第42話 俺の日常に溶け込む訪問者
数日後。
今日も屋上で、皆で昼飯を食う。空は青く透き通っていて、昼飯日和と言ったところなのだが……ライはいつの間にか、俺たちの屋上での昼飯にも付いてくるようになっていた。
ライはレッドと同じクラスだったらしく、ライの真面目で陽気な性格を見てなのか、レッドに気に入られていたのだ。よくわからん。陽キャ同士で話が合うようだ。レッドは楽しそうに俺たちに話す。
「こいつ、すげえ根性あんだよ、剣も魔法もからっきしなんだけどさ、人一倍努力しててすげえんだよ。俺も見習わなきゃな」
ライは頬を指先でかきながら、少し照れていた。チッ、ちょっとイラって来るな。ライは照れながらもわざとらしそうに話す。
「そんなことないよ、僕はできることをしているだけだ。みんなに追いつけなくても、きっと努力の過程に何かを掴めると信じてる」
「うわ、くっさ」
あ、やべ。俺は無意識のうちに、つい思ったことが口に出てしまった。みんなの視線は俺を貫く。ぐは
「え?」
「変なにおいする?」
ライが不思議そうな顔で俺を見つめて一言だけつぶやき、ユリアは眉をひそめながら周りのにおいを嗅ぎ始めた。
「いや、なんでもないで.す」
いやだって、セリフがクサすぎて気持ち悪くなったんだもん!気持ち悪すぎんだろ!アニメでもそんなセリフ見たら気持ち悪くて嫌いになるわ!
なに、才能ないのに努力する俺かっこいいって思ってる?ああ、やっぱ俺ライの事嫌いだわ。顔も良いし性格も良いし努力信者っぽいし。
ユリアは俺のこと等気にせず、ライのことを褒める。
「私もライ君のことかっこいいと思うよ?できなくても諦めずにやりぬこうとするところ」
「そうかい?君みたいな可愛い子に言われると照れるな」
ライは平気でかわいいだのなんだの言うがクサすぎて頭腐ってんのか?こいつ女たらしか?
レッドはそんなライのことをからかう。
「おいおい、お前ユリアの事口説いてんのか?」
「そうじゃないさ、本当の事さ。可愛いだろ?」
キッショ。無自覚な女たらしかよ。まあユリアが可愛いのは否定しない。肝心のユリアはというと、可愛いなんてこと言われ慣れていないのか、「そんなことないし」と呟きながら、頬を赤くして髪をもじもじといじっていた。チッ。
いつの間にか、ライはみんなとすっかり打ち解けていた。逆に、俺とネクラの陰キャ組2人は取り残されていた。ネクラは俺にひそひそと声をかけてくる。
「師匠、なんか胡散臭くないすか?あいつ」
「え?ああ、ネクラもですか」
俺はネクラも俺と同じようなことを思っていたことに意外で、一瞬目を丸くする。さすが陰キャ同士は気が合う。
「はい。いきなり現れて、すぐみんなと仲良くなって、一体どんな裏技を使っているんすかね」
「え、あ、そういう……いや、そっちじゃなくて……まあ、はい」
裏技?そういう問題なのこれ。まあでも、確かに俺もそのコミュ力の秘訣とか知りたいし、欲しいところだ。人間関係楽になれば気持ちも楽になるのは間違いないからな。
でも、何となくわかる。人に好まれやすい容姿で、性格もクソ枚目で、気遣いもできる、それだけで人は寄ってくるものだ。裏技なんかじゃない。生まれ持った運や才能みたいなものだろう。
レッドはライの弁当を見て疑問を投げる。
「なあ、それってライが作ったのか?」
「ああ。僕は料理が得意でね。剣や魔法はからっきしだけど、他のところで何か役に立ちたくて。一つ食べるかい?」
「いいのか?その卵焼き1つ貰うわ」
「ああ」
レッドは躊躇もなくライから卵焼きを貰い口に頬張る。
「うめえ!すげえなお前、誰から教わったんだ?」
「ばあちゃんから、かな」
「へえ、ばあちゃんっ子か」
するとユリアも気になり始めてライに軽く頼んでいた。
「私も食べてみていい?」
「ああ。ユリアもどうぞ。どれがいい?」
「私も卵焼きで」
「分かったよ。はい」
ライが卵焼きを選び、フォークでユリアに渡す。こいつ、まさか“あーん”をユリアにしようとしてるんじゃないだろうな……!
ユリアもそう感じたのか、顔を赤くする。
「え?」
「ユリア?はは、何を期待してるんだい?普通に手で取って食べなよ」
「そ、そうだよね!?」
ユリアも卵焼きに手を伸ばして、それを手に取る。さっきから、ライとユリアのやり取りにイライラして、心が落ち着かない。なんだこの感じは。とにかく、目の前でイチャイチャされると邪魔したくなるわ。
俺はこっそりポケットに仕込んでいた杖を、隙間から放出して風を起こした。
「きゃ!」
ユリアはその風にびっくりして卵焼きを手から落とした。ライは「ああ……」とつぶやきながら苦笑する。
「ああ、落としちゃったか」
「ごめんなさい、ライ君……」
「いいんだよ、ユリア。また明日余分に作っておきますよ」
「本当?あはは、優しいんだね。私ちょっとドジだから」
ユリアも苦笑する。てか、明日もライ来るのか……。一生来なくていいのに。邪魔ができて一瞬、心の靄は晴れるけど、一時的なもので、すぐにまたライに対して憎悪を抱く。ああ、これが生理的に嫌いって感じなのか?とにかくすべてが俺の癪に障る。
これからも俺たちにくっついてくるなら、目障りだから邪魔させてもらうわ。
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昼飯も食って昼休みが終わり、ユリアと教室に戻ると、急にユリアが俺に小声で詰め寄る。
「ねえ、さっきの風魔法、チー君でしょ!」
「え?なんのことっすかね」
「忘れた?私は治癒師だよ?あの風の魔力を辿ればチー君がやったって分かるんだから」
くそっ、治癒師って他人の魔素が見えるんだ。でも、やっぱうぜえんだもん、あいつ。
「チー君なんであんなことしたの?」
「あ、えと、毒でも入ってるんじゃないかって」
「チー君!いい加減にしようよ!ライ君はそうじゃないと思う!もう……」
「え、あ……すみません」
ユリアにちょっと本気で怒られて、少しビビってしまう。でも、疑うってのは悪いことじゃない。自分の身を守るためだから。そもそもお前は元王族の姫なんだからもっと危機感を持てや。温室育ちでぬくぬく育ったから調子に乗ってんじゃねえよ……とは口が裂けても言えない。嫌われるから。
それに、まだヤンキの俺への復讐の件が終わったわけじゃないから、いまだに警戒は続けなければならない。まあ違うとは思うが、こいつもユリアを狙う暗殺者の可能性は0じゃない。
はあ、また俺はこの世界でも嫌われていくんだ。いや、いいんだよ。ユリアとライって、お似合いだよな。性格的にも、俺みたいなネガティブな奴より、ああいうポジティブなやつのほうが合ってる。
いいんだよ、俺にはネクラがいるし。嫌われたって構わない。俺は、前世から嫌われるのには慣れてるから……。




