第48話 少女の本音がぐさりと刺さる
最近悩みがある。
いつの間にか、俺とユリアが付き合ってる、みたいな噂が流れ始めた。いやまあ、入学当初からそんな感じで見られてたけど、確信に変わっていったような。
俺たちはいつも隣の席に座って、しかも俺の要望で目立たない端っこの席にいつも着いている。それがまるで邪魔するなと思われているのか、気を遣っているのか、ま~じで俺たちに誰も関わらない。でも噂は聞こえるのだ。
「あいつら今日も一緒の席だ」
「ラブラブだねえ」
「俺にはユリアがあの男にちょっかいかけてるようにしか見えんが」
「二人とも容姿は良いしねえ、お似合いだわ」
クラスメイトは、関わってはこないが、そういう目で見てくる。俺には、それが耐えられないのだ。見られること自体、俺には苦痛でしかない、今はイケメンだと分かっていてもだ。
そもそも、別に俺は毎日ユリアの隣にいる必要なくない?嫌なんだよな、なんか、冷やかされてるような感じ。恥ずかしいし。別に授業だってユリアが隣にいなくても受けられるし、同じクラスにはネクラもいる。
俺もなんとかしてクラスメイトの誤解を解きたいのだが、教室で大声で「俺たちは付き合ってない」なんて言えるわけもなく……。というか、いつの間にか、ユリアと行動を共にすることがルーティンみたいになっているから、今更感もあるけど。
でも、今からそれをやめても遅くないよな?ユリアだって、こんな自己肯定感の欠片もない、話もできないつまんないし、授業中に絵描いたり寝たりしてる不真面目な奴と一緒にいても楽しくないだろ。
俺は意を決して立ち上がる。隣で座っていたユリアが俺をぽかんとして見上げた。
「チー君?どうしたの?トイレ?」
「……いや、恥ずかしいのでしばらく離れようかと」
「……え?なにが?」
「俺達、えっと、クラスメイトから付き合ってるだの変な噂ばっかり立ってるから、その、流石にもう耐えられませんわ」
「ええ……いや、まあ誤解は解きたいけど……でも、私が不安なんだけど」
「大丈夫です」
「あ、待って」
俺はユリアの制止を待たずにユリアから離れた。これを続ければ、俺たちが付き合ってるなんて噂はいつの間にか消えるだろう。
とりあえずどこの席に座ろうか……教室を見回す。俺たちいつもは廊下側の隅の席に座っていたが、なら、今回は窓側の隅っこの席に。
……あれ?あそこにいるのって、ブサじゃね?同じクラスだったのか。ちなみに、ブサの席の後ろにはネクラもいる。ネクラは別に毎日俺とユリアの席にお邪魔してるわけではないからな。今日はいつもの窓側の席のようだ。
とりあえず俺はそこにお邪魔させてもらおうと、ブサの隣に座った。すると、ブサは不機嫌そうな顔をして早速毒を吐いてくる。
「……なんですかリア充さん」
「いや、あの、俺リア充じゃないです」
「今思い出したけど、あの美少女といつも一緒にいたよね、チーって。イケメンでしかも彼女持ちとか俺の事バカにしてます?」
「あの……だから、付き合ってないです」
う~ん、これはめんどくさい、人のこと言えないけど、めんどくさい。でもこういう性格になってしまうのも環境や遺伝子のせいだから、仕方ないよなとも思う。だから俺は別にブサを嫌いにはならん。とりあえず俺はちゃんと説明をしようと試みた。
「俺とユリアは、えっと、ブサだから信頼して言いますけど、絶対に他言はしないでください。ただの姫と騎士の関係です。その、だから、付き合うなんてこと天地がひっくり返ってもあり得ない」
「お、俺を信頼って……そんな大事なことを。ほんと変な奴」
ブサは何とか信じてくれたようで、でもちょっと照れたように目を逸らし窓の方を見る。何となくわかる。顔や能力が低いせいで、誰からも信頼もされず、誰も信頼してこなかったブサにとっては、少し嬉しい言葉なのだろう。
俺はちらっと元居たユリアの席の方を見る。おや、いつの間にかユリアの周りには女子グループが集まっていた。ユリアは嫌そうな顔をすることなく、楽しそうに話している。へえ、いいじゃん。ユリア、俺やレッド以外の友達もできて。
どんな話してるのか少し気になって、精神統一もかねて良~く耳を澄ませてみた。
「ユリアさあ、チーって人と毎日一緒にいるよね!」
「うん、幼馴染で友達なんだ」
