第61話 友人が落ち込んでると気まずいよね
試合は一瞬だった。審判の合図で試合が終了した。湧き上がる歓声の中、レッドは動かなかった。レッドはわき腹の痛みなども感じないほどに絶望し、その場に立ち尽くしていた。
駆け引きしてた時間よりも、実際に動いていた時間の方が短いくらい、一瞬の勝負だった。
ブルーはそんなレッドを見下すように、何かを言い残し、そのまま背を向けて戦場を後にした。なんて言っていたのかは分からない。そりゃこちとらめちゃくちゃ離れているからな。アニメのように観客席から聞こえるわけないさ。
レッドはしばらく立ち尽くしていたが、審判に戻るように指示され、正気を取り戻し、戻っていった。レッドのあの自信満々な性格だと、ここまで何もできずに終わったときの反動はでかい。
それにレッドは努力家だ。その分、”才能”と言う明確な現実の壁に直面し、絶望感はさらに増す。
「そ、その、残念だったね」
ユリアは戦場をとぼとぼと歩くレッドを見て、心配そうな表情で見つめ、つぶやく。ネクラは何も言わない。俺も何も言えない。
この後、レッドが俺たちのところに戻ってきたとき、どう接したらいいのか、分からないな。
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レッドには事前にどこの席に座っていたか伝えていたため、試合を終えたレッドは俺たちの元に戻って来た。レッドはいつものように笑っていたが、動揺や怒りなどの感情も混ざっているようだった。
「あっはは、俺負けちまったわ」
声は全然笑っていない。声に抑揚が無いというか。ユリアはすぐさまレッドに声をかけた。
「お疲れ、レッド君。す、すごかったよ?あんな速い動きできるなんて」
「そうか?ありがとな」
レッドは二っと笑い返す。俺とネクラは何も言わない。陰キャにとっては、かける言葉を見つけるのは難しい。俺は横目でチラッとレッドを見るくらい。しかし、横に座るレッドの拳はぐっと握りしめていた。本当は悔しいんだろう。まあそんな日もあるさ。上には上がいる。
その後、レッドの試合後も、剣技大会1年の部は続いた。ブルーにちょっとでも本気を出させたものは誰一人いなかった。ブルー以外の試合はなかなか白熱する試合もあったが、ブルーのいる試合はすべて、一瞬で終わっていた。
まあ俺は半分寝てたんだけどね。ちなみに、ブルーと当たる人に棄権する人もいた。マジでブルー、出禁にしようぜ(笑)
とはいえ、ブルーが相手じゃなければ、レッドも決勝までは行けたかもしれない感じだったな。ブルーの試合はまるで、小学生のゲームの大会に大人のプロが初心者狩りしてるかのような、そんな圧倒的な内容だった。
まあ、レッドはその小学生の中でも地元最強、的な立ち位置だろうか。それでもさすがにプロには敵わないしな。
そして最終的には1年の部ではブルーが優勝していた。最終決戦は1年首席のリオとチートのブルーだ。試合内容はまあ、すぐ終わった。レッド寄り善戦したわけでもなく。
勝利したブルーは特に喜んでいる素振りも一切見せず、ただ当然かのように無感情だった。やっぱり、ブルーがよくわからない。
優勝者にはトロフィーが貰えるのだが、ブルーはそれを持ってすぐに興味が無いかのように帰っていった。クールな奴。人は感情を捨てると強くなるのだろうか。いや、無情になる?
