第6話 ちょっとだけ少女を見直した、多分
剣が爆発した後、家に戻り、俺はベッドに腰を掛ける。体に刺さっている剣の破片を、痛みながらも取り除く。家にポーション無いか見てみるか。この世界は傷はポーションで治すのが基本だ。
にしても鼓動は収まらない。父さんにいつバレるかずっとビクビクしている。早くポーションを見つけて傷を隠さないと。でも壊れた剣はどう説明する?俺は辺りを見回して、父さんの部屋に向かう。
そこには、中古っぽい剣がいくつもあった。その中から、一つ、さっき父さんに貰った剣に似たものだけ取って、父さんが来ても、いつも通り振る舞えば……。
いつも俺は怒られないようにと、その場しのぎの行動をとる。バレなきゃそれでいいし。でも、そのたびに恐怖だ。正直、これもおどおどした性格を形作ったんじゃないかって思う。
すると、家の玄関の扉からノックが聞こえた瞬間、恐怖でさらに鼓動が速くなり、息遣いも荒くなってきた。クソ、ストレスで吐きそうだ。俺は忍び足でこっそりと、その剣を一旦あったところに戻す。
落ち着け、……父さんか?でも、ノックなんてしないで普通に帰ってくるはずだ。といことは、父さん以外の人。
誰だ?……まさか、俺を狙った殺人鬼?いや、考えすぎか。でも0じゃない……よな?
いざとなれば、戦闘に?俺は腰に予備の自作の杖を忍ばせ、詠唱の準備をしておく。いや、いざとなったらすぐ逃げればいい。
俺は恐る恐る、扉をゆっくりと開けた。そして俺は扉から、杖を向けて魔法を放とうとした。
「え」「きゃ!?」
しかし、扉の前にいたのは、俺にビビって両手を顔の前で覆っているユリアだった。ユリアの後ろには、短剣を持って戦闘態勢に入ったメイドがいた。
ユリアが顔を真っ赤にしながら、声を荒げた。
「チー君!なんでいきなり魔法放とうとするの!?」
……とりあえず俺は女と関わるのはリスクがでかくてごめんなので、俺はとりあえず扉をそっと閉めた。数秒の沈黙のあと、再び扉が開きそうになったので、俺は押し返す。
「なんで閉めたの!?ていうか力強くない!?」
……でもさすがにユリアの力は、体の鍛えた俺の力には勝てず、どんどん扉は閉まっていく。がちゃり。
よし。この家には誰も入れさせん。自宅警備員の名は伊達じゃないからな。俺は扉に背中を付けてホッと安堵する。
その瞬間、急にものすごい力で扉がこちら側に開いて、俺はそのまま扉に後ろから突き飛ばされて、床に顔面を強打する。
いってえなあ!っと言いたいのを、恥ずかしいから堪えつつ、俺は扉の方を向く。メイドはまるでゴミを見るかのような冷たい目で俺を見下ろしていた。
よくもユリア様を……とか思ってそう。ユリアも俺を見下ろして大声で聞いてくる。
「なんで閉めるの!」
「あ……えと、いや……そのマジで、えっと、すんません……」
俺は無意識に頭を下げる。謝ったからさっさと帰ってくれ。ユリアは急に謝る俺にたじろぐ。
「え?いやいやそんなに気にしなくていいんだよ!杖向けてきたのだって、チー君もきっと警戒してたんだよね?……はあ、にしても無事で良かった。さっきこの辺で爆発音が聞こえたから……」
ユリアは安心していた。さっきの爆発音が気になってきたんだろう。しかし、俺の身体を見下ろしたユリアは、急に俺の目の前にしゃがんできた。俺は「ひっ!」と軽く声を漏らし、すぐ目を逸らす。
「チー君!体傷だらけだけど大丈夫!?」
「え、あ、このくらい平気、なんで……」
「だめ!傷全部見せて!そういう無理して我慢するところ、お父様そっくり……」
やばい!半ば強制的に俺の身体に触れてこようとしたので、まずいと思い反射的にユリアから飛び退いた。
そんな俺を見て、ユリアがショックを受けていた。
「え?なんで逃げるの!?やっぱり私、嫌われてる?」
「社会的に危険を感じて……」
「なんで!?いいから早く来て!」
「嫌です。この後『無理やり触られた!』とか言ってくる」
「い、言わないから、バカ!」
俺は仕方なくユリアに近づき、ところどころ体に付いた傷を見せる。
ユリアは杖を取り出し、詠唱を始めた。俺の身体から緑色の光が現れる。
「え?」
