第58話 おサボりショッピング
後日。
俺はネクラと一緒に制服に着替え、王都にある魔法師専門の店に向かう。もちろん、学園祭の準備をサボりながらだ。
で、学園に行くわけでもないのに何で制服か?ファッションとかだるすぎるからだよ。何着ればいいんだよ。
まあ今世はイケメンだから、何を着ても似合うだろうが、チー牛の俺にファッションセンスなど皆無。前世は親に買ってもらった服しか着てなかった。
ブサイクが背伸びしておしゃれしてもバカにされる、というか実際似合わないのが現実だ。チー牛顔のやつがオシャレしてるの見たことあるけど、ごめん、正直ダサかった。マジで何をするにも、”誰がやるか”で決まるんだなって思い知った。
まあ、制服で出かけると、学園の生徒だと一瞬で分かってしまうし、サボってるってバレるのはあれだが、オシャレが分からない俺が変な格好してバカにされるよりマシだ。
「師匠、どこに行くか決まってるんすか?」
「いや、適当ですね」
「さすが師匠!」
店に関しては、事前に調べて行きたかったが、王都に詳しい人なんていないし、学園の誰かに聞くのもなんか嫌だったので、散歩がてら、王都を探し回ることにしていた。
しかし、校門を出ようとしたところで、邪魔ものが現れた。
「おい」
『ひっ!?』
俺達は後ろを振り向くと、そこには……えっと、誰だっけ、名前が思い出せないけど、あの時ブサを振った主席が俺達を睨んでいた。
「えっと、誰ですか?」
「リオだ!」
うわめっちゃ怒鳴られた。名前覚えられてなかったからかな……。
「で、どこへ行くつもり?」
「え、いや……えっと」
「え、あ、その……」
どこへと聞かれたが、俺もネクラもどもってしまう。それを見ていたリオがゆっくりと背中の鞘から剣をサーっと抜いていく。そして俺に向けた。
「チー、君はそれだけの才能が有りながら、なぜそれをイベントに生かさない。学園祭も立派な行事だ。真面目にやってくれ。さもないと、君を見限るぞ」
「あ、結構です。では」
いや別にお前みたいなプライドクソ高そうな人に失望されても誰も困らないんで。しかし、リオは剣を地面に付き、顔を曇らせ、プルプルと手を震わせて、明らかに怒りを露わにしていた。そして顔を上げて再び俺に剣を向けて来た。
「チー!私は君を全力で止める!力づくでもな!」
ええ……。嫌だわ、こんなところで。ていうか、学園内の決闘行為は禁止されてなかった?でも、首席様がこうやって喧嘩売ってきてるし……。
どれだけ学祭が地獄かてめえらに陰キャの気持ちなんてわからねえ。いいだろう。受けてたとう。正々堂々と、俺も剣をリオに向けた。
「ほう、君は剣士か。いいだろう、どんな剣技を見せてくれるかな!?来い!」
そして……剣先から圧縮した風魔法をリオの顔めがけてぶっ放した。リオは剣から魔法が出てくるなんて知る由もなく、不意を突かれて顔面に空気の塊を正面から食らった。
そしてリオは気を失って、後ろにそのまま倒れた。あっけなかったなあ。まあ俺が正々堂々やるわけないし。
「行きますか、ネクラ」
「はい!超かっこ良かったっす!」
どこがだよ。
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数分歩いていると、ようやく魔道具を売ってそうな店を見つけた。しかしここら辺は人が少ない。やっと見つけて嬉しい反面、不安になる。なんか、やばい人とかいないよな?
ただ、店構えも少しぼろく、年季の入った感じで、看板の文字も少しかすれている。不安だが、とりあえず、2人でその店に入る。ちなみに、魔法剣は服に隠して持ってきている。剣士なのに魔法師の店入ったら目立つじゃん。
「いらっしゃい」
あれ、人少ない。というかいない。それはそれでいいんだけど、なんか、やばい店入っちゃった?いや、どこにでもあるような小さな店なんだが。4,50代くらいのおっさん店主はカウンターで肘をつきながら、ボーっと俺たちのことを見ていた。
「こんな店に入ってくるとは珍しいな。って、学生?……学園はどうした?サボりか。まあいいや。坊主らは何をお探しで?」
珍しい?なんか、あれか?隠れた名店、的な?でも、周りを見ても、商品は少ない。棚に並ぶ杖は2~3本、アクセサリーも数えるほど。でも、なんか、安っぽさは無い。むしろ、見せびらかす気のない“通”向けって感じがする。
よくある鑑定スキルなんてものは無いから、物の良し悪しなど分からんが、見る限りだと、品質が良さそうなんだよな。
とりあえず、魔法師用の店で間違いないとは思うのだが……。もしかして、めっちゃ高いとか?高級店?こんな小さい店が?値段を見てもすごい高い、と言うわけでもない。
「……なんで無視する?」
「ひ!?すいません!」
「し、師匠、ビビり過ぎっす……」
いきなりキレたような口調で声をかけられて思わず謝ってしまった。ネクラもビビった俺にビビっていた。
