第49話 待ちに待った夏休み!まあ拘束されんだけど
ついに、待ちに待った夏休みが来た!
とテンション高いのは良いのだが、別にやることあるわけじゃないし、前世ならゲームやり放題だぜー!オラワクワクすっぞ!ってうれしかったけど、この世界にゲームなどない。楽しい娯楽があるわけでもない。魔法は楽しいけど、それはなんか違うやん。
まあ、学園が休みで、人と会わないってだけですげえ心が軽くなるんだけどさ。無意識なストレスもなく、やっとのんびりできる。
どうしよう、実家に帰ってダラダラするかなあ、でも移動がめんどくさいしなあ……。まあ今の俺なら馬車が無くても、風魔法の加速を利用して何時間もかけずに、実家に帰ることはできるけど……。
すると、隣のユリアの部屋の扉から、コンコンとノックが聞こえる。扉を開けてユリアを入れてやると、ユリアは少し笑顔を含みながら話し始める。
「チー君」
「え、はい」
「私ね?チー君に紹介したい人がいるの」
「……彼氏っすか?」
「違うよ!」
マジで焦った。こういうのって彼氏ができた時に父親に言うセリフだろ。てか、こんな気持ちになるんだな……。違うようで安心したが。
……なんで安心してんだ、別にユリアに彼氏ができたっていいのに。俺じゃ釣り合わねえんだから。
「せっかくの夏休みだから、お父様とお母様にチー君を紹介しようと思ってるの」
「やめてください」
「なんで!?」
おま、それ絶対めんどくさいことになるやつ。そんな権力持ってるやつに関わるとか絶対嫌にきまってんだろ。そういえば、ユリアって王族なんだよな……。
「それでね、今日、帰ろうと思うんだけど……やっぱり嫌?」
「その、正直嫌っす、怖いし……」
「何が怖いのかなあ……。そもそも、私の騎士なんだから、付いてきてもらわないと困るもん!」
「え、あ、いや、はあ……」
くそ。騎士ってめんどいな。ずっとユリアに付きっきりじゃないとだめなのか。これ、給料発生してないのか?
今日までで100万以上稼いでてもおかしくないぞ。ネクラやライの暗殺事件だって俺がいなかったらユリアは確実に殺されてたからな?
ていうか、もうすでに私服で準備を終えているユリアが笑顔で俺に言った。
「じゃあチー君、行こっか!」
「待って速い速い、話が追い付かないですから」
「もうメイドも呼んでるし」
「はい?」
すると、部屋をノックする音が聞こえる。独特なリズムだ。怪しい。ユリアはそれに気づいて、扉に向かって声をかけた。
「あ、メイド!入っ――もご!?」
やめろ!俺は速攻手袋をして、ユリアの口を押さえる。まじでさ、もしノックした奴がメイドじゃなかったらどうすんだよ……。
なんでこの子はこんなにも警戒心が無いのか…。最初は俺ほどではないにしてもおどおどしてたのに……。俺がいるからって安心しきらないで欲しい。
「もしメイドじゃなかったらどうするんですか。俺がドア開けるんで黙っててもらえます?」
「もう、警戒しすぎ。このノックのリズムはメイドの合図だよ。ちゃんと決めてあるんだから」
「もしその合図を知っている神声教団だったら?」
「チー君……もう慣れたけどさすがに慎重すぎるよ」
ユリアがため息をついて呆れている。てか、ちゃっかりユリアの口元触っちゃったけど、後で訴えられたりしないよな?手袋したとは言え……。念押ししておくか?
「ユリア」
「はい」
「さっきユリアの口抑えちゃったこと絶対――」
「訴えないって!」
先に言われたか。分かってんじゃん。とりあえず、俺は杖を袖の中に隠して、詠唱を途中まで完了させつつ、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの前には……ちゃんとメイドがいた。で、この人は本物のメイドだよな?メタ〇ンじゃないよな?
「お久しぶりです。チー様。ユリア様」
「あ、はい」
「メイド!久しぶりだね!」
まあ、この眼鏡無表情で何考えているか分かんないミステリアスな感じ、ちゃんとメイドだろう。あれ?じゃあさ……。
「メイドいるんなら、別に俺行かなくてよくね?メイドって強いんすよね」
「チー君!そうじゃないの!」
「だってさっき騎士だからついて来てほしいって」
「最初に言ったけどチー君に紹介したいって言ってるの!お父様達も不安でしょ?私の騎士がどんな人なのか分からないと!」
ええ……。嫌だって言ってんのに。こういう自己紹介イベントは緊張してどうにもならんってのに。
不在でありますように不在でありますように……。
「チー君、何呟いてるの?」
「なんでもないっす」
ということで、強制的にユリアの両親に会いに行くことになった。てか、王族の姫ってことは、ユリアの父は王ってことだよな?……は?