すると、俺の傷はみるみると塞がっていき、やけどの跡も徐々に消えていった。これは、治癒魔法?すげえな。こんなの病院いらずじゃないか。これが二次元、ファンタジーってやつか。
「す、すごい……」
「そうでしょ?私の得意な魔法なの……ってそんな事よりも、何があったの?」
ユリアは心配そうに見つめてくる。
なぜこの女は俺をそこまで心配するのか。最近会ったばかりだというのに。しかも俺のことを”変な人”認定してきたくせに。
正直、社会的に終わるリスクを減らしたいのであまり関わりたくないのだが……。女子が泣いたらすぐ男子が泣かせた、男子が謝れみたいな風潮もある。
マジでだるいわ。
なんて思っていたら、ユリアの後ろから男が近づいてくる。見上げると、それは父さんだった。俺はビクンと肩を震わせた。
「チー、一体何があったんだ」
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一旦、父さんはユリアとメイドもリビングへ招き、みんなをソファに座らせる。父さんと一緒に母さんも帰ってきていた。母さんも俺をちらっと見ながらも、何も言わずに座る。
父さんは俺をまっすぐ見つめ、聞いてくる。
「改めて聞く。一体何があったんだ」
父さんは怒っているのか、今まで見たことないような、真面目な顔で俺を見てくる。みんなも俺を注目する。
う、注目されるのきつい……。視線が怖い……。くそ、言わなきゃいけないのか。「剣に杖を埋め込んだら爆発しましたー」、とか言えるか!恥ずかしすぎるわ!それに、俺が魔法をこっそり学んでることも、結局バレることになる。
俺は覚悟を決めて話すことにする。暴力なら、前世で慣れてるから……。多少殴られても、耐えてやるさ。俺は手を震わせながら、説明した。
「えっと、まず謝ります。ごめんなさい」
「何をだ?」
「その、父さんからもらった剣を、えっと……壊してしまいました。すいません。きっと、大切にしてた剣だったかもしれない剣を……えっと、これからは丁寧に扱います。ごめんなさい」
俺は目をつむり、殴られるのを覚悟する。しかし。
「……そうか。まあ、それに関しては心配するな。中古で買ったほとんど使わずじまいの剣だったから。剣はまだあるし、とにかく、お前が無事なら問題ない」
何も来ないどころか、俺の無事を心配してくれた?……やっぱ父さん、優しすぎるわ。前世の親とはえらい違いだ。父ってのは、こんなに優しいものなのか?
とは言え、父さんは眉をひそめて、庭を指さしながら聞いてくる。
「それで、お前は何をやらかしたんだ?どんな危ないことをした?庭のあの惨状はなんだ?」
う、一番聞かれたくないことを……クソ、嘘はつけねえ。言うしかねえな。
「えっと、その、剣に、杖を埋め込んで、その、魔法を放ったら、爆発しました」
「ああ、そうか……は?」
それを聞いた父さんの眉間が険しくなる。怒られるのも、殴られるのも、覚悟の上だ。いや、でも今更ながら、怖い。前世は母親に叩かれていたが、父さんは大の大人の男の力だ。しかも異世界だし、半端な痛みじゃすまなそうだ……。俺はさらに鼓動が加速する。
ユリアが何かを察したのか、慌てながらテーブルに身を乗り出す。
「チー君のお父さん、怒らないであげてください!確かに杖を剣に埋め込むなんて頭のおかしいことしてますけど、チー君は、頑張り屋で、私、ずっとチー君を見てましたけど、いろんなことを頑張ってて、その……」
ユリアは俺を庇ってくれるが、まだ地球で言えば、実質10歳くらいのユリアにはいい言葉が思いつかないんだろう。
あと、さりげなく俺の頭がおかしいって言ったな、事実だからいいけど。
ユリアはその後、何も言えずに黙ってうつむいてしまう。
必死に俺を庇おうと言葉を選んでくれて、ユリアって優しいんだなって思ってしまった。本当にそう思って言ってくれたのかはわからんが……少しだけ救われた。
俺も、人を疑い過ぎなのだろうか……こんな小さい子が、俺を嵌めようとするなんて、さすがに考えすぎか。
ちょっとだけユリアを見る目を変えた。
しかし問題は残っている。父さんは黙ったままだった。