無視してたわけではないんだけど……。もし痴漢とかに間違われて、反射で謝ったら社会的に終わりだ。気を付けなければ。
「ビビりすぎだぞ。……でも、その割に、実力は本物っぽいな」
実力?俺には前世の知識と魔法の予習で周りよりちょっと魔法が使えるだけで、実力はないはずだ。
「……あんた、さっきから全くしゃべらんけど、バカにしてんのか?」
「いや違います、えっと、すいません」
「まあいいや。で、何を探してる?客はほとんど来ないが、魔道具や杖の腕だけは自信あるぜ」
う~ん、まあネクラ以外に他に客もいないし、しゃべって目立つこともない。まずは聞いてみよう。
「あの、なんか、素手で魔法を発動できるような、手袋的な、なにか、はめるものって、ありますか?」
「素手?いや、普通は杖を使うんじゃないのか?」
「あの、剣を振りながら魔法を使いたいので」
「は?……ああ、あんた魔剣士か?久しぶりに見たな。その歳で?嘘じゃねえよな?」
「あ、はい」
「ちょっと待ってろ」
そう言って店主は店の奥に籠っていった。
「ほらよ」
店主は奥から戻ってくると、俺に何かを投げつけてきた。俺はそれをキャッチする。おい、もし落としたらどうすんだ!商品を投げつけんな!とマジレスしてやりたかったがやめた。怖いし。
えっと、これは……深層の水のように深い青色の指輪のような小さいリングだ。透き通っていて綺麗だ。
「それはミスリルをあしらったリングだ。知ってるかもしれんが、ミスリルは一番魔素を通しやすい物質だ。それを指にはめれば、素手でも魔法を発動できるだろうな」
なるほど。リングなら邪魔にならないし、剣も簡単に握れるな。いや待て、ミスリルって言ったか?これめちゃくちゃたけえんじゃねえのか?
やばい、払えなかったらサングラスの怖い人が出てきてボコられて出禁になっちまう……。
不安になって頭を抱える俺にかまわず、店主はリングについての説明を続ける。
「このリングは以前魔剣士用に作った魔道具だ。それの予備だな。確かに、杖も必要としないし、魔剣士にとっては便利なものだろうな。ただ、このリングを使って魔法を発動するには、緻密な操作が必要で、少々難しくてな。ある程度の練習は必要だ」
以前にも魔剣士がこの店に来たことがあったらしい。なるほど、扱いが難しい、というのか。まあそこは練習って感じだな。
「あの、値段は……」
「ああ、こいつは普通は100万ウェンだな」
なんだと!?まあ貴重っぽいしそれくらいは値は張るだろう。ちなみにウェンってのは、日本で言うところの“円”みたいなもん。今手持ちには2万しかない。100万ウェンなんて、この世界でも1年働いてやっと手に入るくらいの大金だ。
まあユリアに言えば簡単に出してくれそうだが……
「と言ったところだが、まああんたは学生だし、ひとまず1万ウェン払ってくれ。まあ後々、ギルドにでも加入して出世払いで金稼いで返していってくれ。どうせこのリングもだいぶ古くて廃品になるとこだったしな」
な、なんだと?なんて優しい店主さんなんだ。つまり、卒業してギルドで活動するまで待ってくれると。学生の俺のために、気を利かせてくれるなんて……。優しい人間というのもいるんだな。
俺は店主に1万ウェンを渡す。店主はそれを棚にしまいながら、俺に話しかけてくる。
「ああ、それともう一つ。俺は静かに店をやってるが、まあ腕だけは自信ある。だから、これからもひいきにしてくれると助かる。この王都には有名な大きい魔道具屋があるが、そこに客を取られまくってんだよなあ」
「あ、はい」
「あ、魔法師の友人がいたら勧めてくれよ?」
「ア、ハイ」
残念ながら俺に友人は……。
ネクラが羨ましそうにそのリングを見ていた。……欲しいのか?ひとまず俺はネクラに軽いアドバイスをしてみる。
「と、とりあえず、軽い上質な杖くらいは買ってみては?まずは魔法に慣れてみないと……」
「な、なるほど。じゃあ、この杖にしてみるっす」
ネクラは棚の隅にぽつんと置かれていた杖を手に取る。値段は10万ウェンと少々高い。それだけ品質が良いのだろう。
「ほう、良いのを選んだな。これはマリョクコウを使って作られた杖だ。丈夫で軽いし、マリョクボクやマリョクセキより魔素の通りもいいぞ。ミスリルほどではないがな」
ネクラは急に話しかけられ、たじろぐも、それを店主に持って行った。
「あ、えと、これ、お願いします」
「10万ウェンだ」
ネクラは普通に財布から大金を出す。なんでそんなに持ってるん?あ、一応ネクラって暗殺の仕事してるんだよな?まあ金持ってても不思議でもないか。
「まいど。それじゃあな」
そして、店主は手をひらひらさせながら、店の奥に戻っていった。これは良い買い物をした。いい店を見つけられたな。これからも何かあれば行ってみよう。
俺は左手にリングをはめる。ここで魔法はさすがにまずいので、ひとまず今日は帰ろう。




