第34話 体が勝手に動いちゃった
ユリアは不良共のもとへと歩いて行く。いじめ三人組は近づいてきたユリアに気づく。
「なんだ、てめえ、って可愛いなお前。名前なんだっけ」
「今忙しいんだけど、何の用?」
「お前も殴りに来たのか?」
話しかけられても、ユリアは落ち着いているように見える。さすがだ。そしてユリアは正面から不良共に言い放つ。
「そういうのダサいからやめたほうがいいと思う」
それを聞いた赤髪が目をぴくっと反応させた。
「ああ?ダサい?可愛い顔して言うじゃねえか」
「それはどうも。あなたたち、自分より弱そうな人を見つけてはそうやっていじめてるの、恥ずかしくないんですか?」
ユリア言うねえ。まさにその通り。まあ、俺もゲームとかで、わざと負けてレート落として初心者狩りしてたことあるのは俺だけの秘密や。うん。マジでごめん。底辺の人生送ってると、形が何であれ、他人に害を与えたくなるんだよ。
気づけば、ユリアは不良3人から一斉に罵声を浴びせられていた。
「ああ?女だからって何言っても許されると思ってんのか?」
「助けてる自分の事かっこいいとか思ってんの?マジきもいんだけど」
「お前も殴ってやろうか?」
えっと、緑髪のバカな顔のやつ、殴ることしか考えてないのかな、君。しゃべるたびに”殴る”って言葉が出てくるね。お前実はバカなだけで良い奴だったりする?
ユリアは動じずに言い返す。
「いいから、早くその子から離れてよ」
なかなか動じないユリアに赤髪はめんどくさそうになって、ユリアを完全に敵として睨む。ついに動くか。
「ああ?そうはいかねえな。よし。じゃあ選べよ。ここで俺たちにボコボコにされるか、諦めて自分の席に戻るか。どうする?」
「やってごらんよ、そんなダサいあなたたちに負けるはずないもの」
「チッ。後悔すんなよ」
赤髪のヤンキーが、すぐにユリアに殴りかかる。あいつ本気でユリアに殴りかかりやがった!だが、ユリアはすぐに後ろに飛び退いてそれを避けた。
ほう、意外だ。一応剣技の授業を真面目に受けているだけあって、ある程度の反射神経はあるっぽい。
そして赤髪のヤンキーの後ろにいたバカそうな緑髪が杖を持ち出して、ファイヤーボールを放とうと詠唱を始めた。うん。お前さっきまで殴る連呼してたのに魔法師だったんだ。ややこしいわ。
いや待て、教室でファイヤーボールを放とうとするなよ!マジでバカか!?燃えるだろ!
しかし、ユリアは相手の魔素を操れる。ユリアはすぐに緑髪に杖を向けると、ファイヤーボールの魔力を無力化された。緑髪は眉が跳ね上がり、動揺を見せた。
「なんで!?」
ユリアはそのまま土魔法の詠唱で石を錬成しそいつの顔面に飛ばし、ノックアウトさせた。おお、さすがユリア。
そしてギャルはユリアに後ろから接近するも、ユリアはギャルの魔素を感知していたのか、すぐに振り向いて、蹴りを体をひねって躱した。すぐ後退しながら詠唱し、ギャルに石を放ってノックアウトさせた。
すげえ、取り巻き?っぽい二人を一瞬で片付けた。ユリアって強かったんだ。もう騎士として俺が守る必要なくね?とりあえず、これで残るは赤髪のヤンキーだけだが……。
ヤンキーは再び殴りかかるが、ユリアはその予備動作を見て再び後退した。しかし、先ほどまでヤンキーはじっとユリアを観察していたからか、癖を見抜いていた。ユリアは必ずかわす時は後ろに飛び退く。それを読んで、ヤンキーはすぐに後退するユリアにそのまま詰め寄った。
再び拳を繰り出すも、ユリアは危機一髪で躱した。だが、ユリアは咄嗟の回避だったからかバランスを崩して、しりもちをついてしまった。