「いやいや、実際付き合ってるんでしょ?」
「ねえ、彼のどこが好きになったの?確かにかっこいいもんね、背も高いし」
ほお、女子から見ても俺はやはりイケメンな方なのか。だからと言って別に自己肯定感が上がるわけじゃないが……。まあでも、チー牛だった前世に比べればかなり気は楽だよな。この性格さえ引き継がなければ。
で、ユリアはというと……
「付き合ってないって!みんな勘違いしてるけど、ただの幼馴染だから!」
けっこう必死な顔で否定してた。
「ほんとかなあ?好きでもない男子と毎日一緒にいる?」
「それは……言えない事情があるから……それに、チー君って、その……私も引くほど自己肯定感低くて、そういう感情あんまり湧かないんだけど……」
俺の心にユリアの言葉がグサグサと次々に貫いて行った。うん。自分でも分かってた。いくら顔パスできても、俺ほど拗らせてる人間を好きになるのはよほど変な奴しかいない。
でもまあ、顔という第一印象すら通過できないチー牛時代に比べたら、ほんとに恵まれてるとは思うけどな。もし俺が今世もチー牛だったら、ユリアと話すことも無かったと思う。
ユリアは横髪をいじりながら、恥ずかしそうに続けて答えた。
「でも、なんかほっとけないんだよね。チー君の事」
「それってなんだかんだ気になってんじゃない?」
「ちがうもん!」
「ユリア照れてる~かわいい」
ほっとけない……か。まあユリアの性格見れば、お節介好きというか、世話好きというか、まあそりゃほっとけないかとは思う。はあ、まあこれ以上聞いててもあれだし。
とりあえずユリアの本音的には、俺のことは幼馴染の友達であり、あくまで騎士と姫という関係で繋がれていて、本来は俺みたいな性格はめんどくさいけど、騎士として守ってもらっている罪悪感からほっとけない。
まあ俺の推測も混じってるが、そんなところだろう。別にまあいいさ。俺は一生彼女なんかできない。この拗らせが治らない限り、俺の性格が治らない限り。まあ、顔は良いから一時的な関係は持てるかもしれんけど。
隣にいたブサがちょっといたずらっぽい顔で俺に声をかけて来た。
「な~に女子の方みてんすか?」
「いや、別に」
「そういえば、ユリアとは付き合ってないって言ってたよね」
「はい」
「じゃあ俺が貰っていいんすか?なんてね……ひっ!?」
俺はそれを言われた瞬間、心の底から、謎のとてつもない怒りに支配されて、ついブサを威圧感で睨んでしまった。ブサは顔を引きつらせ、ガタっと椅子ごと後ずさりした。
ユリアはお前のもんじゃ……と思ったところで冷静になる。
別に誰のものでもないし、ここまで俺がキレる意味も分からん。嫉妬?まあ嫉妬だとしても、俺がユリアの相手がだれであろうと文句言う資格はない。俺はユリアのことは人として好きではあるけど、やっぱりまだ信頼できないところも多い。
はあ、俺ってチー牛に生まれた時点で、転生したとしても人生詰んでるじゃん。あああだりい。
と、今まで黙っていた後ろのネクラが、俺の背中をツンツンとつついてくる。
「あの、護衛対象から離れるのは良くないんじゃないすか?神声教団はもうどこに潜んでいてもおかしくないっすよ。最近教師の一人が神声教団のスパイで捕まったらしいっすよ?生徒に紛れててもおかしくないっす」
「え、まじですか?」
「マジっす」
う~ん、それなら確かにユリアから離れない方がいい気はするけど、付き合ってるって思われるのはやっぱり……。
ああもう、どうでもいいわ。何があっても否定し続ければいいわ。
「分かりました。じゃあネクラも付いてきてくれません?」
「え?了解っす!師匠についてくっす!」
ネクラは顔を輝かせて椅子からザッと立ち上がった。俺はブサの方も一応聞いてみた。
「ブサは来ますか?」
「嫌です。俺が行っても、どうせリオさんの時みたいにきもがられるんで」
「うう……わかりました」
可哀そうすぎて涙が出てくる……。俺も人と関わるのは最小限にしてたよ、行動力のあるブサがこの決断は、流石にあの告白イベントは堪えたっぽいなあ。まあユリアはブサをきもがるなんてことはないと思うけど、まあ人間心の中ではどう思ってるかなんてわからんし。しょうがないけど辛いわ。
結局俺は、ネクラと一緒にユリアの席に戻って、一緒に授業を受けるのだった。