たまにちらちらレッドの様子を見ていたが、表面上は一緒に試合を見ていたのだが、やはり落ち着かない様子で、終始拳を握りしめていた。なんとな~く、めんどくさいことになりそうだなあとは思った。
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後日。昨日はレッドの試合を見る約束をしていたから見に行っていたが、今日は初日と同じように屋上でネクラと学園祭をサボっていた。これぞ青春。
しかし、屋上の扉をガンガンと叩く音が響く。だ、誰だ、先生にバレた?というか別にこの学園で無理やり参加しろというような先生はいない。特に担任のリーファは放任主義だしな。
てことは、う~ん、怪しい。俺とネクラを狙う暗殺者?すると、今度は少しリズムののったノックに変わった。この音……前にメイドが俺達の部屋を訪ねてきたときの……。
「ネクラ、多分、ユリアですね」
「分かるんすか?」
「まあ。あと、まあ、なんとな~く、予想ですけど、訪ねてきた理由分かるかも」
「……レッドのことすか」
「多分、恐らく、メイビー、知らんけど」
自信が無いので保険をめちゃくちゃかけておく。ネクラも何となく予想はついてたっぽい。俺とネクラは立ち上がり、屋上の扉へと向かう。そして扉をゆっくりと開けると、案の定、ユリアがいた。表情は不安げに目を泳がせていた。
「チー君……どうしよう。レッド君がどこにもいないって……」
「え~、あ~、はい」
「いや、はいじゃなくて……レッド君、今日登校してないらしくて、寮にもいないっぽくて、レッド君のクラスの人にもいろいろ聞かれたけど、私も分からなくて……」
少し早口で、ユリアも相当焦ってるっぽいなあ。
「ねえ、一緒に探してくれない?」
「いや、えっと、その」
「チー君の学園での初めての友達だよ?見捨てるの?」
「いや、その」
ユリアが少し俺に距離を詰めてくる。少し怒ってるな。ただ、そんなことを言われても。
「このクソ広い学園の中、どうやって探すんですか」
「え、ああ……でも心配だし……」
う~ん、レッドが行きそうな場所も思いつかんし。まあ俺だって昨日みたいな気まずい雰囲気のままはいやだ。いや、俺は毎日気まずいけど、余計に気まずくなるだろ。
始めて俺に学園で声かけてくれた人でもあるし、できるならいつものレッドに戻ってほしいとは思ってる。でも、だるいし見つかる可能性もなあ。あいつなら自分で立ち直りそうなんだけどなあ。
ユリアは俺に期待の目を向ける。はあ。めんどくさいお姫様だな。
「分かりました。その、えー、とりあえず数時間探してみて、いなかったら諦めましょう。えっと、明日になったらひょっこり出てくるかもしれない、かもしれないし……いや、やっぱないか。でも、いや、かもしれない……」
「もっと自信持ってよ!?……でも、チー君はやっぱり優しいよね。嫌とか厳しいと言いながら、誰かのために動いてくれるんだから。前だって、私の事慰めてくれたし」
「暇だからです」
「はいはい、そうだね」
……ユリアめ、完全に信じてないな。暇だからってのはマジだぞ。まあ、別にそれは良いとして、さて、どこにレッドは隠れているかな?
ユリアは引き続き学園内を捜索、ネクラも加わって探すことになる。俺は最近会得した、風魔法を緻密に操作して、空を飛んで空中から探すことにした。ただ、飛べる時間はせいぜい1分。そのたびにどこかに着地して精神力を戻す必要がある。集中力長くは持たんからな。
いつの間にか、昨日の剣技大会の会場の上空まで来ていた。おお、綺麗なドーム型だなあ、ひとまずドームの屋根に一旦着地する。
何となく屋根の下を見てみると、人影のない暗い路地裏っぽいところを見つける。そこで、ただ一人、ただ剣を見つめて俯き、動かない人間が壁に寄りかかっていた。
レッドだ。こんなところまで来ていたのか。
ひとまず、俺は風魔法を駆使してゆっくりと屋根から地面に降りていった。そのままレッドの目の前にスタっと足を地面につけると、レッドは一瞬こちらを見つめた。しかし、すぐに俯く。
うわあ、めっちゃ病んでる、めんどくさあ。とりあえず、こいつ帰さないとな。
「えっと、帰りましょうか」
「……」
しかし返事はなかった。




