第68話 誰にもチー牛に気持ちは理解できない
「……それに、チー君。やっぱり、転生者だったんだね」
俺は一瞬ドキッとして鼓動が速くなる。転生者だとバレたのか?ひとまずしらばっくれてみる。
「だからそれは前に違うと言ったし、論点をずらさないで欲しいんですけど」
「さっき、『俺は前世からずっと、ろくに人と関わってこなかったんだ』って言ったじゃん」
「え、あ、いや……」
少しイライラして無意識に話してしまったのか。やっちまった。いや、ユリアにはずっと疑われていたし、バレるのも時間の問題だったんだろう。まあ、メイドも俺が転生者だって見破っていたし、ユリアにバレるのも時間の問題だったんだろう。
「だって、おかしかったんだもん。チー君のお父様だって、あんなにチー君に優しくして、褒めてて、それなのになんであんなに自信がなさそうなんだろうって。
まだあるよ。口調だってそう。怒ったときは、まるで別人みたいにきつい口調になったり。それに、たまに、チーギュウとか、ゲーセンとか、よく独り言を言ってるし。そんな言葉、この世界で聞いたことも無いし、調べても見つからなかったもん。
それに、たまに知らない文字を書いてたり、計算を不思議な式で解いてたり。チー君の描いてた絵も独特だったし。
私も、いろんな人いるんだなって最初は思ってたけど、学園に来て、やっぱりチー君だけ変なんだもん」
まあ、そうだよな。これだけずっとユリアと一緒にいれば、人の癖や行動も全部見えてくるわけだし。俺も無意識のうちに前世の言葉や知識を使っていたりする。どうあがいてもバレてしまうよな。
「チー君、その、言いたくなかったら言わなくていいんだけど、前世で、何かあったの?」
ユリアはソファに座りながら、そんなことを聞いてきた。
一瞬俺は言うべきか悩んだけど、隠しても仕方ないし、どうせ引かれるなら今のうちだ。俺がどれだけクソだったのかを言えば、ユリアも俺を嫌ってくれるかな、なんて。
「前世はブサイクの低身長の何かに秀でた才能の無い低スぺ遺伝子の毒親持ちの行動しない非モテ根暗チー牛陰キャだっただけです」
「言いすぎ!?もう慣れたけど……やっぱり前世の影響でそんなに自分を卑下していたんだ。そこまで自分の悪口言うの、逆にすごいよ」
「そりゃそうですよ。容姿で苦労して、いじめも受けて、親にずっと縛られ続けて、何も上手く行かなくて、自己肯定感も欠片も無くなって、人間は敵だと認識して、できるだけ人と関わらず過ごして。イケメンは皆楽しそうにしやがって。結局俺は自殺を選んだ。やっぱ現実は甘くないし、理不尽な運ゲーみたいなもんだって思い知らされましたから」
俺は前世の地獄を思い出して床に拳をぐりぐりと擦りつけていた。思い出すだけでイライラしてくる。こんな体験が無ければ、今はもっと楽しい人生送れていたはずなのに、こんな性格引きずって……。
今思えば、こんなこと誰かに行ったところで誰にも俺の地獄を分かるはずない。もう二度と思い出したくない。
「自殺って……そう……そんなにつらかったんだ……」
ユリアがそんな俺を見て、ゆっくりと近づいてくる。そして俺の頭を撫でてくる。
「分かるよ、チー君の気持ち」
その言葉を聞いた瞬間、俺はそのユリアの優しさに……どす黒い感情が湧いた。まるで、頭をぶつけられたみたいに、ユリアへの感情が変わった。
メイドの話によれば、こいつは散々優しい両親に恵まれて、容姿にも恵まれて、嫌な思いなんて何もせずぬくぬく過ごしてきたんじゃねえか。それなのに、俺の気持ちが分かるだ?
俺は感謝以前に、懐疑心が勝って、何言ってんだこのガキは、と思ってしまった。
ギルド体験の話もそうだ、勝手に俺の名前で申し込みやがって……俺のためと言ってただの嫌がらせなんだろ?
ここで、今までユリアに抱いていた懐疑心が爆発した。そもそも、異世界とはいえ、現実にこんなに優しい二次元のような人間が存在するわけねえだろ。
こいつの本性を暴きたい、今までニコニコ振りまいてた笑顔が偽物だったと暴きたい。こいつはどうせ俺のことをバカにしている。言えるはずねえよな、騎士に、友達に、きもいなんて。うざいなんて。
俺はベシっと俺の頭を撫でるユリアの手を払いのけた。もちろん加減はしたが、ユリアは痛そうに腕を押さえて、不安そうに目を丸くしていた。
「チー君……?」
「知ったようなこと言ってんじゃねえよ」
「なに、が?」
「俺がどれだけ辛かったかなんて知らないくせに、俺の気持ちが分かる?ふざけんなよ、お前は親にも容姿にも恵まれて来たくせに?ああ、言っとくが神声教団に狙われてるのは確かに可哀そうだとは思うが、それだけの奴が俺の、弱者男性の気持ちなんてわかるわけないよな?」
「いきなりどうしたの?チー君……?」
「その優しすぎるお前の態度も、ずっとずっと、気に食わなかった。なんでそこまで人に優しくできる?そんな優しすぎるお前をずっと信じられなかった、気持ち悪かった。騎士という名目で俺という安全に寄生してんだろ?本当は俺の事キモイって思ってんだろ?だからこんなギルド体験なんて嫌がらせしてきたんだろ?」
ユリアは目に涙を浮かべながら、叫んだ。
「そ、そんなわけないじゃん!私は本当にチー君のつらい気持ちが分かるし、キモイなんて本当に思ってない!だって、チー君が私を慰めてくれたように、私も何か力になりたいって思っただけ、どうして信じてくれないのさ!」
「信じるわけねえだろ、人間なんてみんな偽善者の振りして嘘で自分を塗りたくってる怪物なんだ、優しすぎる人間ほど怪しくてたまらないんだよ。俺のためと言えば嫌がらせも正当化できるもんな?」
「正当化なんかじゃない!だから、私は本当に……本当に、チー君の、こと……もういい」
ユリアの声はだんだんか細くなって行き、うつむきながら、急に走り出してそのまま俺の部屋を飛び出していった。
……これでいい。きっと。ユリアはどうせ俺のことなんて……。何度も言うが、あんな二次元みたいな性格の奴なんて、存在してはいけないんだ。その時点でおかしいんだよ。裏が無いわけない。
これで、いいんだよな。騎士は一応続けてはやる。でも、もう無理にユリアと関わる必要はないんだ。俺はずっと孤独だったし、その方が良いのかもしれん。
人間なんて信じられない。人間は保身のために本当の自分を見せることは無い。なんせ、本当に信頼できる人ならまだしも、ユリアにとって俺は信頼できる人なわけがない。
これでいいのさ。一人でやってけるさ。少し寂しさを感じながら、俺は適当に1人、夕食の準備を始めた。




