第66話 試験は卑怯に立ち回る
……やばい、これ試験だって思うと、緊張で足が震えてきた。俺はどうしても”本番”という言葉に弱いんだ。緊張して、視界が白くぼやけたり、腕がプルプル震えたり。失敗できない、という恐怖と戦いながら。
テストでもゲームでも、俺は本番で実力を発揮できたことはほとんどなかった。これは今世も引き継いでしまったようで。
俺は何とか震えを止めようと必死な中、リオが一歩前に出て、制止するように腕を前に出した。
「学園長」
「なんだ」
「本気でいいのでしょうか。木剣などは使用しないのでしょうか。学園長を傷つける場合もありますが」
すると、学園長はガハハハッと笑い出した。
「そんなこと気にするな!貴様らまだ1年のガキに遅れを取るほど私は弱くない。私は強さでこの学園の頂点に立ったのだ。気にするな、どんと来い」
少し挑発交じりに答える学園長に、リオは少し拳を握って顔をしかめる。
「私は首席です。数少ない魔剣士を目指しているのです。なのに、ガキだから舐められると少し腹が立ちますね。本気で行かせていただきます、後悔しないでください」
その瞬間、リオは土煙を巻きながら姿を消した。まあ、俺は見えていたけど、姿が消えたかと思うほど素早く学園長に接近していたのだ。俺が見えているなら、学園長も余裕で見えるだろう。感心した表情で、学園長はミスリルの大剣を構えて、突如目の前に現れたリオの剣撃を簡単に捌いた。
驚きなのは、自分の体長程あるミスリルの大剣をまるで剣のように片手で扱いこなしていること。それに剣の重さなど全く気にせず、あの余裕のある笑み。戦いを楽しんでいる。先ほど言った挑発は本気で言っているとしても納得だ。
リオは大剣で受け流されても、何度も後退して接近を繰り返し剣を振り続けた。キィンという金属音が何度も戦場に響く。俺は遠くから見ていたが、いつの間にか戦いに見入って緊張がほどけていた。なんかリオと学園長のタイマンになってる気がするがまあいいだろう。
リオは一旦走って距離を取り、腰から杖を取り出した。おお、魔剣士を目指すだけあってさすが。そのまま走りながら詠唱を開始し、火球を複数放ちながら一緒に攻めていった。
学園長はミスリルの大剣でいとも簡単に飛んでくる火球を捌き、消していく。しかし一緒に攻めていたリオはいない。学園長の後ろへ回り込んでいた。
リオ、戦いのセンスは非常に高いな。リオは火球に身を隠しながら一緒に攻める。相手は火球に意識を集中させるが、自分はその間に相手の後ろに回り込むという作戦だろう。
でも、さすがに学園長には効かんよな。学園長はくるっと後ろを振り向き、リオの剣撃を大剣で受け止めた。
「な!?」
リオはこれでも止められ、目を丸くするが、すぐに次の魔法を詠唱するために高速で後ろに飛び退く。
だが、それは読まれていた。学園長も後退するリオに飛び込んでいった。学園長がそのまま大剣を軽く薙ぎ払おうとした瞬間。
俺はリオに向かって風魔法を飛ばして、軽く吹き飛ばした。そのおかげでリオは学園長からの攻撃を避けきったのだ。ナイスアシスト俺。リオは飛ばされるままクルクルと回転しながら、そのまま着地した。その瞬間、リオと学園長は同時に俺の方を見た。いやん恥ずかしい。
「あの位置からここまで正確に魔法を……?」
「あの少年、やりおる」
リオと学園長は驚いていた。まあ、多少遠いところからの狙撃は得意だし。それにあの女に近づきたくないし。俺はこのスタイルで行くで。
で、リオはすぐに切り替えて学園長に飛び込んでいった。
「よそ見はいけませんね」
そして再びリオと学園長の剣が交わり合った。まあまた危なくなったら適当にアシストすりゃいいさ。俺は気楽に戦いを眺めていた。しかし、リオは必死に俺に叫んできた。
「手を貸せ!チー!一緒に戦え!」
「嫌です」
