも穴が開いたものもあるくらいだし、そこは問題ないか?いやあれは切れ味をよくするための穴だし関係ないか。


「そもそもお前はこの剣をどうやって作った?」


 うわ、聞かれたよ。ここは隠し通せれば……。


「えっと、企業秘密で」


「俺の剣を壊したんだ。反省してるなら教えろ」


 何だよ、剣壊したこと根に持ってんじゃねえか。畜生。


「その、火魔法と土の錬成魔法を使いながら、ちょこちょこ~っと」


「まじかよ、魔法の複合はかなりの高難易度のはずだぞ」


 べた褒めである。そんなにすごいものなのか?というか、複合というより、火魔法と錬成を交互に発動させただけだから、複合ではない気もするが。


 あとは多分、優秀なあなたたちのDNAを俺に残してくれたおかげじゃね?


「や、やっぱりチー君はすごいんだね!」


 ユリアはよくわからないようだが褒めてくれる。とびっきりの笑顔である。おっと危ない、すぐに俺はユリアから目を逸らす。父さんは続ける。


「剣の予備はまだあるから、どんどん使ってくれ!でも、なんでこれを作ったんだ?やっぱり魔剣士になるのか?」


「いや、あれっす。ミスリルの剣なんて希少で手に入らないですから、遊び半分で自分で作ろうと思って……」


「こ、子供の発想というのはすごいな……」


「とはいえ、詠唱の手間はどうしても省けないですがね」


「でも多少は戦いやすくなるはずだ」


 父さんはご機嫌である。母さんは笑顔で俺を見ている。どうもその笑顔が胡散臭くて仕方ない、未だに母さんを信じられない。


 それより驚いていたのが、ユリアだ。


「す、すごい、剣だけじゃなくて、魔法も使えるなんて……。すごい”努力”してるんだね……」


 俺は今の言葉にピキっとなってしまって、ユリアを睨みつけながら言葉を返す。


「違う」


「え?チー君、なんで怒ってるの?私、どんどん自信失くしてきた……」


 泣きそうなユリアにすぐにメイドが落ち着かせる。


「ユリア様、大丈夫です。チー様は素直になれてないだけです」


 メイドは俺をキッと睨む。ああ?どうせ俺が泣かせたとか言うんだろ?


 ていうか、俺は努力なんてものをしたつもりはない。俺は努力という便利すぎる言葉が嫌いだからな。


 仮に俺が努力したとして、ここまで剣も魔法も人並みに使えるようになったのはDNAや環境、運のおかげだ。


 大魔法師と剣聖のDNA、父さんの稽古や魔法書が豊富な環境、そして前世の知識を持ったまま転生したという強運。


 それがすべて合わさって初めて結果が生まれる。


 俺は前世の幼少期から、頑張っても頑張っても報われず、それを努力不足だの自己責任だと言われ続けた結果、努力という言葉が大嫌いになった。それだけのこと。


 努力が実る環境や運があるかが大事なのに。あたかも俺が悪いかのように……イライラしてくる。


 あ、そうだ、忘れる前に父さんにこれは言わなければ。一旦落ち着こう。


「あの、父さん、いいですか?」


「おう、どうした?」


「えっと、できれば、周りには内密にお願いしたいのですが」


「ほう、理由は?」


 まあ、聞かれるよな。俺は事前に考えておいた綺麗ごとを並べる。


「これが本当に誰も考えつかないようなものだとしたら、その、もし世に出回って悪用されたらまずいじゃないですか。それに、えっと、僕の努力の結晶を、えー、他人に簡単に使われると悔しいですし、ええ、その、平和に暮らしたいんです」


 それっぽい理由をとにかくつけまくった。努力の結晶とか臭いこと言いたくは無いが我慢する。実際はただの才能と暇つぶしの結晶だよ。恥ずかしいわ。努力なんてしてねえし。


 ちなみに本音は目立ちたくないが理由の9割である。


 だけど、ああ言わないと納得してくれなさそうだし、いろんな理由を付けてよく考えてるんだぞってところを見せつけるために。


 父さんと母さんは顔を見合わせていた。


「……いや、分かったんだけど、お前本当に8歳なのか?普通そんな考え8歳から出るのか?俺が子供の頃ってそこまで考えてたっけ」


「私たちの息子が天才なだけですよ、きっと」


 考えすぎて逆に疑われてしまった。


 ユリアは頭に?マークを浮かべていたが、いつも無表情だったメイドは俺の言葉を聞いて少し目を見開いて驚いていた。


 父さんって案外バカだからバレないかもしれないが、このメイド、もしかしたら俺を転生者だと勘づいたのか?


 ……いや気にしたら負けだ、大丈夫だろう。きっと。





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