第33話 学校と言えばのイベント
その後、またいつも通りの授業の日々に戻る。
特に何事もなかった。授業は相変わらず暇だ。まだまだ簡単な内容なので俺はその間に居眠りしてるか、絵を描いてるかって感じ。
居眠りしてもユリアは怒らなくなった。まあ、リーファに寝る許可をもらったようなもんだし。
話は変わるが、最近図書館ですごい魔法教本を見つけた。
詠唱短縮について書かれていた。極めれば無詠唱魔法も使えるようになると。しかも著者はまだ学園にも通っていない子供だとか。
すげえよな、やっぱ世の中俺よりすごい人も大勢いるんだよ。俺より年下で、前世の知識もないのに、だ。う~ん、でもさ、いくらなんでも、そんな幼い子が、魔法をそこまで極められるなんて、本当にあり得るのか?もしかしたら俺と同じ……。まあ誰でもいいや。
最近はその教本を読んで魔法にのめり込んでいた。魔法は詠唱のタイムラグがきついから、無詠唱まで極めてみたいものだ。
そんな本を見つけてから、1、2か月経ったくらいのことだ。学校生活と言えばこれだよね、というイベントが発生する。
そう、いじめイベントだ。集団でイキり散らかすガキどもだ。窓側の席で、3人の悪ガキが一人の男子生徒をいじめていた。その男子は、以前見た、ぼっち陰キャ君だった。相変わらず、けだるそうな死んだ目をして、どよ~んとした陰キャオーラを放っていた。
ガキどもを見て思う。この世界でも、人間なんて根本的に変わらねえよな。チー牛とか陰キャみたいなやつを狙って自分の欲を満たし、強さを誇張する。
本当にいじめかどうか?会話を聞いてればだいたいわかる。見た目で判断するのもあれだが、明らかに不良だ。
「おい、お前購買行って昼飯買ってこいよ、もちろんお前の奢りな」
「ねえ、ちょっと聞いてんの?いつもガン無視決め込んでるけど」
「殴られたいの?」
1人は赤髪とげとげ頭のいかにもヤンキーって感じ、もう一人はいかにも生意気な長髪茶髪のギャルって感じ、もう一人はバカそうなもじゃもじゃ緑髪。
陰キャ君はあそこまで詰められてなお、何もしゃべらないし動かない。詰め寄ってくる不良共には目もくれず、ボーっと窓の景色を見つめていた。少しでも弱みを見せないためか?
他のみんなは見て見ぬふりだ。当たり前だ。いじめの質の悪いところは、もし助けたりチクった場合、今度は標的が自分になることだ。
だから誰も動かない。そもそも、助けても自分に得なんてない、リスクを負ってまで、ただの自己満足のために、人のために助けるわけがない。よほどの正義感でもなければな。
知ってるか?人間の”助けたい”って気持ちは、感謝されたり、自分が良いことをしたという自分への、ただの自己満足にすぎない。結局人間のすべての行動は、理由はなんであれ”自分のため”に帰結するんだ。人間ってのはそういうもんだ。
ああいうの見てると、少し気分が悪くなる。ただ、生まれた境遇や容姿が悪かったり、性格がおとなしいだけで嫌われるんだ。
どこの世界でも同じだ。きもいから。暗いから。弱そうだから。俺もそうやっていじめられ、暴力を振るわれ、最後には自害を選んだ。ああ、思い出したくない。
陰キャ君を見てると、過去の自分を思い出す。助けたいとは思ってても、心にはいじめのトラウマを植え付けられていて動けない。
どんなに肉体的に強さを手に入れても、精神的にダメージを負っていれば行動に移せない。もしあいつらが強かったら?もし報復されたら?そもそも目立ちたくない。
「チー君体調悪そうだけど、大丈夫?」
いつものように、俺の隣に座っていたユリアが心配そうに声をかけてきた。また余計な気遣いはしてほしくない。
「まあ、大丈夫っす。ああいうの見てると気分が悪くなるだけですし」
「そうだよね。私が一言言ってくる」
は?ユリアはそう言って拳を握りしめて、席を立つ。
「いや待ってください」
ああ、いたよ、ここに正義感の強すぎる例外のバカが……。ユリアさんさすがにそれは危なすぎないか?相手がどれほどなのかもわからないし、この世界じゃ女だからっていじめの対象にならないわけじゃない。
そもそも、ユリアはいざ戦闘になっても魔法以外何もできない。魔法師はタイマンだと剣士にめっぽう弱い。
「危ないですから、やめてください」
「だけど、私自身も許せなくて……」
ユリアってほんと真面目というか、正義感が強いタイプだ。今までのユリアを見ていても、やはり真面目で優しい両親の影響を受けているのは間違いない。
真面目ちゃんだとは思ってたけど、こういうタイプってめんどくさいイメージが……。ほっとけと言っても多分ユリアは聞かないだろうし。
俺だって、陰キャ君のあの状況を見てると、過去の自分を見ているようで、あの不良共を痛めつけてやりたいところだ。なら、俺が行くしか……。
いや、待て。行かせてみるか?ユリアは魔法の才はあるし、案外簡単に不良共を沈めてくれるかも。
多分俺が行っても、しゃべれないし動けなくなるだろうし舐められるだろうし声ちっせえって言われるだろうし震えるだろうし。トラウマってのは恐ろしいものだ。
そうだよ!きっとユリアがボコしてくれる。ユリアは確かに魔法しか上手く使えないが、逆に極めているのでその辺の生徒より確実に強い。俺もユリアに魔法を教えてるしな。
ヨシ!俺は黙って静観していよう。俺はユリアにバイバイと手を振る。
「じゃあお願いします」
「うん。そうだね……待って、今のチー君が行く流れだったよね!?」
「まあ、ユリア強いし問題ないっすよ」
「むぐ~。まあいいけど、どちらにしても一人で行くつもりだったから」
ユリアは決意したようにそう言うと、そのまま不良たちのもとに向かう。さすがの行動力だ。
とはいえ、正直、自分が行かずに済んで、肩を落として、内心ホッとしてる自分がいる。前世でも、誰かがやってくれるのを待って、自分は何もやらないことが多かった。
まあどうせ俺が行っても役に立たんし、めんどくさいし、目立ちたくないし。
……行かなくて済んで、よかった。……そう思ってる俺って、クズだよなあ。
俺はユリアが不良たちに向かって歩いて行く後ろ姿を、ただ眺めるしかなかった。ユリアが震えていたとも知らずに。