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ユリアは両親に会えるのが嬉しいのか、終始ワクワク顔。メイドもなぜかちょっと上機嫌。久しぶりにユリアに会えたからだろうか。で、明らかに一人だけ負のオーラ撒き散らしてるのが俺っていう地獄絵図。
俺とユリアとメイド。明るいユリアたち陽のオーラと、俺のどす黒い負のオーラが混ざり合って、謎に周りの視線が痛い。地味に目立つので自然と周りが道を開けてくれる。なんか複雑だ。
学園と城の距離はそんなに遠くないのですぐに着いたのだが。そういえば、城への橋がずっと上がりっぱなしなんだよな。
入学の時から見ていたが。この橋が下りたところをみたのは一度もない。やっぱり神声教団を警戒しているんだろうか。
初めて間近で城を見るが、まさにRPGとかに出てくるような城そのものって感じで、天高くそびえたっている。まあさすがに雲を突き抜けるほどではないけど。すごい!とは感じるけど、こういう場所に住んでみたいとは思わない。広すぎるもん。トイレとかすぐいけないだろ。人探すのも苦労しそう。最低限自分の部屋だけでも過ごせるわ。
で、それは良いとして、どうやって入るのだろうか。
「チー君、メイドにちゃんとつかまってて」
「え?」
「行きますよ。チー様、ユリア様」
メイドは俺とユリアの手を掴んでそのまま、高く飛んだ。驚異的な身体能力だ。俺は内臓が逆立ちしそうな謎の浮遊感に襲われた。
あれだ、ジェットコースターに乗った時みたいな。いきなり飛ぶんじゃねえよ!
と、あっという間に城の扉の前にスタッと着地した。
てか、マジでつええんだな、メイドって。Aランク冒険者相当なんだっけ。というか、意外にも肉弾戦メインなのか。
そして正門の扉に向かう、のではなく、ユリアたちは城を右に外周していく。しばらく沿って歩いて行くと、人ひとり入れるくらいの普通の扉が見つかる。秘密の裏口ってことか?
メイドは慎重にそのドアを開いて、城の中に恐る恐る入っていく。メイドに続いて、俺とユリアも城の中に入る。だが、城の廊下は暗く、なんか空気が重いというか、人の気配がほとんどない
ユリアは久しぶりだからか、気にせず感想を漏らす。
「懐かしいなあ。何年振りかなあ。8歳くらいの時に村に避難してきたから」
「シッ。ユリア様声を抑えて」
メイドは俺と同じように、重い空気を感じるのか、一応警戒しながら進んでいる。俺はとりあえずユリアとメイドの後を追う。しばらく広い城内の広い廊下を歩いて行く。
俺は心の中で両親への挨拶をイメトレして無駄に緊張している。だ、大丈夫だ、早口で「チーオンターマです」って言って終わればいい。クールキャラを演じろ。でも、「たったそれだけか?不敬だ!」なんて言われたら?「声が小さい!不敬だ!」って言われるかも?ぶるぶる。くっそ、こんな緊張することになるのはユリアのせいだ、クソが。
「あまりにも静かすぎますね」
「うん、ちょっと変かも。誰にも会ってないし……」
俺が緊張で震えている隣で、メイドとユリアが疑問を呟く。確かに、ここまで誰にも会っていない。俺たちの小さな足音も、廊下内に反響して響いている。これは……両親不在もあり得るぞ?ラッキー。
2階に上がり、しばらく歩くと、ユリアは少し大きな扉の前に立つ。懐かしそうに、ぽつりとつぶやく。
「ここ、私の部屋だったんだ」
「あ、はい」
「懐かしいけど、まずはお父様とお母様に会いたいから、後で部屋に案内するね」
「え、あ、はい」
じょ、女子の部屋に?しかも、姫の?めちゃくちゃ緊張するだろ。絶対にどこかで逃げなければ。
そしてまた奥へと歩いて行くと、また大きな扉の前に立つ。
「ここがお父様の部屋。お母様も一緒にいることが多かったね」
「あ、はい」
「じゃあ開けるね?」
ユリアが扉に手を掛けようとするが、メイドが制止する。
「ここは私が」
代わりにメイドが扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。