「ふざけんな!」
いきなり何言われるかと思えば、さんざん俺を嫌がってたくせに手を貸せとは。俺はあくまでアシスト。お前を利用することはできるが、協力は無理だ。
状況はいつのまにかリオが押されていた。リオは何とか距離を取ろうと後ろに飛んでいったが、学園長はやはり逃がさない。学園長はそのまま走ってリオを追い詰める。
俺はとりあえず、思いついたことを実行してみる。俺は事前に水魔法の詠唱を済ませていた。あとは放出するだけ。リオを追いかける学園長。俺はちょうど狙いを定めて魔法を放った。
そう、学園長の踏み込んだ地面に。俺はその地面に氷を張った。学園長はその氷に足を滑らせ、体勢を前方に崩していた。リオは何が起きたのかすぐに理解し、今が好機と剣を学園長に振った。
しかし、驚くべき反射神経で目の前の地面に大剣を突き刺してリオの剣を受け止めた。学園長の顔には焦りが見えていた。危なかったのだろう、目の前のリオに完全に意識が向いていた。でも、後にいる俺には気づいていない。俺は氷を張った後すぐに学園長の後ろに息を殺しながら回り込んでいた。
俺は学園長の背中に剣をひょいッと振り払った。まあもちろん寸止めで。学園長は冷や汗をかきながら、宣言した。
「……負けだ。見事なコンビネーションだった」
え?いや、コンビネーションというか、普通にリオを利用しただけだし。
リオはというと、少し複雑な顔をしていた。ほとんど戦っていたのは自分なのに、とどめは俺だもんな。こいつのプライドを大きく傷つけたか?と思っていたが。
「随分と小細工は上手いようだが……認めてやろう。あなたのおかげで助けられたのは事実。まだ、本気を隠していそうだけど」
俺は助けた、いや、まあ助けたか。まあどうでもいいわ。意外にも素直な奴で少し驚きだったが別にリオほどの実力なら俺いなくても問題なかっただろ。
ていうか、多分学園長とタイマンだったら俺は負けているだろうな。あの速さと反射神経、パワー、どれをとっても、って当たり前だよな。相手はプロ、戦闘経験を何度も積んでる、その証にあの顔の傷。
ただ、いくらプロでも想定外のことには対応できずに氷で体勢を崩したな。プロにも俺の戦略は通じる。まあ、授業中とか寝てるときに適当に頭で思い浮かべたものだけどな。こういう妄想は好きだし、やっぱ異世界来たんだ、なんかこう、いろいろ魔法の使い方とか戦略とか試してみたいじゃん。
やはり、この世界で生き残るには色々な戦略や知恵は必要だってのはわかった。これもいつか戦うかもしれない神声教団にも通じる可能性はある。いろんな戦い方はメモしておこうか。
学園長は大剣を背中に戻し、俺たちに言った。
「見事だ。貴様たちは合格だ」
「……っ!ありがとうございます」
「え?あ、はい」
リオがびしっと学園長に礼をした。俺はぽかんと固まる。そんなすんなり合格?ていうかその場で?
「……意外そうな顔をしているな。魔剣士科の試験は別にそんなに難しくはない、ただ、お前の力を試したかっただけだ。
魔剣士科を受けるものは、合格にしている。剣も魔法もどちらも学びたい、そう言う者たちを拒否する権利など、こちらには無いからな」
学園長はそう言い残して、肩を回しながらゆっくりと歩いて踵を翻した。
……なんだ、そうだったのか。最初から俺たちは合格したようなもんだったのか。緊張して損した。俺は帰ろうとしたが、リオに後ろから声を掛けられる。
「待て。その、悪かったわ。最初にあんな態度取って。あなたの戦い方も参考になる。魔法を器用に扱うのね。やはり、あなたの存在は気になる……」
ああ、随分と俺を嫌ってたみたいだし。まあそのまま嫌っていいんで帰らせてもらっていっすか?ていうか、男女二人残されてさすがにリスクが高すぎる。俺は「え、あ、はい」とつぶやいてそのまんま超ダッシュで寮へと戻った。




