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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第1章 転生編

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第5話 調子に乗ったら爆発した




 俺は父が仕事に出かけたのを見計い、部屋に戻って初級の魔法教本を開く。


 軽くこの世界の魔法について読み返す。魔法には火、水、土、風、光の5属性が存在する。さらに、レベルは生活に使う程度が初級、戦闘で使われる中級、災害レベルの威力が上級だ。さらに上の超級もあるらしいが、ひとまず自己防衛には上級までで十分やろ。


 もちろん詠唱は必須だ。そして魔法発動には大気中や体内に存在する魔素を必要とする。まあこれが魔法の基本って感じやな。


 そして俺が知りたい杖については、気づかずに読み飛ばしていたのか、最初のほうにちゃんと書かれていた。


 杖は魔素を効率的に引き出すための道具で、その効果は素材に依存するらしい。杖に、少しの魔素でも伝えれば、数倍もの魔素で発現できるようだ。


 その素材の1つに『マリョクボク』と呼ばれるものがあり、意外にも身近な場所に生えているらしい。てか名前そのままやないかい。


 高級なものなら、さらに魔素を通しやすくする鉱石『マリョクセキ』が埋められている杖もある。扱いはその分難しく、制御が効かないことの方が多い。


 ただし使いこなせば上級魔法の制御もお手の物だ。


 なるほどなあ。いくら俺の魔素保有量が多くても、素手じゃ最大限生かせないのか。まずは魔法をどんどん覚えないとだし、杖を作らないと進まない。


 ひとまず、俺は外に出て、そこらへんに生えてるマリョクボクをこっそり採取してみる。見た目はただの木なのだが、本で実物は見たから合ってるはず。


 その後は庭で、錬成を駆使して、本に書かれている見本通りに小さい杖を作ってみた。暇つぶしにちまちま練習してた錬成がここで役に立つとは。


 錬成は簡単に言えば、物質の形や重さを変えたり、まだできないけど、素材そのものを別の物質に変化をさせることだね。形を変えるだけなら、フィギュア作りのおかげでかなり得意だ。


 ちなみに、先端をとがらせることで魔素が収束しやすくなるようだ。うん。杖っぽい。あとは魔法が発現するかどうかだな。俺はその杖を持ってその辺の公園に出かける。


 試しに、魔法教本を片手に、その辺に生えてる木に向かって、中級魔法のアイスニードルという大きなつららを作り出す魔法を試してみる。


 杖を握る手に少し汗がにじむ。深呼吸を一つして、教本を片手に、詠唱を唱えた。


 杖の先端に魔素が集中していく。今まで感じたことのない、ビリビリとした感覚が手を伝う。


 すると、普段は発現すらしなかった氷塊が、杖を介することで初めて発現できた。杖の先に直径30㎝ほどのつららが徐々に形作られていく。すげえな。


 ちなみに、詠唱の発音も難しいのだが、やはり、想像力、イメージ力も必要で、なんとなくでも水や氷の構造を理解しないとできない。


 どうやら、それは問題なかったようだ。さすが俺の妄想力。発現したつららを、追加の詠唱で木に向けて発射する。次の瞬間、氷塊が空気を切り裂きながら、一直線に大木へ飛んでいき、ズドン!!と深く刺さった。


 ……やっぱすげえこれ!


 かなりの威力に驚く。これが人に刺さったらと思うと……。中級でこれって、上級になったらどうなるんだよ……マジで殺戮マシーンじゃん……。


 にしても、やっぱり魔法って、集中力と精神力をガッツリ使うし、詠唱にも時間がかかる。


 実際に使ってみて、それを身をもって実感した。なるほど、魔剣士が最強なのも頷ける。


 中級を発動できたのはいいが、やはり、杖と剣を同時に持つことは難しいな。片手に剣、片手に盾なら、まあ、勇者みたいで分かるんだけど……。


 剣士のほとんどは魔法は初級まで覚えて日常生活に支障がない程度までしか覚えない。魔法師はそもそも剣技を覚えない。


 剣と魔法、両方覚えてる人は意外と多い。けど、実戦で“同時に”使う人はほぼいない。装備を切り替えて場面ごとに対応するくらいが限界だ。


 かなりの大金持ちなら、魔素を超効率で通す金属、ミスリルってのがあって、それで剣を作る。ミスリル剣なら、剣そのものを杖みたいに魔素通して戦える。


 どちらにしても、動き回りながら詠唱に集中するのは達人技だ。だからこそ、魔剣士はレアなんだ。


 俺は家に戻ってベッドで横になりながらずっと考えた。なにか、剣を振りながら、魔法を放てるいい方法はないか。


 ゴロゴロしながらふと思った。……ん? 剣に杖、埋め込めばよくね?