ヤンキーはそのままユリアに詰め寄る。後ろには壁で、ユリアは逃げ場を失くし、負けを悟ったのか、その場から動けず身体を強張らせていた。
「さて、どうやってボコボコにしてやろうか?」
「た、助けて……」
「おい、さっきまでの威勢はどうした?誰も助けねえぞ?さて、まずは一発!」
ヤンキーは拳を振り上げた。
その時俺は内心焦り散らかしていた。
結局こうなるのかよ!助けに行かなくちゃいけないのに、怖いし、でも行かなかったらなぜ守らなかったとメイドに後から言われそうだし、そもそもあんな怖い奴に勝てると思えないし。
足だって震えて動かねえ。行ったところでどうなる?声も小さいし、震えて、うまく動けなくてやられるかもしれん。
それに、結局俺だって、誰か助けてくれるだろうと思っていた。都合よくレッドが来てくれたりしないだろか、ブルーが助けてくれるべ、なんて。でもそんなことが起きるはずもない。
いま、まさにユリアが殴られようとしている。なぜか分からんけど、胸が締め付けられるような、ユリアが傷つけられるのが嫌だと思う自分がいた。どうすればいいんだ。
しかし、俺の身体は勝手に動いて、ユリアが殴られる瞬間に間に割って赤髪の振り上げたこぶしを掴んでいたのだ。
俺は青ざめた顔で冷や汗をかきぶるぶる震えていた。やっちまった……。周囲の視線が恥ずかしすぎる!
もちろん赤髪は俺を見て反応する。
「だ、誰だてめえ!」
「ひ!?」
俺は掴んでいたヤンキーの手をバッと速攻で離した。
「ち、チー君?」
ユリアは「なぜ?」と言いたそうに俺を見上げていた。
ヤンキーは俺を見て口元に笑みを浮かべていた。
「ほう、助けに来た割に、手はすげえ震えてんじゃねえか?怖いんじゃねえのか?あ?」
そうだ。今も、手はガチガチに震えている。怖いもんは怖いんだ。無意識に飛び出してしまったとは言え、トラウマが消えているわけじゃない。赤髪はさらに俺を問い詰める。
「おい、なんか言えよ」
「あ、その、え、あ、すすいません。許してください。殴らないでくださいお願いします」
「は?え、何こいつ。お、おい……おい!」
「ひい!?」
あまりの俺の動揺っぷりに、赤髪まで動揺していた。俺は赤髪と、前世の棒緑がシンクロして見えて、トラウマがフラッシュバックする。やばい。逃げるぞ。殺される。痛いのは嫌だ。
俺はもう頭がごちゃごちゃで、ユリアを置いてそのまま教室から出ようとしたのだが、俺の行く先にヤンキーが道をふさいでくる。
「おいおい、そのまま許されて逃げれると思うなよ?さんざん俺の邪魔をしたんだ。一発ぐらいは殴らせろ」
「ひっ!?あ、ああ、あそこに先生が」
「あ?お前声小さくて聞こえねえんだよ」
嘘やろ?必死でついたその場しのぎの嘘すら聞こえないって……。これ詰んだ?いつの間にか周りは俺たちを見てざわざわしている。
「誰あいつ、目死んでね?」
「あいつ剣技の模擬戦の時に逃げたやつじゃね?」
「てか、しゃべったとこ見たことないよね」
「いきなり現れてあいつの拳受け止めたけどやばくね?」
「声ちいさ」
言いたい放題だな……。だから目立つのは嫌なんだよ。
はあ、どうせ声小さくて聞こえねえんだ。それなら文句言っても大丈夫だろ。俺はぼそぼそとつぶやく。
「黙れよ変な髪形の自己顕示欲の高いゴミクズが」
「……てめえ!?誰が変な髪形だ!?ぶっ殺す!」
「ひ!?」
なんでや!なんでさっきのは聞こえなくて今回のははっきり聞こえてんだよ!
赤髪の血相が変わり、いきなり”ぶっ殺す”なんて物騒な単語を吐きながら、俺を本気で殴りかかってきた。