 俺は暇で錬成して遊んでたから、無駄に錬成の練度も高いし、自分で作れちゃうのでは?剣に埋め込まれた杖を通して、魔法を発動出来ればいいんじゃね?


 翌日、仕事に行く直前の父さんに、いらない余った剣がないかを聞いてみた。


「ああ、何本かあるが、どうした?」


「いや、実際の剣で素振りをしてみたくて」


「へえ、向上心あるじゃねえか。なのにいつも自信なさそうにしてんのが不思議だな……ほらよ」


 父さんはそう言うと、父さんの部屋の隅に置かれた古びた剣をポイと投げ渡される。俺は両手でキャッチしたが、意外にも重くて体勢を崩しかける。


「それじゃあな」とそのまま父さんは仕事に出かけた。ちなみに、父さんの仕事はソロの冒険者だ。オンターマ領の依頼専門らしいが。一応Sランクらしい。剣聖だしな。


 俺は玄関のドアが閉まるのを確認する。


「よし」


 俺はさっそく部屋に引きこもり、剣を分解した。


 う~ん、別に隠れてすることでもないんだけどな。前世ではゲーム禁止だったから、隠れて何度もゲームをやっていた記憶を思い出すわ。バレたら没収されたり、最悪ぶっ壊された。


 意味わからなくない?お前が俺に買ってくれたゲームを自分で壊して、「お前が悪い」って。親ってどんだけ自分勝手なん?嫌なこと思い出した。


 隠れ癖が前世から抜けねえなあってだけよ。


 さて、剣の分解作業、かなり緻密な作業だが、無駄に練度の上がった俺の錬成魔法なら意外といけるものだ。


 鉄をこのまま錬成で形を変えるのは難しいので、火魔法で熱を極度に収束させて錬成と組合せ、鉄を溶かしながら分解していく。開けた穴に杖が入るくらいの大きさに調整し、杖を埋め込む作業をする。


 そして鉄をまた融解しながら錬成で、元の形に整えていく。


「できた」


 見た目はただの剣だが、中には自作の杖が仕込まれている俺オリジナルの剣だ。


 剣が多少重いのはトレーニングを続ければいいとして、まあ振れないほどじゃない。


 さっそく、俺は外に出て実験する。


 ちょうど錬成と一緒に使っていた、火魔法を使いたい気分だったので、そんなに草木の無い場所に移動し、初級のファイヤボールを詠唱する。初級だから魔法教本が無くても暗記している。


 そして発動するための属性、発射速度、威力、位置を詠唱を終えたそのときだった。剣が魔法を発動する杖のように光り出す。


 おお!成功か?


 カッ!!! ドゴォオオオオオン!!!


 次の瞬間、俺は爆風で軽く吹き飛ばされていた。恐る恐る手元を見ると……そこには、無残に砕け散った剣の柄だけが握られていた。細かい破片が俺の身体のあちこちに刺さり、血が少しにじむ。うわ、いてぇ……。


 痛いから泣きたいし叫びたいけど、目立ちたくないという意思が勝ってしまい、何とか歯を食いしばり痛みに耐える。


 俺は柄の部分だけになった父さんの剣を見て、少し悲しくなる。


 マジでどうやって言い訳しよう……。「これは鍛錬の一環で」とか通用するか?いや無理だな。前世では何かやらかせば、問答無用ですぐ怒られて、叩かれた。前世のトラウマがフラッシュバックして、恐怖で震えが止まらない。また、怒られる。


 やはりこんな実験やらなければよかった……。てか、せめて火魔法を使わなきゃよかったんじゃないのか?


 いつもやってから後悔するんだ、俺は。行動力があることが良いことみたいに言うが、時と場合によるだろ?俺はバカだ、クソが。


 しばらくすると、爆発音を聞きつけて近所の人が様子を見に来て、俺は視線が怖くて逃げるように家に戻っていった。




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